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勇者を名のる剣聖の弟子  作者: るふと
第七章 魔女の夢
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232話 偽りの記憶

 俺たちの周囲は、過去のシアが映し出された無数の映像に埋め尽くされていた。


 そして、それらは全て、幼いシアが不幸な境遇に見舞われている映像だった。




 ・・・両親から借金のかたに売り飛ばされるシア。


 ・・・小間使いとしてこき使われているシア。


 ・・・継母から虐待を受けるシア。


 ・・・奴隷として競売にかけられているシア。


 ・・・主から鞭で打ちつけられているシア。


 ・・・義兄弟からいじめを受けるシア。




 見るに堪えない仕打ちを受ける、無数のシアの姿がそこにあったのだ。




 ・・・だが、これはおかしい。

 シアにこの様な過去は無いはずだ。


 ・・・これらの過去の記憶は・・・




「これは巫女たちの記憶ですね?」


 俺の隣でヒナがつぶやいた。




 ・・・そう、これらは全て、巫女の少女たちが経験した、過去の不幸な記憶だった。


 これらの映像と同じシチュエーションを俺は見た事がある。

 その対象となる人物が、それぞれの巫女からシアに置き換わっているのだ。


 これらの記憶の全てが、シアにとっての現実の記憶として、のしかかっているとしたら・・・

 そんなものに、人は耐えられるのだろうか?


 ・・・いや、耐えられなくなったからこそ、シアは精神の殻に閉じこもってしまったのだろう。




「ゲンさま!とにかくシアさまを探しましょう!そしてこれらの記憶が偽物だって教えてあげればいいんです!」


 そうだ!こうしている場合じゃない!

 ヒナの言う通り、シアの意識を見つけて、現実に引き戻せばいいのだ!


「行こう、ヒナ!シアの意識を見つけるぞ」


 だが、辺り一面がシアの記憶の映像で埋め尽くされていて、どの方向に行けばいいかわからない。


「ゲンさま!ここに結界が張ってあります!シアさまはきっとこの中です!」


 ヒナのいるところへ行くと、目には見えない壁があってその先に進めなくなっていた。


「確かに・・・結界が張ってある。やはりシアはこの奥か?」


「あたしが結界を壊します」


 ヒナが結界に両手をあて、何か魔法を発動した。


 しばらくしてガラスが割れるような音と共に結界が砕けていった。


「結界を壊しました!先に進みましょう!」


 俺はヒナと共に結界の奥へと進んだ。


 先に進むにつれて、シアの記憶は更に非道なものが増えてきた。


 それらの記憶の映像は、やはりどれもこれもほとんどが巫女の記憶の中で見た事のあるものだ。

 だが、いずれもその対象がシアに置き換わっているのだ。


 虐げられているシアの、見るに堪えない姿が次々と目に入って来る。


「ゲンさま!次の結界が見つかりました!この結界も壊します!」


 ヒナが結界を見つけてそれを壊し始めた。


 ・・・この先に進むと、更に残酷な目に遭っているシアの姿を見る事になるのだろうか?


 もう、これ以上見たくないというのが俺の本音だ。


 所詮現実の出来事ではないのだ。

 これ以上偽の記憶を覗き見るのは、単にシアを辱めているだけの様な気がする。


 だが、先に進まない事にはシアを救い出す事は出来ない。

 俺が迷っている場合じゃない。




 その後も俺とヒナは結界を見つけてはそれを壊しながら先に進んで行った。

 予想した通り、先に進めば進むほど、シアが遭遇する状況は悲惨なものになっていった。


 見るに堪えないシアの姿を見せつけられて、俺は更に気分が悪くなってきていた。

 これが実際にシアが経験した過去では無いと頭ではわかっていても、そう簡単に気持ちの整理がつくものではない。


「ヒナはこの映像を見て平気なのか?」


「えっ?だってこれは巫女たちの記憶であって実際のシアさんの記憶ではありませんよね?そう割り切ってしまえば気になりません」


 ・・・やはり、現実のヒナとは違う。

 感情の起伏の激しいいつものヒナだったら、この映像を見てもっと感情的になっているだろう。

 いつものヒナはそれほど理性的に判断できるタイプではなかった。


「ゲンさま、次の結界が見つかりました。今までで一番強力な結界です。きっとこの中にシアさまがいるに違いありません」


 ヒナはこれまでと同じ様に結界を壊し始めた。


 ・・・本当にこの奥にシアがいるのか?


 しかしこれまでの記憶の変化を考えると、この中にいるシアはどれほどひどい状況になっているか、想像するのが怖い。

 このままシアに会っていいのかという疑問が頭をよぎる。


「ゲンさま!今度の結界は強力過ぎてあたし一人では壊せそうもないです。力を貸して下さい」


 俺が迷っているとヒナが助けを求めてきた。


 そうだ、迷っている場合じゃない。

 シアを助け出すにはこの先に行くしかないのだ。


「どうすればいい?」


「ストーンブレードでこの結界を切ってください。あたしが作った亀裂にゲンさまがとどめを刺せば結界を壊せると思います」


「分かった、やってみよう」


 俺はストーンブレードを発現して、魔力を思いっきり注入する。

 それくらいしないとこの結界は壊せないと感じた。


 ・・・同時に、シアがそれほどまでに俺の侵入を強く拒んでいる事にショックを受けていた・・・



 俺は、全神経を集中して、結界にストーンブレードの一撃を叩き込んだ!


 ものすごい衝撃と共に、結界は粉々になって砕け散った。


 しかし、砕け散った結界の破片のせいで前方の視界が遮られてしまった。


 やがて結界の破片が消えていき、次第に視界が晴れてきた。




 そしてその奥にあったのは・・・






 シアが・・・大勢の男たちに凌辱されている姿だった。


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