257話 師匠の使い魔
「この身もこの心もララ様の物です。あなたの物になる事はありません」
キアの申し込みはテンにあっさり否定された。
・・・それにしても『使い魔』って・・・物語の中では魔女のしもべとなる動物の事だよな?
って事は人間の姿をしてるけど人間じゃないのか?
「そんな事より、食事にしようよ! 旅先で覚えた新しいレシピがたくさんあるんだよ?」
師匠とシィラ、それにテンはテーブルに次々と料理を並べていく。
「わあ!見た事もない料理がたくさんあります!」
ヒナがテーブルの料理の数々を見て喜んでいる。
「まだまだ珍しい料理がたくさんありますよ」
シアも新たにいくつもの料理を運んで来た。
「どうしたんだ?こんなにたくさん」
「ララ先生が旅先で覚えたレシピを全部作るって言って・・・こんなになっちゃいました」
「師匠、いくら何でも作りすぎだろう?」
「あはは、忘れないうちに一通り作っておこうと思って、材料を集めておいたんだ。でも、この国では手に入らない食材も多くて、代替の材料で作ったものも多いんだよね。でも味はかなりオリジナルに近づけたつもりだよ」
俺たちは食卓を囲んで師匠の作った一見風変わりな料理を食べ始めた。
「見た目は不思議だけど味は最高だね」
「ほんとうです。このパンなんかボリューム感のわりにおなかが膨れなくていくらでも食べられそうですよ」
早速がっついていたキアとヒナは大絶賛だ。
「ララ先生がこの国で手に入る材料を吟味して、調理方法もアレンジしながら異国の味や食感を忠実に再現したそうですよ」
シアが師匠の料理の腕前を絶賛していた。
「本当は現地から材料を持ち出せればよかったんだけど・・・あの国からは人も物も持ち出せなくて・・・唯一連れだす事が出来たのはテンちゃんだけだったんだよ」
言いながら師匠はぽろぽろ涙をこぼし始めてしまった。
「うわーん。ラル、ジル」
師匠はジオに縋り付いておいおいと泣き始めてしまった。
聞いた話によるとその国はこの世界と時間の流れ方が違うらしいのだ。
今回の旅の間は偶然時間軸が重なったために行き来が出来ていたそうだが、時間軸がずれてしまった後は不老不死でもなけば、 国から連れ出すと時間軸がずれて存在が消滅してしまうらしいのだ。
例外として、魔女の様に不老不死の存在であれば、時間を超えて、存在し続ける事が可能という事らしい。
・・・そうなると・・・この、テンという少女は魔女なのだろうか?
魔女でないにしても不老不死である事は間違いないのだろう。
少なくとも普通の人間ではないという事だ。
「テンちゃんはその空に浮ている国から来たの?」
ヒナが気さくにテンという少女に声をかけた。
「元々は浮遊大陸ではない別の場所に住んでいました。浮遊大陸の地下迷宮に召喚されてララ様と知り合ったのです」
「へえ、空に浮かぶ大陸なのに地下迷宮があるんですね?でもそれって、地面を突き抜けて下におっこっちゃうんじゃないの?」
「それは大丈夫です。地下迷宮の中は外とは別の空間に繋がっている様でしたので」
「ああ、そういえば氷雪の国の地下迷宮も空間の広さがおかしかったから、同じようなものなのかもしれないね」
テンは相変わらず表情の変化が少ないが、ヒナとは打ち解けたみたいだった。
その後、いつの間にか泣き止んでいた師匠も話に加わって盛り上がっていたのだが、結局テンが何者なのかわからなかった。
翌日はいつものように日課の朝練を行った。
俺の相手はジオが務めてくれているのが、隣ではヒナとテンが模擬戦を始めていた。
レイピアを手にしたテンはヒナと互角の戦いを繰り広げている。
テンの腕前はかなりのものだ。
今はヒナに合わせているのかもしれないが、実力はそれ以上かもしれない。
剣の技は、その見た目と同じ様に師匠とジオの技を合わせたような戦い方をしている。
年のころはヒナよりもさらに幼く見えるが実際の年齢は全く違うのかも知れない。
技の切れはかなりの修練を積んだものの動きに見えるのだ。
「よそ見をするな。こちらも行くぞ」
ジオが俺に切りかかって来た。
反応が一瞬でも遅れていたらまともに攻撃を食らっていた。
紙一重で躱し反撃に出る。
ジオといい、テンといい、見た目は少女なのに技の切れは人の限界を超えている。
俺の周りはどうしてこんな人間ばかり集まっているのだろう?
しばらく打ち合いをやった後、休憩をはさんで対戦相手を替える事になった。
今度はテンが俺の相手だ。
レイピアを構える姿は師匠にそっくりだ。
年齢は幼く体も小さいが、数年前の師匠はこんな感じだったのだろうか?
「それでは始めます」
テンが俺に打ち込んできた。
その動きも師匠にそっくりだ。
俺の攻撃に対する返しや、そこからのトリッキーな連続技も師匠によく似ている。
「師匠の技を再現しているのか?」
「はい、ゲン様と対戦する時はその様にしろとララ様から承っております」
「そうか」
しかし本当に一挙手一投足が師匠の動きと完全に一致している。
そして、そんな事をしながら俺と互角に戦っているという事は、テンの真の実力は俺以上なのだろう。
・・・本当に何者なんだ?こいつは?




