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勇者を名のる剣聖の弟子  作者: るふと
第七章 魔女の夢
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207話 村の防衛

 小鬼の群れを倒した俺達三人は先に進んだ。


 間もなく森を抜けて目的の村が見えてくるはずだ。




 しかし、村が近づくにつれて、何やら物音や喧騒が聞こえてきた。


 ・・・まさか、これは・・・




「ゲンさま!村の前に魔物が!」




 村は木の塀で囲まれていた。

 下級の魔物程度ならこの塀でも完全に防御できるのだろうが、村の前に現われたのは『中級の魔物』だった。




 中級の魔物『鱗猿』はその、長い爪で木製の塀を削っていた。

 削って弱くなったところを体当たりで壊すつもりなのかもしれない。

 とにかく、このままでは塀が壊されて鱗猿が村に侵入するのは時間の問題だ。



「俺はあいつの相手をする。ユナとヒナは村人の援護を頼む」


「わかったわ」


 塀の前では、数人の村人が鱗猿に対峙していた。

 おそらく村の自警団だろう。

 しかし彼らの武器では鱗猿の硬い鱗に覆われた体に傷を付ける事が出来ずに苦戦していた。



「お前の相手はこっちだ!」


 俺は、鱗猿の真正面に回り込み、声を上げながら突進する。

 鱗猿の注意を引きつけるためだ。


 その間に、ユナとヒナが鱗猿と対峙していた村人たちを避難させる。


 鱗猿は、右手の爪を俺に向かって突き立てて来た!


 俺はその爪を切り落とし、鱗猿の右腕に飛び乗って駆け上がった。

 右胸の魔結晶を切り取るためだ。


 だが当然、鱗猿は次に左手の爪で、俺を攻撃してくるはずだ。


 それを警戒して左腕の方を見ると・・・ヒナが同じ様に鱗猿の左腕を駆け上っていたのだ!


「ヒナ!何をしてる!」


「わたしもゲンさまと一緒に戦います!」


 ヒナは鱗猿の左手の爪をショートソードで切り落としていた。

 そのおかげで俺の方に左手の攻撃が来なかったのだ。


 鱗猿は、今度は右手でヒナを払い除けようとしていた。

 俺よりもヒナの方を先に片付けようと思ったのだろう。

 ヒナが、執拗にショートソードで腕に切りつけて、自分の方に関心をひく様に動いたからだ。

 

「ヒナ!逃げろ!」


「わたしは大丈夫です!ゲンさまはそのまま魔結晶を狙って下さい!」


 ヒナは鱗猿の左腕を蹴って右腕に切りかかっていた。


 今のヒナは十分に鱗猿と渡り合っている。

 このまま、任せても大丈夫そうだ。


「援護は任せたぞ!ヒナ!」


「はいっ!」


 俺はヒナの援護に回るのをやめて、そのまま鱗猿の胸に切りかかる。


 胸の肉を削ぎ落し、魔結晶を切り取ろうとしたが、浅かったために魔結晶を露出させる事が出来なかった。


 一旦離脱して再度仕掛けようとしたら、鱗猿はバランスを崩して後ろに倒れ始めたのだ。


 下を見ると、先に着地していたヒナが鱗猿の踵の腱を切って、鱗猿が立っていられない様にしていたのだった。




 ・・・いつの間に足元を切っていた?




 俺はヒナが鱗猿の腕から飛び降りて、足元に移動する行動を追いきれていなかった。


 しかし、ヒナが作ってくれたチャンスを無駄には出来ない。

 俺は、仰向けに倒れていく鱗猿の胸の上に立って、胸をさらに深く切り開き、魔結晶を露出させて、それを切り飛ばしたのだった。



「さすがです!ゲンさま!やりましたね!」


「ヒナのサポートのおかげだ。助かった」




 鱗猿は活動を停止し、全身から蒸気を放って消滅し始めていた。




「それにしても、『鱗猿』と戦うのは初めてだよな?よく戦い方がわかったな」


「えへへ、なんとなくです」




 鱗猿と戦っているヒナの姿は、やはり、師匠の姿と重なって見えたのだ。




「ヒナ!いきなり無茶し過ぎよ!」


 村人を安全なところまで誘導したユナが戻って来た。


「ごめんなさい、お姉ちゃん・・・でもちゃんと戦えたよ!」


「ええ、良くやったわ。でも、本当に危険な事はしないでね」


「はい!でも、いざとなったらゲンさまが助けてくれますから」


「いや、今回はむしろ、俺の方がヒナに助けられたくらいだ」


「ゲンさまのお役に立てたのなら嬉しいです!」


 ヒナは本当に嬉しそうに笑った。




「それよりも、村の人に聞いたのだけど、別の場所でも中級の魔物と戦っているそうなの。すぐに応援に行きましょう!」


「それは大変です!すぐ行きましょう、ゲンさま」


「ああ、場所はどこだ?ユナ」


「村の反対側だそうよ。村の中を抜けた方が早いわ」


 俺達はユナに案内されて一番近い門をくぐって一旦村の中に入り、村の中を全力で走って反対側へ向かった。


 村の中はみんな家にこもっていたので、通りはほとんど人がいなかった。

 俺達は最高速で村の中を駆け抜ける事が出来た。


 村の反対側では、塀の向こうに中級の魔物『山羊頭』がいた。


 山羊頭はちょうど口の高さにあった塀を歯でかじってかみ砕いていたのだった。


「早く倒さないと塀が壊されてしまうな」


 山羊頭はバキバキと塀をかじっては破片を吹き飛ばしていた。




「今度はわたし一人でやらせてください!」


 先行して走っていたヒナがさらに加速して山羊頭に向かっていた。


「待て!ヒナ!一人で行くな!」


 しかし、ヒナはとんでもない速さだった。

 附加装備の効果で普段の能力が倍増されているとはいえ、同様に附加装備をつけている俺が追いつけない速度だ。


 山羊頭の目前まで迫ったヒナは、その速度を利用して塀の高さまで跳びあがった。


 ヒナに気が付いた山羊頭はヒナを捕まえようと手を伸ばしたが、ヒナはその指をショートソードで切り落としつつ、手の甲を蹴って、肩に飛び乗り、二本のショートソードを駆使してうなじの肉を削ぎ落していった。


 その間に、山羊頭は左手でヒナを振り払おうと手を伸ばしたが、ヒナはそれを一瞬で手首から切り落とし、再びうなじの肉を削ぎつつけたのだ。


 そしてついに、魔結晶を見つけて、ショートソードをクロスさせて、一気に魔結晶をえぐり出し、山羊頭から引きはがして切り飛ばしたのだった。




 ・・・それを・・・俺が追いつくまでのわずかな時間でやり遂げてしまった。




「やりました!ゲンさま!一人で中級の魔物を倒しましたよ!」




 ・・・・・その一連の行動は・・・もはや師匠そのものだったのだ。


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