263話 勝利の報告
「ゲン、上級剣士試験一人目通過おめでとう!」
婆さんとの試合に勝利し、上級剣士試験の合格条件の一つを達成した俺に、仕事が長引いて帰宅が遅くなった師匠が帰ってくるなり俺のところに来て声をかけてくれた。
「ああ、ありがとう、師匠。これもジオを指導に当ててくれた師匠のおかげだ」
「えへへ、今回はジオ様の功績だね!祝賀会の料理の仕上げをしてくるから待っててね」
師匠はそう言うと厨房の方へと消えていった。
例のごとく、結果を待たずしてメイド達に祝賀会の料理の準備をさせていたのだ。
・・・不合格だったらどうするつもりなのだろう。
料理は相変わらず、初めて見る料理がいくつもある。
「この前は浮遊大陸の料理をアレンジしたものが中心だったけど、今回は獣人の国の料理を元にしたものがメインだよ」
師匠は前回の遠征で、空に浮かぶ浮遊大陸の国の他に、獣人だけが住む国にも行ったそうだ。
浮遊大陸の国も獣人の国も、いずれもこの王国の把握している世界地図には載っていなかった国だ。
獣人というのは、この国でもたまに目撃される事があるが、動物の耳が生えていたり、動物のしっぽが生えていたりする人間の事だ。
それ以外は普通の人間と変わらない。
だが師匠が行ってきた獣人の国の獣人は、人間の体形はしている者の、全身が動物の毛に覆われ、頭はほぼ動物そのままだったそうだ。
この国で見かける獣人というのは、どうやら、師匠の行ってきた獣人の国の獣人と普通の人間との間に生まれたハーフではないかとの事だった。
「獣人の国はとにかく果物が豊富でね、珍しい果物の種をいくつか貰って来たんだよ」
どうやらその種を魔法で成長促進させて収穫したのだそうだ。
「とても甘いけどさっぱりしていて、いくらでも食べられそうですね」
甘いものが好きなシアは、フルーツの盛り合わせが、いたく気に入ったようだ。
「でも、食べやすいから、気を付けないと食べ過ぎて太っちゃいますね。こんなものをいつも食べている獣人達は肥満にならないんでしょうか?」
ヒナもそう言いながら次々とフルーツを食べていた。
「ヒナちゃん、獣人たちは活動的でバイタリティがあるから、カロリーの高い食事をしても太らないんだよ」
「そうなんですか?ララさま」
「うん、みんないつも活気にあふれていたからね」
「どういう国だったんですか?」
シアが師匠に質問した。
「そうだねえ?見た目が私達とは大きく違うけど、根本的には一緒かなあ?文化や生活習慣も大して違わないし・・・あ、でも大きく違うのは結婚制度かな」
「結婚制度がどう違うんですか?砂漠の国みたいに多夫多妻制とか?」
「獣人の国では繁殖期になるとみんなが一斉に子作りするんだよ。その繁殖期の間にパートナーを見つけて結婚して子供を作るんだ」
「それではわたし達と大して変わらないのではないですか?」
シアが首を傾げながら師匠に問いかけた。
「ところが次の繁殖期には、前回とは別のパートナーを見つけないといけない決まりなんだよ」
「それって、毎年違う相手と結婚しなければならないって事ですか?」
「そう言う事、同じ相手とずっと一緒にいる事が出来ない決まりみたいだね」
「そんな!・・・わたしにはその国は無理です。一生ゲンだけを愛し続けたいのに」
「わたしもシア様と同意見です。ゲン様一人に一生ご奉仕し続けますね」
シアとヒナが俺の両脇に擦り寄って来た。
「・・・でもゲンは、その国に行きたいとか、思ってませんよね?」
「そうですよね、ゲンさまは、いろんな女の人と子供を作りたいみたいですし・・・」
シアとヒナがジト目で俺を見上げている。
「そんな事ないぞ。俺はお前たち二人がいればそれでいい」
「そうですかぁ?今日もお婆さんにエッチな事してましたし」
「ゲンの守備範囲の広さにはあきれました」
「そうだ!聞いたよ。今日の試験でコウ様にまでエッチな事をしたんだってね」
師匠が両手を腰に当てて俺の間に立ちはだかった。
師匠にしては珍しく、目が少し怒っている。
「神聖な試験で相手の女性を裸にして勝利を得るなんて、どうかと思うんだよね」
「いや、違うぞ、あれば事故だったんだ。わざと裸にしたんじゃねえ。それにあんな強ええ婆さん、あの隙をつかなけりゃ勝てなかった」
「まあ、ルール上は勝利だったって話だけどさ。でも本気でコウ様を抱こうとしたんだって?」
「あれは婆さんがやたら挑発して来たから、からかっただけだ」
「それでも、女性に対しては紳士的に接しないとだめだよ」
「ああ、もちろんそのつもりだ・・・だが、いつも俺の意図に反して事故が起きるだけだ」
「確かにそうですね。ゲンの周りにはなぜかいつも、エッチな事故が良く起きるんですよね」
シアが困り果てたような顔をしている。
「まあ、わたしはそのおかげで何度もいい思いをさせてもらってますけどね」
「ヒナさん!まさかわざとじゃないですよね?」
「偶然ですよ、偶然。でもシア様だって何度もその恩恵にあやかってますよね?」
「・・・まあ、それは確かにそうですが・・・」
シアが、ちょっと顔を赤らめながらうつむいてしまった。
「でもこうなると、ゲンさまの身近な女性で、エッチなイベントが発生していないのってララさまだけではないですか?」
そうなのだ。
これだけ女子に係わる事故が起きているのに、師匠とだけはそういったハプニングが発生しないのだ。
「確かにそうだね・・・でもここまでくるとそれも時間の問題かなって気になって来るよ」
師匠、そうなったら甘んじて受け入れるつもりなのか?
「わたくしも遭遇しておりません。これは脱いだ方が宜しいという事でしょうか?」
部屋の片隅で待機していたシィラがメイド服に手をかけようとしていた。
「それであればお供します」
隣にいたテンも同じくメイド服を脱ごうとし始めた。
「あなたたちはそんなサービスしなくていいよ!」
そんな二人を師匠が、慌てて止めに入った。
「そうですか、まだゲン様との距離が遠いという事ですね?もっとゲン様と親密になる様に努力します」
シィラはノリでボケたみたいだが、テンは真面目にそう答えていた。
やはり師匠の周りは変な奴が多いな。