274話 親娘の関係
「こんな事してられねえ!すぐに部屋に踏み込むぞ!」
・・・ヒナが領主と再び関係を持ってしまった!
もしかしたら、前回の旅で俺の足止めをしないために、ヒナが養女にしてもらう条件として提示したのだろうか?
・・・なんて馬鹿な事をしたんだ。ヒナは・・・
「待って下さい。ゲン、このタイミングでゲンが目の前に現れたら傷つくのはヒナさんです!」
・・・確かにそうだ。
きっとヒナは、俺に気を使って、気が付かれない様に裏で根回しして平静を装っていたんだ。
こんな事が俺に知られたとわかったらヒナはひどく傷つくだろう。
「じゃあ、どうすればいいんだ?」
こうしている間にも、ヒナは望まぬ相手に体を弄ばれているのだ。
ヒナもヒナだ。
俺にあれだけ好意を寄せていると言っておきながら、他の男にそんなに簡単に体を差し出せるものなのか?
ましてやこういった記憶は過去のヒナのトラウマとなっていたはずだ。
・・・どうしちまったんだ?・・・ヒナ・・・
「ゲン、音が止みました。少し様子を見ましょう」
「行為が終わったって事なのか?」
「わかりません。でもベッドの軋み音はしなくなりました」
・・・もう、手遅れって事なのか・・・
今部屋に踏み込んだらタイミング最悪だな。
「ヒナが出て来るのを待つか」
「その方が良いと思います」
なんてことだ・・・ヒナがこんな事になっている事にも気が付かずにいたのか、俺は・・・
俺は自分の浅はかさを後悔した。
そして、それほど間を置かずに部屋の扉が開いた。
俺とシアは少し離れた廊下の曲がり角に身を潜めて様子を窺っていたのだ。
「どうですか?気持ち良かったですか?」
「ああ、最高の気分だよ」
「それは良かったです!では続きはお風呂でやりましょう!わたしももっと頑張りますよ!」
「すまないな、こんな事まで」
「いえ、わたしがやりたくてやってる事ですから!」
「それなら良かった。わたしだけが一方的に気持ちの良い思いをしていたのでは申し訳ない」
「お養父様に喜んで貰えるのがわたしも嬉しいんです!」
ローブ姿の二人はそんな会話をしながら浴場の方へ歩いて行った。
・・・今の雰囲気は・・・ヒナもまんざらでは無いという事か?
「シア、ヒナは自ら望んで領主に抱かれったっていうのか?」
「今の会話の様子からするとそう聞こえましたが・・・」
今のヒナは過去の不幸な記憶を全て思い出していて、その上でいつもあれだけ幸せそうに振舞っている。
過去を乗り越えた上で、未来への希望を持つというのは、そうそう簡単な事では無いはずだ。
それを実践しているヒナは、凄いと思っていたし、ある意味尊敬に値すると思っていたのだ。
だが、単純に不幸な過去を忘れたというだけでなく、それすらも受け入れたという事なのだろうか?
確かにここの領主はかつてヒナを買い取り、ひどい仕打ちをしたのかもしれない。
でも今ではそれを反省し、罪を償いヒナのために尽くそうとしてくれている。
ヒナがそんな領主に絆されて心を許してしまってもおかしくは無いのかもしれない。
「・・・ヒナがそれを望んでいるのなら・・・仕方ない事なのか?」
「でも二人は今は義理の親子の関係です。その様な行為は法的に認めらている事ではありません」
「・・・本当にそうならやめさせた方が良いという事か?」
「はい、二人の後を追って真相を確かめましょう」
「シア、まさかのぞき見するつもりか?」
ヒナと領主のその様なシーンを見てしまったら・・・俺は冷静でいられるのだろうか?
かつてヒナの過去の記憶を覗き見てしまった事はあるが、その時俺は冷静でいる事が出来ずに記憶に抗ってヒナを助けてしまった。
だがこれは・・・今実際に起こっている現実なのだ。
「ヒナさんのためですよ!ゲンがしっかり事実を受け止めてヒナさんを救ってあげないと」
「そうだな・・・ヒナが間違った道に進もうとしているなら俺が助けてやらないとな」
シアに説得されて、俺たちはヒナたちの後を追って浴場へ向かった。
脱衣所に入るとそこにはヒナと領主の着ていたローブ、それから下着が置かれており、二人が一緒に入浴中なのがわかる。
「わたし達も中に入りましょう」
シアがそう言ってネグリジェを脱ぎ始めた。
「俺たちも脱ぐのか?」
「もし見つかった時に着衣のままだと怪しすぎます。裸になっていれば、入浴に来て偶然出会ったという事にできますから」
「・・・確かにそうだな」
俺も部屋着を脱いで、下着に手をかけた。
「あっ、わたしがバスタオルを巻くまで後ろを向いていて下さい!」
見ると、俺の目の前で後ろ向きで下着を下ろそうとしていたシアが、振り返って顔を真っ赤にして半分脱ぎ掛けた下着戻すところだった。
一瞬だけシアの、白くて柔らかそうなかわいらしい尻が見えてしまった。
・・・しまった。
ヒナの事で頭がいっぱいで、目の前のシアの状況が見えていなかった。
危うく二人で同時に全裸になるところだった。
いや、既に何度もお互いの裸は見てはいるのだが、
やはり意識してしまうと、平静ではいられなくなってしまう。
今はヒナの事の方が重要なのだ。
別の事に気を取られている場合では無かった。
「すまん!シア」
俺は慌てて後ろを向いた。
「はい・・・わたしも後ろを向いて着替えていますので、いいと言うまでこっちを見ないで下さいね」
「ああ、俺も後ろ向きで着替える」
俺はシアに背を向けて下着を脱ぎ、タオルを腰に巻いた。
「こっちはもういいぞ」
「わたしも大丈夫です」
振り向くとバスタオルを巻いた姿のシアが立っていた。
何度も見慣れた姿なのだが、意識してしまうと何だか変な気分になってしまいそうだ。
シアも心なしか顔が赤い。
だが、今はそんな時ではない、ヒナがどうしているのか確かめに行かなければならない。
俺とシアは、息をひそめて浴場へと入って行ったのだった。




