235話 師匠の師匠と剣術講座
ホームルームでの騒ぎも治まり、授業が始まった。
新学期の一時限目でもあり、学院での注意事項やカリキュラムの説明などを聞かされた。
2時限目以降は殆どが選択講座の時間だ。
当然俺は全ての選択講座を君術講座一択にしてある。
ジオとヒナも同様だ。
逆にシアは殆どの時間を魔法士講座にあてている。
上級魔法士であるシアは、通常のカリキュラムを受講しても仕方ないが、ミト先生やアン殿下と共に魔術師に向けての鍛錬を行うそうだ。
同じく上級魔法士の俺とヒナも魔法士講座に誘われたが、俺は今それどころではないし、ヒナも今後は剣術に力を入れたいという事で、魔法使講座には参加しない予定だ。
・・・ただ、シアが寂しそうなので時々は参加するつもりだが・・・
「ゲンさま!ジルさま!一緒に剣術講座の訓練場に行きましょう!」
1時限目が終わるとヒナが元気良く教室に飛びこんできた。
「ヒナさん、ジルの事、後はよろしくお願いしますね」
「はい!お任せ下さい!」
シアがヒナにジオを任せて教室を出て行った。
「さっ、わたし達も行きましょう!」
ヒナは俺とジオの間に入ってそれぞれと腕を組むとぐいぐいと引っ張っていった。
「こらっ、ヒナ、腕を組むな」
「いいじゃないですか?わたし達もう婚約者同士ですよね?」
「それは確かにそうなんだが、正式に婚約した訳じゃねえ・・・学院でその事を言ってねえだろうな?」
「まだ誰にも言ってませんけど、言っちゃダメなんですか?」
「当たり前だ」
「えーっ、みんなに自慢したかったのに」
上級剣士試験に合格して貴族の身分を手に入れるまで、この国では重婚は認められない。
シアとヒナ、二人と同時に婚約する事は出来ないのだ。
・・・もっとも、シアともまだ正式に婚約した訳ではないのだが・・・
とりあえず組んでいた腕を外して訓練場まで歩いて行った。
「じゃあ、着替えてきますね。ジルさまはこっちですよ」
ヒナはそう言ってジオを女子更衣室に連れて行こうとした。
「ちょっと待て!ジルを女子更衣室で着替えさせるのか?」
「当たり前じゃないですか?他にどこで着替えさせるんですか?」
・・・確かに、ジオを男子更衣室で着替えさせる訳にはいかなかった。
「ヒナは・・・いいのか?ジルに着替えを見られても?」
「・・・?別に構いませんよ?ジオさま・・・いえ、ジルさまだって女の子の体なんですからおあいこです」
・・・?その考え方は正しいのか?
「俺はララ以外の女性の裸を見ても何も感じない。特に問題は無い」
つまり師匠の裸を見ると興奮するって事だよな?
鼻の下を伸ばしているジオというのが想像できないが・・・
「それはそれで、なんか悔しいです。ジルさまにわたしの裸を見て何か感じてほしいです」
ヒナは一体何のこだわりを持っているんだ?
・・・そして結局ジオは女子更衣室へと入って行った。
しばらくして更衣室から出てきたジオは、青と黒を基調とした師匠とおそろいのデザインの附加装備を装着していた。
そう、今日は実戦装備を使った訓練の日だったのだ。
当然俺やヒナも附加装備を装着している。
白と薄緑を基調とした装備ヒナが、さながら『森の精霊』なら、青と黒で構成された装備のジオは『夜の女神』といったところだろうか?
ふたりが訓練場に移動したところで再びどよめきが起こった。
当然、剣術講座は男女比で男子の比率が多くなる。
しかも全学年合同なのでそれなりに大人数が集まっているのだ。
大勢の男子たちが二人の周りに人が集まってきた。
今度はヒナが、さっきのシアの様にジオの紹介をする羽目になっていた。
俺はやはりさっきと同じ様に人だかりの外へと追いやられていた。
そして・・・ジオが既婚者だと説明すると、教室の時と同様に舞い上がっていた男子たちは、一気に絶望の底に沈みこんでいったのだった。
そこに講師たちがやってきて講座が始まった。
ジオは外国にいたため資格は持っていないが、上級剣士並みの実力の持ち主だと講師から説明があり、再びどよめきが起きた。
そして、同等の実力を持っている俺がジオと模擬戦を行う事になった。
・・・まあ、元々それが目的でジオが学院に入学したのだから当然の成り行きだ。
剣術講座の講師たちは上位の者でも中級剣士で、師匠の様な特別講師が来ない限り、上級剣士試験に挑もうとする俺の練習相手になる奴はいないのだ。
唯一同レベルの実力を持ったキアは、上級冒険者としての依頼を遂行中で国外遠征に行っている。
実は俺にも次の依頼が来ていたんだが、上級剣士試験を優先させるべく断らせてもらったのだ。
「では、始めようか」
俺と対峙してロングソードを構えているジオはとてつもない威圧感だった。
他の連中は知らないだろうが、俺の目の前にいるのは本物の勇者で、しかも剣も装備も勇者としての正式な装備なのだ。
まともに戦ったら俺なんか一瞬で倒されてしまうだろう。
さすがにみんなもジオのただならぬ迫力は気がついた様だ。
もちろんジオが本気を出す事は無いのだが、朝練と同じで上級剣士並みの力は発揮するはずだ。
そのためにジオの実力がそれくらいだと皆に紹介してあるのだ。
「本気でいくぜ!」
俺はジオに向かって駆け出そうとしたその時・・・
「ちょっとまったぁ!」
聞きなれた声に振り返ると、そこには・・・・・旅装束のキアが立っていたのだった。




