265話 依頼と試験
「お前が俺の試験官だと?どういう事だ?お前はこの王国の人間ではないし、ましてや上級剣士ではないだろう」
「ところがそうでもないのさ。僕は以前この王国に留学していた事があってね。その時に試験に合格し、王国の上級剣士に名を連ねているんだよ」
・・・確かに、外国人でも剣術大会に出場は可能だし、上位入賞すれば剣士試験の受験は出来るはずだ。
「まさか、お前が上級剣士だったなんて・・・」
だが、こいつになら勝てそうな気がしてきた。
「僕になら勝てそうな気がするかい?でも、試験では魔法は使えないからね。実戦で君が得意とする魔法剣無しで、果たして僕に勝てるかな?」
確かにそうだ。前にこいつと共に依頼を遂行した時は、俺は常にストーンブレードを使っていた。
「そうだな、それなら今回の依頼は魔法は使わずに遂行してやる。その上でお前にも勝って上級剣士になってやる」
「はは、それではお手並み拝見といこう」
ギルは相変わらずのキザったらしい仕草でそう言った。
「しかし、遠征中にいつでも試験が出来るのはいいが、立会人はどうするんだ?自己申告で済むとも思えないが?」
俺はギルド長に尋ねた。
「それなら問題ない。そこにいるジルに立会人としての資格があるって話だ」
確かに勇者であるジオは、上級剣士試験の立会人を引きうけるには十分な肩書を持っている。
・・・しかし、ジルの正体がジオである事はどこまで知られているんだ?
「この美しい方がどなたかは存じ上げませんが、相当腕が立つという事だけはわかります。共に旅ができる事を心より幸運と存じます」
ギルがジオの手を取って、手の甲に口づけをかわそうとした。
「そういうのはいい」
ジオはその手を振り払った。
「ははは、これはつれない・・・まあいいでしょう、きっと旅の時間が僕たちの距離を縮めてくれる事でしょう」
いや・・・多分それは無いぞ。
「つまり今回の依頼はこの5人のパーティーという事になるのですか?」
シアがギルド長に質問した。
「ああ、そういう事になるな。ヒナもそれでいいな?」
「はい!ぜひ参加させてください!」
ヒナは元気よく手を上げた。
「あんたはこの事は知ってたんだな?」
俺はジオに小声で聞いた。
「ああ、ララに頼まれていた」
知ってたんなら先に教えてくれ。
大方、師匠が俺を驚かそうと思って秘密にしてたんだろうが・・・
「シアさん!またご一緒出来て光栄です」
ギルは早速シアの手を握りしめていた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。いつぞやは助けて頂きありがとうございました・・・でもその、この手は離していただけますか?」
「おっと、これは失礼」
ギルはシアの手を離し、敬礼をした。
「あの後も色々大変だったそうですね。お力になれず大変残念に思います」
「いえ、ゲンとヒナさんのおかげで、こうして無事に解決しましたので」
「それは良かった。次の遠征では必ずお役に立って見せます」
・・・いちいちセリフと行動が芝居がかってんな。
「そしてあなたはヒナさんですね?ずいぶん元気になられた」
「ええ、おかげさまで。今はこうしてゲンさまと共に充実した生活を送っています」
ヒナは若干どや顔気味に、にっこりと微笑んだ。
「なるほど、ゲン殿はなかなかの甲斐性をお持ちの様だ。もしかしてお二人を妻に迎える予定という事かな?」
・・・そうはっきりと聞かれると答え辛いな。
「・・・ああ、一応・・・その予定だ」
「ゲンさま!一応じゃなくて、ちゃんと約束してくださいましたよね?」
すかさずヒナに突っ込まれた。
シアも、顔を赤らめながらも、少し拗ねた顔で俺の方を睨んでいた。
ここは男として中途半端な態度は見せられねえな。
恥ずかしがっている場合じゃねえ。
「ああ、そうだ!俺はこの二人を妻にする!必ずそうすると約束したからな!」
俺は声を張り上げてギルに向かって宣言した。
「ゲン・・・」
「ゲンさま・・・」
そんな俺をシアとヒナが嬉しそうに俺を見つめていた。
「ふふっ、かっこいいですよ、ゲン殿」
ギルはにこやかに微笑んでいた。
「でも確か?この国の法律では平民には一夫多妻を認めていませんよね?・・・ああそうか!それで上級剣士になる事を懇願していたんですね?上級剣士になればこの国の貴族位が手に入りますからね」
そうか・・・ギルが上級剣士って事は、この国において貴族って立場になるわけだ。
ギルは少し考え込んでから話を続けた。
「なるほど・・・それでは万が一、ゲン殿が上級剣士試験に合格できなかったら、どちらか一人とは結婚できないという事ですね?そもそも貴族であるシア殿とは結婚できないでしょうから、その時はゲン殿の妻はヒナさん一人だけという事になる訳ですね?」
「それは!・・・確かにそうなるが、俺は必ず上級剣士になって見せる」
「それって、僕に勝つ事が出来れば・・・という事ですよね?・・・ふふ、おもしろい。つまり僕がゲン殿に負けなければ、僕にもシアさんを手に入れるチャンスが出来るという事ですね?」
「なんだと?」
「おや?君は自分が上級剣士になれなかった時には、シアさんを誰とも結婚させないつもりですか?」
・・・確かにこいつの言う通り、その時はシアは政略結婚で他国の王子に嫁がされる事になる。
そんな事になるくらいなら、他に好きな奴を見つけて結婚した方が幸せなんじゃないのか?
一瞬、そんな考えが頭をよぎった。
「ふふふっ、それでは賭けをしませんか?この遠征の間にゲン殿が僕に勝つ事が出来れば、当然、ゲン殿は上級剣士になってシアさんを手に入れる事が出来る。しかし、遠征が終わるまでの間に僕に勝つ事が出来なければ、僕にシアさんを譲るというのは?」
ギルがとんでもない提案を持ち掛けてきたのだった。




