208話 少女の魔物討伐
「ヒナ・・・・・すごいな」
まさか本当に中級の魔物を一人で倒してしまうとは思わなかった。
数か月前に初めて剣を握ってこの成長速度は常識を超えている。
高性能な附加装備のサポートがあったにしても、その附加装備もポテンシャルが高い反面、使いこなすには熟練した技術を必要とする。
それすらも使いこなしているという事は、ヒナの技術レベルは既に達人の域に達しているという事だ。
「よく短期間でここまで上達したな」
「ゲンさまの指導の賜物です!」
「いや、俺というより、師匠の技にそっくりだった」
「はい、以前にララさまとご一緒させて頂いた時に、ララさまの戦い方を間近で拝見させて頂く機会がありましたので、その時に覚えた技を使わせて頂いています!」
・・・やはり、一度見た技は再現できてしまうという事か・・・
しかし、以前、ヒナが師匠と一緒に事件に巻き込まれた時は、誘拐犯が相手だった。
ヒナは師匠が中級の魔物と戦うところを見た事は無いはずだ。
それなのに、今のヒナの動きは、以前俺が見た、師匠が中級の魔物と戦う様子とそっくりだったのだ。
「すごいわね、ヒナ!中級の魔物を一人で瞬殺なんて、あたしにも無理だわ」
ユナの戦闘スタイルは元々、対人戦や、小型の魔物を複数相手する場合に特化している。
刃渡りの短いショートソードは大型の魔物との戦闘には不向きだ。
同じくショートソード二刀流のヒナは、附加装備による能力増強と手数でこれをカバーしていた。
通常、中級の魔物は中級剣士複数人で討伐するものだ。
単身で中級の魔物を討伐できるとしたら、それは上級剣士に近い実力を有する事になる。
「あんたら、大したもんだな。あっという間に中級の魔物を2体も倒しちまうなんて!」
中級の魔物が倒されたのを見て、村の自警団の人が戻って来た。
「それよりも、他に魔物の出現報告は有るのかしら?」
「たった今、村の東側の森で土煙があがるのが目撃された。どうやら複数の中級の魔物がこっちに向かって移動しているみたいだ」
「東側ですね!じゃあこっちから迎撃に出ましょう!」
ヒナはすっかりやる気に満ちていた。
っていうか、性格まで本当に師匠そっくりだな。
「ヒナ!次は単独行動するなよ。俺達と一緒に戦うんだ」
「はい!わかりました!次からはゲンさまのサポートに徹します!」
・・・今度はえらい素直だな・・・
「・・・夫をたたせるのは妻としての当然の務めですから・・・」
・・・小声で何か言っていたが、聞かなかった事にしよう・・・
俺とヒナとユナの三人は塀の外側を回って村の東側へ向かった。
村の周囲では、段々と下級の魔物の出現数も増えて来ていた。
俺達三人は迫りくる下級の魔物を倒しながら、速度を落とさず村の東側へと回り込んだ。
そこには、丁度ガズ達が到着したところだった。
「何だよ、もう中級の魔物を倒しちまったんだってな」
「まだ残ってる。俺達はこれから東側から接近する中級の魔物を迎撃に出る。ガズ達は村の周囲にいる下級の魔物を頼む」
「わかった、こっちは俺達に任せろ。おまえたちは三人で大丈夫か?」
「ああ、戦力的には十分だ」
「そいつは頼もしいな」
ガズ達を村に残して俺達は東側の土煙が上がっている方へ向かった。
中級の魔物はだいぶ村に近づいてきている。
「ヒナ、ユナ、油断するなよ。中級の魔物はおそらく複数だ。俺とヒナで一体ずつ対処していく。ユナは、周りにいる下級の魔物をたのむ」
「わかったわ、そっちは任せて」
「ゲンさまとの共同作業ですね!興奮します!」
「ヒナ!遊びじゃないぞ気を抜くなよ!」
「はい!真剣にゲンさまをサポートします!」
・・・これから激しい戦闘だってのに、ヒナはまだにこにこしているのだが・・・
そう言えば師匠も戦いの間、ずっとにこにこしてたな・・・
そして・・・村からそう遠くない場所で、俺達は中級の魔物の集団と遭遇した。
ざっと見ただけで、7~8体の中級の魔物がいるんだが・・・ここまでの数って聞いてねえぞ。
これって既に勇者案件じゃねえのか?
しかもその中には『鬼』も混ざっていた。
そういや、魔力が使えなくなってるな。
俺は普段は魔力を使わねえから気が付かなかった。
俺とヒナは元々魔力を使ってねえし、ガズ達この国の連中も魔法や身体強化を使えなかったから影響は無いはずだ。
だが、ユナは身体強化を使ってたよな。
「ユナ、大丈夫か?」
「ええ、多少効率は落ちるけど、下級の魔物相手なら問題ないわ」
魔法が使えれば、他に人目がねえし、今の俺なら強力な魔法で一気にこいつらを殲滅する事も出来たんだが、魔力が封じられてそれも出来なくなっちまった。
ストーンブレードも使えねえから地道に倒していくしかねえな。
「ヒナ、作戦通り二人で協力して確実に一体づつ倒していくぞ」
「はい!了解です」
中級の魔物たちは森の木々を押し倒しながら進んでいたので縦に長く集まっていた。
おかげで、先頭から一体ずつ倒していくのには都合が良かった。
先に『鬼』倒せれば話は早いんだが、『鬼』は一番後ろにいるから他の中級の魔物を倒さないと『鬼』にたどり着けない。
「まずは先頭にいる『三頭熊』を倒す」
「はい!」
俺とヒナは周囲の木々を使って跳躍し、三頭熊の頭の高さまで接近する。
中級の魔物たちの足元には、下級の魔物も多数うごめいている。
ユナはその間に、それら足元の下級の魔物を減らしてくれている。
「手の爪に気を付けながら頭を切り落とすぞ!」
「了解です!」
俺とヒナは三頭熊の両サイドから頭めがけて切りつけた。
三頭熊は三つの頭のどれか一つに魔結晶を持っている。
その頭を切り落とせば倒す事が出来るのだ。
俺の方は、一回では首を切り落とせなかったが、二太刀目で首を切り落とす事が出来た。
しかし、三頭熊は活動を停止していないので俺の切り落とした頭は『はずれ』だった様だ。
ヒナの方は、やはりショートソードなので、首を切り落とすのに手数を必要としていた。
その間に、三頭熊は爪でヒナを払い除けようとしていた。
俺はサポートに入り、ヒナを攻撃しようとする三頭熊の爪をロングソードで切り落とした。
「ありがとうございます!ゲンさま!」
首を切りつけ続けていたヒナは、ようやく二つ目の首を切り落とした!
そこで三頭熊の動きが止まった!
ヒナは『あたり』を引いたのだ!
「やったな!ひな!」
「ゲンさまのおかげです!」
倒れ行く三頭熊の方の上でヒナは剣を掲げ、満面の笑みでポーズをとっていた。
その時、ヒナの後方から黒い影が迫った!
「避けろ!ヒナ!」
その影は・・・『棘狼』だった。




