表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【9章開始】勇者を名のる剣聖の弟子  作者: るふと
第八章 上級剣士
260/323

259話 老婆の剣

 この婆さんが俺と戦うってのか?



 どう見ても立っているのがやっとって感じのよぼよぼの老人だ。

 大丈夫なのか本気で戦って?


 服装もくたびれたローブを纏っていて、剣士というよりはそれこそ『魔女』みたいだ。

 剣はローブの中に潜ませているのか、どのような剣を持っているのかもわからない



「では試験を開始します」




 レィアの掛け声で試験が始まった。




 ・・・しかし本当に本気で打ち込んで良いものだろうか?




「どうしたんだい?・・・かかってこないのかい?」


 俺が戸惑っていると老婆がしわがれた声で語りかけてきた。


「お前さんが近づいてこなけりゃ、儂の方から歩いて行かなけりゃならないじゃないか。こちとら立ち上がるだけでも体中が痛いんだ。年寄りに無理させるもんじゃないよ」




 ・・・歩くのも億劫な老人が剣で戦おうなんて思うなよ。




「どうしました?仕掛けないのであれば戦意が無いと見なして試験は不合格となりますよ?」


 レィアに警告を出されてしまった。

 これはこちらから仕掛けない訳に行かない。




「じゃあ、いくぜ、悪く思うなよ婆さん」


 俺は婆さんに接近し、まずは様子見のため軽く剣を振った。


 万が一本気で打ち込んで当たり所が悪かったら、そのままポックリ逝ってしまうかもしれない。

 そんな事になったら寝覚めが悪い。


 しかし予想に反して俺の剣は空を切った。




 ・・・今のは軽く当てるつもりで振ったんだが?


 老婆は避ける訳でも件で受け止める訳でもなく、ただそこに立っているだけの様に見えた。

 だが、老婆の体に当たるはずだった俺の剣は虚しく空を切ったのだ。


 俺は剣を返し再び老婆に切りかかった。

 今度はさっきよりも本気で打ち込む。


 しかしそれも老婆に届かなかった。


 老婆が動いた気配はないのだ。

 避けなければ俺の剣は確実に老婆の体を捉えていたはずだった。


 俺は更に剣を打ち込んだ。

 今度はかなり本気の打ち込みだ。


 それでも老婆に届かない。


 今回もやはり老婆が動いた気配を感じなかった。

 だが、三度の打ち込みで、老婆の立っている位置は明らかに最初の位置とは異なっているのだ。


 ・・・いつの間に移動したんだ?




「おやおや、威勢のいい小僧かと思いきや、意外と年寄りに優しいんだね?でも遠慮しなくていいんだよ?」


 ・・・確かに最初は遠慮してたが・・・・


 こいつは本気でいかねえとだめかもしれねえな?


 俺は遠慮しないで、本気の打ち込みを何度も繰り返した。


 しかし、ことごとく老婆に届かないのだ。


 俺の目は老婆を捉えたまま、間合いも完璧なはずだった。

 だが、気がつくと俺と老婆の間合いがずれているのだ。


 まるで魔法でも使われているみたいだった。




 ・・・まさかこいつ・・・本当に魔女なんじゃないだろうな?




「ちなみに魔法なんか使っておらんよ」


 俺の考えを読まれているかの様に老婆が語りかけてきた。


「この風体なんで、よく魔女かと聞かれるんじゃが・・・儂もミニスカートでも穿いたの方が良かったかの?」


「誰が婆さんの生足なんか見たいかっ!」


「そうか?・・・さっきからおぬしを応援しておるめんこいおなご達も生足を出しとるじゃろうが?」


 婆さんが言ってるのはシアとヒナとジオの事だろう。


 三人とも今日は私服姿だ。


 シアとヒナは膝丈のスカートで生足といっても膝下しか見えていない。


 ・・・だが、なぜジオはミニスカートなんだ?


 それも結構きわどい短さだ。

 下手に動くと中が見えてしまいそうだ。


「ほう?あの三人の中では黒髪の娘が本命かの?」


「なっ、何を言っている!」


「さっきから黒髪の娘ばかり見ておったではないか?」


 この婆さん、この状況下で俺の視線をそこまで正確に把握してるのか?


「違う!足を見ていただけだ!」


 ・・・んっ?何を言ってるんだ、俺は?


「ふぉっふぉっふぉっ!ただスケベなだけかの?」


 ・・・うっかり墓穴を掘ってしまった。




「・・・おぬし・・・童貞じゃな?」




「なっ、何を言ってやがる」


「儂にはそういうの、分かるんじゃよ。あんなめんこいおなご達に好かれておって、まだ童貞とはのう・・・おぬし・・・相当なヘタレじゃな?大方、初めてで失敗するのが怖くて手が出せずにいるのじゃろ?・・・おぬし、さては早漏じゃな?」




 ・・・図星だった




「ふざけるな!ばばあ!」




 恥ずかしさで頭に血が上った俺は、自分でも信じられない程の一撃を放った。




 そして、その一撃は初めて老婆に届いたのだ。


 しかしその一撃は老婆の剣・・・いや、杖によって弾かれた。




 ついにローブの中から姿を現したその杖は、捻じれた木の枝で出来ており・・・絵にかいたような魔女の杖だった。




「ふぉっふぉっふぉっ、今のはいい一撃だったのう・・・図星を指されて頭に血が上ったか?・・・若いのう」


「だまれ!ばばあ」


 俺はさらに勢いを増して猛攻を続けた。


 しかし、老婆はそれをことごとく杖で捌いていく。


「ほう?さっきまでよりずいぶん動きが良くなったのう」


 老婆は、その猛攻も殆ど動かずに流れる様に杖で逸らしていく。


 まだ余裕があるみたいだな・・・


 やはり、現役の上級剣士ってのは伊達じゃなかった。

 だが、何とか突破口を見つけてこいつを倒さねえと試験に合格できねえ。




「ふふ、若いねえ・・・じゃが、おぬしの事は気に入ったよ・・・よし!こうしよう!もし、おぬしが儂に勝ったら、儂が自ら筆おろしさせてやろうじゃないか」




 ・・・老婆がとんでもない事を口にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ