222話 第五階層対策
『アイスブレード』攻撃が炎の大蛇に有効だとわかった俺は、積極的に攻め込んだ。
アイスブレードで炎の大蛇に切りつければ切り口とその周辺は凍り付き、すぐには回復できないし、動きも制限される。
また、炎の大蛇の攻撃をアイスブレードで受け止めても、その部分が凍り付いて動けなくなるのだ。
本来ならこのサイズの上級の魔物にこれほどの効果を与える事は出来ないのだが、俺の特製のアイスブレードは有り余る魔力を注入してある。
つまり、俺の魔力量が炎の大蛇の魔力量を凌駕しているから可能となる戦い方なのだ。
そう考えると『亜魔女』の魔力量はとんでもない。
この炎の大蛇はダメージを受けると溶岩の中に潜って回復してしまう。
俺はそれを阻止するために溶岩から出ている根本を凍りつかせ、溶岩の中に戻ろうとする頭を潜らせない様に牽制しつつ、奴の体を凍らせていく。
やはり、魔法を発動するより剣で切り付ける方が対応が早く、炎の大蛇の動きに対して先回りが出来る。
俺にとっては、この『魔法剣』形態の方が魔法の効率が抜群に良くなる事を再認識した。
俺が切りつけて、凍った切り口周辺をヒナとユナが削っていく。
サヤは凍結した箇所が融けない様に氷魔法を上書きしていく。
主に、炎の大蛇の胴体が溶岩から出てきている部分が溶岩の熱で融けない様に、常に冷却し続けているのだ。
その間に俺は別の個所に切り傷を作り凍結させる。
その連携で、次第に炎の大蛇は全身が凍り付いていった。
「これなら倒せそうですね!」
ヒナは、やる気に満ちて凍った胴体を次々と削っていった。
凍結が融けるまで魔物の自己修復が始まらないので、炎の大蛇の体は次第に小さくなっていった。
しかし、ほとんど頭しか動けなくなった炎の大蛇は、俺達に向かって口を大きく開けた。
これは!何かの攻撃が来る!
「みんな避けろ!」
俺はみんなに向かって叫んだ!
予想どおり、奴の口から強烈な炎の息が俺達に向かって吐き出された。
俺はその真正面に立ってアイスブレードを構え、突っ込んでいった。
そしてアイスブレードにありったけの魔法を注入して炎の息を打ち返す!
アイスブレードの纏った冷気と炎の息は激しくぶつかり合い、炎の息は熱量を削り取られながら四方へ拡散していった。
俺は再度アイスブレードに魔力を注入し、そのまま炎の大蛇の頭に切り込んでいった。
そして口に水平にアイスブレードを叩き込み、そのまま頭の上半分を切り飛ばした!
「魔結晶が見えました!」
ヒナが切り飛ばした頭の断面に魔結晶を見つけた。
「ヒナ!それを切り落とせ!」
「まかせて下さい!」
既に行動を起こしていたヒナは、既に炎の大蛇の頭部に駆け上っていた。
そして二本のショートソードで魔結晶の周辺の凍った肉を切り落とし、魔結晶を完全に露出させた。
「これで終わりです!」
ヒナは二本のショートソードをクロスさせて、大きな魔結晶を完全に魔物から切り飛ばしたのだ。
「やったな!ヒナ!」
「えへへ!すみません、ゲン様。おいしいところだけ貰っちゃいました!」
「何言ってんだ。大活躍だぞ」
殆ど凍っていたとはいえ、上級の魔物にとどめを刺すというのは簡単な事ではない。
「でも、これでこの階層は攻略ですね」
「ああ、だが、早く巫女を連れ出さないと魔物が復活するぞ」
上級の魔物は倒しても次の日には復活する。
それに中級以下の魔物はまだ新たに出現するはずだ。
「聖域はすぐ先です。急ぎましょう」
聖域に着くと、サヤが魔法陣を発動し、地下の柩の間に移動した。
柩の中では巫女の一人が苦しそうな表情で横たわっていた。
「とにかく柩から出すぞ」
俺は巫女を抱きかかえ、柩から取り出して近くの地面に寝かせた。
「これで、魔物出現は止まったはずだな?」
「はい、この階層の魔物は新たに発生しなくなるはずです」
しかし、巫女を中心に炎を纏った風が吹き荒れ始めた。
「なんだ!これは!」
「これが魔力暴走です。柩に吸い取られていた魔力が、行き場を無くして荒れ狂っているのです」
「何とかできないのか?」
「わたしに任せて下さい」
サヤが魔法を発動すると、炎の嵐が静まった。
巫女の表情も苦痛の表情が弱まっている。
「治まったのか?」
「今のは一時的に精神を鎮静化させる魔法です。わたしに出来る魔法はこれが限界で、この子を完全に治す事は出来ません。この魔法を定期的にかけ続けないと再び魔力暴走が始まってしまいます」
「とにかく、一旦、この子を連れて地上に戻りましょう」
そうだな・・・サヤの魔力も限界みたいだし、ヒナもユナも疲労の限界のはずだ。
「わかった。今日は引き上げよう」
俺たちは回収した巫女を連れて地下迷宮を出た。
巫女の少女は交代で鎮静化魔法をかけ続けないといけない。
この少女を完全に治すのはおそらくシアで無いと無理だろうという事だった。
「みなさんご苦労様でした。今日はゆっくり休んで、明日は第六階層の攻略をお願いします」
ギルド長が俺達をねぎらってくれた。
その日の夜はみんな疲労の限界だったために、ベッドに入るとすぐにぐっすりと眠ってしまった。
さすがに俺も疲れが溜まっていたのか朝まで目が覚めなかった。
翌日は第六階層の攻略に向けて再び迷宮に入っていた。
「ゲンさま!この調子でいけばもうすぐシア様に会えますよ!」
「そうだな、早く助けてやらねえとな」
「そうですよ!わたしたちでシア様を助け出しましょう!」
ヒナはいつもの通り、師匠の様な満面の笑みで俺に微笑みかけたのだった。




