245話 記憶の外へ
現実の体に戻った俺は、シアに覆い被さってシアを抱きしめていた。
更にそんな俺の背中にはヒナが密着して抱き着いている。
「ちょっと!重いです!ゲン!」
シアに体重をかけない様に覆い被さっていたつもりだったのだが、ヒナが後ろから飛び乗ったのだろう。
俺はシアに密着して全体重をかけていた。
もちろんヒナの体重も加算されている。
「ヒナ!早く降りろ!」
「もう、体力の限界です・・・動けません・・・」
「仕方ねえな」
俺はヒナを背負ったまま体を起こしてシアから離れた。
まあ、俺にとってヒナはそれほど重くはないんだが。
「大丈夫か?シア」
「はい、やっと楽になりました」
俺は、ヒナを背負ったまま柩から出るとヒナを床に座らせて、それから柩の中のシアを抱き上げた。
「ひさしぶりだな」
「はい、やっとまともに顔を合わせる事が出来ました」
現実ではこれが数ヶ月ぶりの感動の再会のはずなのだが、シアの精神世界の中で色々あり過ぎて、お互いにどう振舞っていいのかわからなくなっていた。
「もう!お二人とも、感動の再会シーンですよ!もっと盛り上がって下さい!わたしはこの瞬間が見たくて頑張って来たんですですから!」
ヒナがへろへろの状態で両手を握りしめていた。
「ははは、ありがとな、ヒナ」
俺はシアを降ろすとヒナの頭にポンと手を置いた。
「ありがとうございます。ヒナさん」
そしてシアがヒナを抱きしめた。
「あれっ!何でこうなっちゃんたんですか?」
ヒナは予想外の展開にわたわたしていた。
「今回一番頑張ったのはヒナだからな」
「そうですよ、ヒナさんがいなかったら、わたしはこうして戻って来る事が出来ませんでした」
「えへへ、シアさまにぎゅってされるの、嬉しいです!」
ヒナもシアの事を抱きしめ返した。
体格の似ている美少女二人が抱きしめ合ってると、まるで双子の姉妹みたいに見える。
「これで全て解決ですね・・・ごふっ・・・」
ところがヒナが突然口から血を噴き出したのだ!
「どうした!ヒナ!何があった!」
取り込んだ負の感情が何かしたのか?
「ヒナさん!ちょっと見せて下さい!」
シアはヒナのインナースーツをめくるとヒナの腹に手を当てた。
「・・・ああっ!やっぱり!内臓や血管の繋ぎ方が色々間違ってます!」
「なんだって?ヒナ、魔法で治したんじゃないのか?」
「・・・よくわかんなかったので断面をそのままくっつけたんですけど・・・やっぱりだめでした?」
「人体接合には正確な医学の知識が必要なんです!ヒナさん、医学は勉強しましたか?」
「・・・基礎的なところまでです」
「すぐに正しく繋ぎ直さないと、このままでは死んでしまいますよ」
「ええっ!折角全て解決したと思ったのに!」
「シア!治せるのか?」
「はい!すぐに取り掛かりますが・・・間違って繋がったところを一旦切断しないといけないので・・・ちょっと・・・いえ、かなり痛いですよ?」
「えええっ!あの痛みをもう一度経験するんですか!」
「そうしないと死んでしまいますよ?」
「それは嫌です!・・・でも、痛いのも嫌です・・・」
「ヒナ、俺に何かできる事はあるか?」
「それじゃあ、ゲンさま、手を握っててください」
「ああ、お安い御用だ」
俺はヒナの手をしっかりと握りしめた。
「それでは始めますよ」
「お手柔らかに頼みます」
シアがヒナの腹に手をかざすとヒナの腹が光り始めた。
「いたっ!いたたたたたた!」
「ヒナさん、出来るだけじっとしていて下さいね」
「ヒナ、痛かったら俺の手を力いっぱい握れ」
「はい!・・・いっつ!・・・いたたたたたっ!」
ヒナが俺の手をぎゅうっと握る・・・とは言っても俺にとってはそれほど痛くはないんだが。
「まだまだ痛みが続きますよ。我慢して下さいね」
「はい・・・がんばります!・・・いたっ!」
「しっかりしろ!ヒナ!」
俺の方からもヒナの手を握る。
「ヒナ、呼吸を整えた方が楽になるぞ」
「わかりました・・・ヒーヒー、フー、ヒーヒー、フー・・・」
ヒナは規則的なリズムで呼吸を始めた
「そうだ、頑張れ、ヒナ!」
・・・って、それはお産の時の呼吸法ではないのか?
「ふふっ、何だかゲンさまの赤ちゃんを産んでるみたいですね」
確信犯か?こいつ。
「もうっ!またそうやって二人でいちゃいちゃする!」
「こうでもして気を紛らわせないと我慢できないんです!」
「・・・仕方ないですね。ゲン、しっかりとヒナさんの気を紛らせて下さいね」
「わかった・・・とは言ってもどうすればいいんだ?」
「キスしてくれたら気がまぎれます」
「ヒナさん!」
「はは、冗談ですよ!っててっ・・・シアさま、わざと痛くしてませんか?」
「そんなことしません。はい、もう終わりましたよ」
「あっ、ほんとだ!痛みが無くなってます!」
「ヒナ!傷跡も無くなってるぞ!」
「ああっ!きれいになってる!」
「内臓を治すついでに傷も治しておきました。足と手の傷跡も治しますね」
シアはそう言って足の傷の治療を始めた。
「ありがとうございます!実は傷跡が残るの、ちょっとだけ気にしてたんです」
「ヒナ・・・すまなかった。俺のせいでこんな事に・・・」
「ゲンさま、さっきも言いましたけどゲンさまのせいではありませんよ・・・とは言っても、傷跡が残っていたら見るたびに思い出しましたよね?でも、これで遠慮なくゲンさまに裸を見せられます!シアさま、ありがとうございます!」
「ヒナ!何を言ってる!」
またシアの機嫌が悪くなるぞ。
・・・もうシアの嫉妬心を煽らなくてもいいんだからな。
「そのつもりで傷をきれいに治したんですからいいんですよ。ゲンもヒナさんの体がきれいな方が嬉しいですよね?」
「シア!何を言ってる」
「・・・だって、一万回見るって約束しちゃたんですよね?おなかに傷跡が残ってたらゲンが一万回落ち込むじゃないですか」
「いいんですか?シアさま」
「約束したのだったら仕方ないでしょう?それにヒナさんはわたしたちの恩人ですから無下には出来ません」
「ありがとうございます!シアさま!」
・・・何だか、俺はその約束を達成しなきゃいけない様な流れになっているんだが?
「ただし!条件があります!」
シアが少しきつい表情で俺を見つめた。
「・・・わたしのも・・・・・ヒナさんの倍以上見て下さい!」
・・・言いながら、シアの顔は顔が真っ赤になっていった。
・・・しかし・・・それはつまり、俺はこれから一生かけて二人の・・・あの部分を見続けなければいけないという事だろうか?
「さすがにそれは無理では?」
「そうだ!それなら二人一緒に見て貰えばいいんですよ!わたしとする時はシアさまと三人ですればいいんです!シアさまもわたしと見せっこしましょう!」
「何を言ってるんだ!ヒナは!」
思わずのその情景を想像しそうになっちまったじゃねえか!
「とりあえず見るだけだ!それ以上の事をするとは約束してないからな!」
「ええっ!そんなぁ・・・」
「・・・ゲンが見るだけで我慢できるとは思いませんけど?」
・・・・・うーん、すっかり俺の性格を見通しているよな・・・シアは。
「とにかく!約束は約束だが、そういうのは全部俺達がもう少し大人になってからだからな!」
「わたしはもう、大人ですよ?」
外観に幼さの残るヒナがしなを作って見せた
「俺が大人になってからだ!」
・・・いろんな意味でな。




