246話 王国への帰還
ヒナの治療が終わったところで、俺たちは第八階層の柩の間から上の階へ戻った。
そこにはユナとサヤが待っていた。
「ヒナ!それにシアさんも!二人とも大丈夫なの?」
ユナが二人のところに駆け寄った。
「この度は、大変ご心配をおかけしました」
シアが申し訳なさそうに深々と頭を下げた。
「ただいま、お姉ちゃん!」
ヒナは相変わらず元気いっぱいの笑顔だな。
「ヒナ、傷はどうなったの?」
「シアさまがすっかりきれいに治してくれました」
ヒナはおなかをめくって傷のあった場所をユナに見せた。
「ほんとだ、全然傷跡がわからない。さっきはひどい傷跡の残ったヒナがいきなり走って来て、説明も無しに柩の間に飛び込んだから訳が分からなかったのよ?」
「ごめんなさい、お姉ちゃん。説明している時間が無かったので・・・」
「とにかく無事で良かったわ。シアさんも、もう大丈夫なのね?」
「ご心配おかけしましたが、ゲンとヒナさんが全て解決してくれました」
「わたしから説明するね。おねえちゃん」
ヒナがこれまでの経緯をユナに全て説明した。
「そうだったのね・・・ええと・・・さっきまでのヒナと違うヒナも一緒に入ってるって事だよね?」
「もうすでに一つに融合して一人のヒナだけどね」
「そっか・・・ごめんね、すぐに助けてあげられなくて」
「お姉ちゃんが私のために頑張ってた事は良くわかったよ。今は全ての記憶が繋がったし・・・他の巫女さんたちの記憶もあるからお姉ちゃんへの感情はちょっと複雑だけど、でも私の半分はこれでやっと救われる気がするよ!なによりも、こうしてお姉ちゃんと会える日が来た事の方が嬉しいよ!」
ヒナはそう言ってユナに抱きついた。
そう、ヒナの半身は、今やっとユナとの再会を果たしたのだ。
「二回目だけど、おかえり、ヒナ」
ユナはそう言って、ヒナを更に強く抱きしめた。
「ただいま、お姉ちゃん」
ヒナもユナを抱きしめ返した。
ヒナの半身がこれで少しでも救われればいいな。
「シアさん、おかえりなさい」
サヤがシアに話しかけた。
「サヤさん、ごめんなさい。心配をかけてしまいましたね」
「ええ、さすがに今回は無理のしすぎでしたよ」
「本当にごめんなさい。反省しています」
「自分一人でがんばり過ぎないで下さいね」
「はい、これからは素直に人に頼ります。頼りにしてますよ、ゲン」
シアは俺の方を向いて言った。
「ああ、これからは絶対シアのそばから離れねえからな」
こんな事は二度とごめんだからな。
「わたしも、ずっとお二人と一緒ですよ!」
ヒナがユナから顔を上げて俺達の方を向いた。
「どうしたの?三人ともすっかり仲良くなったみたいね?」
「はい、ヒナさんはわたしたちの恩人ですからね」
「ふふっ、泥沼になるかと思ってたけど、案外うまくまとまった様ね」
「はい!がんばれば大抵の事はうまくいくものです!」
ヒナが満面の笑みでそう答えた。
・・・ほんとに笑顔が師匠に似てきたな。
俺たちはユナたちに簡単に事情を説明してから迷宮を後にした。
疲れが溜まっていた俺達は、その日は宿に着くと食事もしないで爆睡してしまった。
翌日、俺たちは、シアの提案で、最後に助けた巫女達の様子を見に行った。
彼女たちは、穏やかに普通の生活に復帰し始めていて、シアも安心した様だ。
「これで大体全ての巫女が普通の生活に戻れたって事だな?」
「はい、まだ、心のケアが必要な子もいますが、もう大丈夫だと思います」
「がんばったな、シア」
「ちょっと頑張り過ぎましたけど、みんなの幸せそうな顔が見れたので報われた気がします」
「そういえば最後の巫女たちは俺に会っても普通にしてたな?ヒナみたいに俺に好意を持ってくるのかと思ったが?」
ヒナの時は記憶の補修に、俺とシアの思い出をコピーして使ってたんだよな?
「ゲンってば!そんな事を期待していたんですか?」
「いや、そうじゃなくて・・・もしそうだったら傷つけない様に断るにはどうすればいいか考えていたんだ」
「ヒナさんの時は他に方法が思いつかなかったのと、ゲンが先にやり過ぎてしまったので仕方なくです。他の子にゲンの記憶を植え付けるなんて、二度とそんな事はしません!」
「ふふっ、でもわたしはそれが無くてもゲンさまの事を好きになっていたと思いますよ?」
「・・・ヒナさんはきっとそうでしょうね」
「それにシアさまの事も大好きです!」
ヒナはそう言ってシアにぎゅっと抱き着いた。
「もう、仕方ないですね、ヒナさんは」
それから俺達はシアが治療した他の巫女たちの様子を順番に見ていった。
殆どの巫女はもう普通の生活ができる様になっていた。
会うたびにシアはたくさんの感謝の言葉をもらっていた。
「もうこれで、シアがこの地を離れても大丈夫そうだな?」
「そうですね。少しだけ不安が残りますが」
「シアさんは心配しないで元の生活に戻って。あたしがもうしばらくこの国に滞在してケアをするから大丈夫よ。それにサヤさんの様に普通の生活に戻った巫女たちも手伝ってくれるから心強わ」
「はい、私たちも、ユナさんを手伝って完治していない巫女たちのケアを続けます」
「ユナさんは、ヒナさんと一緒にいなくてもいいんですか?」
「あたしは最後まで見届ける責任があるからね。それにヒナはもう大丈夫でしょ?」
「もう少し我慢は出来るけど、この国が落ち着いたら、また一緒に暮らせるよね?」
「ええ、もちろん・・・でも、その前に、ヒナに新しい家族が出来ているかもしれないけどね?」
ユナが俺の方をちらっと見た。
シアも俺の方をちらっと見ている。
・・・おれ達三人の関係はこれからどうなるんだろうな?
「とにかく、ユナが戻ってくるまで、ヒナの事は俺が責任を持って守るから安心してくれ」
「ふふっ、お願いねゲン君」
「さて、それじゃ、王国に帰るとするか」
「はい、王国に帰るのは久しぶりです!」
そうだな、俺とヒナは一度帰っているが、シアは前回の遠征からそのまま帰国していなかったからずいぶん時間が空いてしまったな。
「帰ったらいよいよゲンと婚約ですね!」
・・・あっ・・・
「どうしました?ゲン」
「・・・まだ上級剣士試験に合格してなかった」
「えっ?・・・すでに合格してるものかと」
「剣術大会で優勝して受験資格は貰ったんだが、試験のコーディネートが整う前に旅に出ちまったんだ」
「それって・・・帰ってすぐ試験に合格しないと時間切れになってしまいますよ」
そういや、シアのお見合いの期限が迫ってるじゃねえか!
「ゲンさま!急いで帰って試験を受けて下さい!」
「そうだな、すぐに試験を手配してもらわねえとな」
「そうですよ!そうしないと・・・わたしがゲンさまを独り占めする事になっちゃいますよ!」
言いながらヒナがだんだんとにやけだしていた。
「それはだめです!ゲン!すぐに帰ってすぐに合格してすぐに婚約ですよ!」
俺とヒナはシアに急かされて慌ただしく王都へと出発したのだった。
第七章 完結です。
この物語はまだ続きますが、次の章の開始までしばらくお休みします。




