260話 老婆の色香
・・・このばあさあん・・・一体何を言っている。
「儂みたいなばばあが相手なら失敗しても構わんじゃろ?おぬしが一人前の男になるまで鍛え上げてやるわ!こう見えて儂も若い頃はおぬしの彼女たちに負けない位の美女だったんじゃよ」
婆さんは、聞いてもいない事を語り始めた。
「男どもは皆、儂に夢中でな、この国の多くの上級剣士は儂が男にしてやたんじゃ!」
婆さんはかなり自慢げにそう言った。
「その儂が久しぶりにおぬしを男にしてやろうと言うんじゃ!有難く思え!」
・・・有難い訳あるか!
俺は初めての相手はシアと決めてるんだ。
何が悲しくてこんな萎れ切った婆さんとしなきゃいけねえんだ?
・・・だが、これが、もし師匠だったら・・・
一瞬余計な事が頭の中をよぎったが、今はそんな事を考えている場合ではない。
「そんな事は関係なく俺は勝つ」
俺は手を休めずに婆さんに切り込んだ。
「ほっほっほっ、どうやら本気で儂を抱く気になった様じゃな?」
「違うわ!」
「まあ良い、おぬしが儂に勝った暁には、儂を好きにするがいい」
こんなふざけた婆さん、さっさと倒してやる。
婆さんが俺に気がつかれない様に間合いを外してくるなら、俺は更にもう一歩踏み込めば良いだけのはずだ。
俺は打ち込みの際に、いつもの間合いより更に少し前のめり気味に踏み込んだ。
間合いが近づくという事は俺もそれだけ無防備になるという事だが、この婆さん、さっきから俺にまともに打ち込んでいない。
この体つきと体力なら、仮に剣戟を受けたとしても大したダメージにはならない。
試験だから有効打を受けなければいいだけの話だ。
俺の捨て身の打ち込みは、これまで掠る事も無かった婆さんのローブに届き、その一部を切り裂いた。
練習用の剣とは言っても、この剣速であればボロボロのローブくらいなら引き裂けてしまう。
「ほう、これはこれは!・・・少しずつひん剥いて、まずは儂の裸体を堪能しようという作戦じゃな?この好き物め」
・・・相変わらず口の減らないばばあだ。
だが、今のが有効である事は分かった。
「安心しろ、婆さんが裸になる前に決着をつけてやるよ」
「なんじゃ、遠慮せずとも良いぞ?ほれ」
婆さんは俺の猛攻を片手で持った杖でいなしながら、もう片方の手でローブの肩をはだけたのだ!
「婆さん、ローブの下には何も付けていないのか?」
はだけたローブの下はそのまま素肌だったのだ。
「そうだと言ったらどうする?」
「いいからさっさとしまえ!」
「こっちも見たいかの?」
婆さんは今度はローブの裾をたくし上げたのだ。
ローブの下からひょろひょろの生足が見える。
・・・何見せやがるんだ、この婆さんは。
「ふぉっふぉっふぉっ、儂の色香に動揺しておる様じゃな?剣速が鈍ったぞ」
・・・確かに驚いて動きが鈍ったが、決して色香のせいではない。
「さて、動きやすきなったし、そろそろ本気を出すとするかの?」
婆さんはたくし上げたローブを腰で縛ってミニスカートみたいにしてしまった。
「ほれ、おぬしの大好きなミニスカートにしてやったぞ」
・・・ガリガリの太ももを見せられても何も感じないのだが・・・
シアの太腿も結構細いのだが、それとはまったくの別物だ。
「では行くぞ、油断するでない」
婆さんがいきなり俺に切り込んできた。
むき出しになったガリガリの足の、足さばきが尋常じゃない。
とんでもない速度で俺の懐に飛び込んできた。
一瞬で俺の間合いの内側に入り込む。
俺は慌てて婆さんの剣を体の前で剣で受け止め、後方に跳んで距離を取る。
・・・なんだ?今の動き・・・まるで師匠の動きみたいだった。
「ほっほっほっ、さっきのおぬしと同じ間合いに入ったんじゃが、良く躱したの」
婆さんは瞬間的にあれだけの動きをして息一つ乱してはいない。
「やっぱりスカートはミニの方が戦いやすいのう」
婆さんはチラッとジオの方を向いた。
・・・なるほど、ファッションに全く興味のないジオがあんな色っぽいミニスカート姿なのは単に機能性重視って事か?
確かに婆さんの動きは足をむき出しにする事により、明らかに良くなった。
だが、それは俺にとっても有利な条件でもある。
今まで見えなかった足さばきが丸見えなのだ。
ローブに隠れていた時よりも次の行動が読みやすくなった。
足の動きに注目していればかなり予測しやすくなる。
実際、機動性の上がった婆さんについていけている。
「儂の足ばかりじろじろ見て、やはり儂の体に興味津々ではないか?それならこれでどうじゃ?」
婆さんは、今度はローブから両腕を抜き出して、胸の上でローブを縛った。
両肩と胸元までが露わとなったのだ。
「これで腕も動かしやすくなったわい」
・・・とんだ露出狂婆さんだった。
そんな事を考えていた一瞬で、婆さんの杖が俺の喉元に迫っていた。
間一髪でそれを躱すが、目の前には婆さんの胸元が迫っていた。
婆さんの胸は思ったほど萎びておらず、意外とふくよかだった。
ローブを縛ったためにしっかりと谷間まで出来ていた。
「儂の色香におぼれて油断してると、一瞬で試験が終わっちまうよ?」
「溺れるか!」
俺はカウンターを放ちながら婆さんから距離を取る。
「今のを躱して反撃に出るとは大したもんだね?おぬしが儂の色香に惑わされていなかったら危なかったよ」
・・・別に色香には惑わされていない。




