267話 遠征への旅立ち
冒険者ギルドから依頼を受けた2日後に俺たちは旅立つ事になった。
シアは両親の確認を取ったところ、見合いの予定を考慮して2か月以内に帰って来る事が条件となっていた。
これは国同士の取り決めのため、どうにもならないそうだ。
つまり、それまでに俺はギルに勝利して上級剣士になっていないと、シアを手に入れる事が出来なくなるという事だ。
そして、それが果たせなかった場合は、シアはギルの物になってしまう。
シアの両親は出発の前日に俺のところに会いに来て、くれぐれもシアの事をよろしく頼むと挨拶していった。
前回の遠征での事件の事もあるので、シアから決して離れない様にと念を押された。
試験合格の事は信頼しているから不合格だった場合の事はあまり心配はしていないという事だった。
俺が試験に合格して貴族になれさえすれば、シアとの婚約が成立し、見合いの話はそれを理由に断る予定でいてくれている。
必要以上に信頼され過ぎるというのも逆にプレッシャーに感じてしまう。
ヒナの件もそうだった。
シアを王都に連れ帰り両親の元にシアを送り届けた後、落ち着いたところでヒナとの婚約の事をシアの両親に報告した。
もちろんシアの両親は最初は戸惑いを見せたが、ヒナの事情はその前から伝えてあったし、シアの救出にヒナの活躍が欠かせなかった事も説明してあった。
シアがそれでかまないのなら、自分たちが口を出す事では無いと言ってくれたのだ。
何より、ヒナの人柄をシアの両親はいたく気に入ってくれて、今ではヒナの事も自分たちの家族の様に接してくれていたのだ。
だから、この遠征ではシアだけでなくヒナの事も守り、無事に帰って来たあかつきには、必ず二人を幸せにする様にと懇願されたのだ。
そしてついに出発の日を迎えた。
「ごめんね。私が遠征に出られないためにみんなに迷惑をかけちゃって」
師匠が申し訳なさそうに俺たちに頭を下げた。
「仕方ねえよ、師匠は師匠で仕事がたくさん溜まってるんだろ?」
「仕事を放置していたララ様の自業自得です」
師匠はシィラにバッサリと切り捨てられていた。
「今回は俺もついて行く。心配するな」
ジオが師匠を慰めている。
「わたしも一緒ですので心配しないで下さい!」
ヒナも元気よく手を上げた。
「ヒナちゃんもよろしくね!、それにしても、ジオ様にしばらく会えないのは寂しいよ。仕事が片付いたら必ず追いかけるからね!」
「ララ様、今のペースでは到底間に合わないのでは?」
シィラの言う通り、師匠の仕事はあと二か月では終わらない見込みだそうだ。
「ううっ、それはそうなんだけど・・・」
「大丈夫だ、師匠。今回の遠征は俺達だけで解決してすぐに全員無事で帰って来る」
「依頼だけでなく、試験にもちゃんと合格して来るんだよ!」
「ああ、任せとけ!」
心配そうにしている師匠を残して俺とヒナ、それにジオは屋敷を出発した。
冒険者ギルドでシアとギルが合流する予定だ。
「このメンバーで遠征に行くのって初めてですね!楽しみです」
「ヒナ、遊びに行くわけじゃないからな」
「わかってますって!でもやっぱりワクワクしませんか?」
どうもヒナはいつも遊び感覚で困る
「そういった前向きな考え方は戦闘で有利に働く。ララがまさにそれを体現している」
ジオの言う通り師匠の強さの秘訣はそこにある気がする。
つまりヒナはまだまだ強くなる可能性があるって事か?
「あっ!ギルドの前にシアさまがいますよ!」
ヒナの指さす方を見ると、冒険者ギルドの建物の前でシアとギルが待っていた。
どうやらギルが一方的にシアに話しかけているが、シアがそれを無視している様だ。
「お待たせ!シアさま!」
ヒナが声をかけるとシアとギルがこっちに気が付いた。
「ゲン!それにヒナさんとジルさん。早かったですね?」
「ああ、少し早めに来たんだがシアも早かったな」
「はい、少し早めについてしまって・・・そうしたらギルさんも早く来ていて・・・」
「やあ残念。シアさんと二人きりの時間をもう少し堪能したかったけど、これでメンバーが揃ったね」
「わたしも、ララ先生の屋敷で合流すれば良かったです」
「つれないなあ。でも、これからもチャンスは充分に有るからね。ゆっくり距離を近づけていくよ」
・・・ギルもめげない性格だな。
しかし、本当にキアと性格が似ているな。
今回キアと被らないで良かったと言えば良かった。
現在キアは別の依頼で遠征に行っている。
ココさんと共同の依頼と聞いて、すぐに承諾したのだ。
あれからキアは結構ココさんと一緒に依頼を受ける事が多い。
ココさんに勝ったら抱いていいという約束をしているのだが、未だにココさんを抱く事は出来ていない。
「さて、全員揃った事だし、早々に出発するぞ。準備はいいな」
俺は出発の号令をかけた。
一応今回のパーティーのリーダーは俺という事になった。
このチームのベースとなる『黒曜石の剣』のリーダーが俺だからだ。
そもそもジオは『ジル』として新たに冒険者登録し『黒曜石の剣』のメンバーとして登録してある。
ギルドのシステム上、最初は必ず『下級冒険者』になってしまうのだがこれは仕方ない。
「はい!問題ありません!」
「わたしも大丈夫です」
「俺も問題ない」
「僕も問題ないよ。それではリーダーのお手並み拝見としようか」
ついにこのメンバでの遠征が始まるのだった。




