217話 氷雪の国の夜
頼みの綱のタオルをヒナに向けて飛ばしてしまった俺は、完全に無防備な姿になってしまった。
布一枚無くなっただけで、何でこんな頼りない気分になるんだろうな?
それにしても、ここの風呂場はどうしてこういうハプニングが起きるんだ?
・・・いや、ここの風呂に限った事でないんだが・・・
「ヒナ、それを返せ」
俺はヒナの元に駆け寄ってタオルを取り返そうと思ったが・・・
・・・待て、いつもこのシチュエーションで慌てるから足元が滑って更にとんでもないハプニングが起きるんだ。
ここは、冷静に対処しないとな。
これ以上、ヒナとスケベなイベントを発生させるわけにはいかねえ。
「前が見えません!何ですかこれは?」
ところが、タオルで視界が塞がれたヒナがパニクってわたわたし始めた。
「ゲンさま、どっちですか?・・・あっ!」
慌てたヒナが足を滑らせて俺に向かって倒れてきたのだ!
「危ない!ヒナ!」
咄嗟にヒナを支えようとしたのだが・・・結局、その拍子に俺も足を滑らせてしまった!
「きゃん!」
俺とヒナは絡み合う様に倒れてしまったが、倒れながら何とかヒナの脇を支えて俺が下敷きになり、ヒナが床に激突するのは回避できた。
「いてて・・・ヒナ、大丈夫か?」
「はい、ゲンさまのおかげで・・・むぐっ!」
・・・ヒナが何か言いかけた途中で口ごもったと同時に・・・俺の下半身の先端に得も言われぬ快感が走った!
頭を起こしてそれを確認すると・・・・・
俺の・・・先端が、ヒナの口に入りそうになっていた!
「ヒナ!何やってんだ!」
俺は慌ててヒナの口からそれを引き離し、倒れた拍子にヒナが顔から剥がして手に掴んでいたタオルを取り返して自分の腰に巻いた。
「ゲンさまの方に顔を向けようとしたら、何かが口に当たって・・・まさか!」
「ヒナ!すぐに口をゆすいで来い!そして体にタオルを巻け!」
「ああっ!やっぱりそうだったんですね!もっとしっかり咥えておけばよかったです!」
「いいから早く行け!ユナもだ!」
「あたしは別にこのままでも構わないわよ?」
「俺が構うんだ」
ヒナとユナは、しぶしぶ、脱衣所に戻っていった。
・・・その隙に俺は急いで洗い場で用を済ませた・・・
実はヒナの唇が触れたと悟った瞬間に、ほとんど限界に達してしまっていたのだ。
しかしあの状況で暴発させたら大変な事になる。
そんな事態を避けるため、必死に堪えていたのだった。
何とかぎりぎりで、二人がいなくなるまで持ちこたえる事が出来たな・・・
俺も少しずつ忍耐力があがって来たという事だ。
・・・いや、あの程度の事で限界が来てしまう様では、まだまだ本番まで耐えきれない。
もっと精進が必要だな・・・
二人はすぐに体にタオルを巻いて戻って来た。
「・・・あの・・・続きをもういっかい・・・」
ヒナがもじもじしながら俺に問いかけた。
「だめに決まってるだろ!」
「・・・・わかりました・・・・でも唇に触れたゲンさまの感触は決して忘れません!」
ヒナは嬉しそうに自分の唇を指で触っていた。
・・・むしろ早く忘れてくれ・・・・
「とにかく、ゆっくりあったまって旅の疲れを洗いながそう」
俺はそう言って、腰にタオルを巻いたまま湯船に浸かった。
「ふふっ、まあいいです。こうやってゲンさまと肩を並べてお風呂に入れるって言うだけでも十分幸せです!」
ヒナはそう言って俺の隣で湯に浸かり、肩をくっつけてきた。
・・・まあ、これくらいは仕方ないか?
直接触れたヒナの肩は、小さくて柔らかかった。
だが、頼りないとは思わなかった。
むしろヒナの事を頼もしく思い始めている自分に気が付いた。
仲間としての信頼感がヒナに対して生まれているのを感じていた。
「じゃあ、あたしもくっついちゃおう」
そう言ってユナが反対側の方にすり寄って来た。
今までに色々あったが、ユナに対する信頼感も確実に芽生えていた。
二人とも俺の仲間になったんだな、と実感していた。
風呂で旅の疲れを流し、そろそろ就寝の時間となった。
「この宿は安全だから交代で番をする必要もないだろう。各自好きな部屋で寝てくれ」
「どこでもいいのでしたらゲンさまと同じ部屋が良いです」
「たまには一人でゆっくり寝かせてくれ」
「万が一の事もあるし、今更別の部屋で寝なくてもいいんじゃない?」
・・・確かに、ユナの言う通り安全と思っている時に事件が起きる可能性も否定できないからな・・・
「そうですよ!いつも一緒に寝てるんだし・・・ゲンさまが隣に寝ていないと寂しいです・・・」
ヒナはちょっとだけさみしそうな顔をした。
・・・うーん、こんなに俺に依存して・・・ヒナはこの旅が終わった後はどうするつもりなんだ?
「まあ、確かにユナの言う通り万が一のこともあるからな。部屋が余っているのはもったいないが、同じ部屋でん寝るか」
「やったぁ!」
落ち込みかけていたヒナが笑顔に戻った。
先の事はわかんねえが、今この瞬間にヒナが笑顔でいられる事の方が大事だな。
・・・それに、俺も本心ではヒナが隣に寝ている方が、いろんな意味で安心して眠れるという事も感じていたのだ。
「じゃあ、当然、あたしも一緒に寝るわね」
・・・ユナも一緒というのがちょっと複雑な心境だったりするのだが・・・
まあ、それが抑止力になっているところも否定できない。
そして・・・いつもの様に両脇を二人に挟まれて眠りについたのだった。




