205話 魔物討伐の役割
タヤさんの宿屋では、前の作戦で見知った冒険者達との宴会で盛り上がった。
会う人ごとに、前回と彼女が違うとつっこまれ、何度同じ説明をしたかわからない。
宴会のあと、俺達三人は部屋に戻った。
ユナとヒナは、部屋に俺がいても普通に着替えを始めてしまう。
「おい、着替えるなら声をかけろと言っただろう?」
俺は二人が着替え始めたので、後ろを向いて待っている。
「別に見ててもいいわよ。既に裸を見せ合った仲なんだし」
「そうですよ!・・・それにほんとだったらゲンさまには・・・・・その・・・あれも、しっかり見てもらわないといけないんですからね!」
・・・そう言えば、そんな約束もあったな。
俺は一体何の約束をしてしまったのだろう?
「そう言えば、あれからまだ一回も見てもらっていませんでした!折角だから今から見て下さい!」
一瞬振り返ると、ヒナが着替えの途中で下着に手をかけて脱ごうとしていた。
「明日は魔物討伐で朝早いんだ。そんな事してないで早く寝ろ!」
・・・今そんなもん見せられたら眠れなくなっちまうだろうが。
「えー、いつも何か理由をつけて、ずっと見てくれていないじゃないですか!この前言った事は嘘だったんですね・・・わたしは、ずっと、あのいやらしいおじさんに大事なところを見られたっていう心の傷を抱えたまま生きてゆかなくてはならないのですね・・・」
ヒナは泣き出してしまった。
「・・・うそ泣きだろ?」
「ちぇっ、ばれましたか」
ヒナは泣き真似をやめて顔を上げた。
最近のヒナはすっかり逞しくなったからな。
そんな簡単に泣くたまじゃねえだろ。
「ヒナ、お楽しみはまた今度にして今日はもう寝ましょう」
・・・お楽しみって言うなよ・・・ユナ。
「はい!お姉ちゃん」
二人とも着替え終わったが・・・何で二人ともいつも下着が透けて見えそうなネグリジェなんだ?
そして、何で俺のベッドの両脇に潜り込む?
この部屋にはベッドが三つあるんだぞ。
「折角ベッドが三つあるんだ。それぞれ別のベッド寝た方が良くないか?」
「だって、侵入者が入った時、同じベッドの方が安心じゃないですか?ゲンさまは隣のベッドでわたしが暴漢に襲われてても平気なんですか?」
・・・いや、さすがに気付くだろ、隣のベッドなら。
結局、二人に押し切られて一緒のベッドで寝る事になってしまった。
そして、朝目覚めると、二人ともネグリジェが捲れているという、お約束のパターンだった。
いい加減、慣れて来て、動揺しなくなったぞ。
その日は朝早くから冒険者ギルドに集合した。
集まっている冒険者はほとんどが、前回の盗賊討伐の時のメンバーで、昨日の宴会でも顔を合わせていたから気が楽だった。
そしてギルド長から、今回の討伐作戦の説明があった。
何でも、数日前からこの王都の近くの村の周辺で中級の魔物を目撃したという情報が相次いで報告されたのだそうだ。
目撃情報を統合すると、中級の魔物が3~4体はいるみたいだった。
それに、下級の魔物の出現数も増えているそうだ。
中級の魔物は、まだ村には来ていないが、時間の問題で村が襲われる可能性が高い。
その前に討伐してしまおうという作戦だ。
「じゃあ、お前ら、しっかり魔物を退治してくるんだよ!」
ギルド長の号令で、討伐隊のメンバーは冒険者ギルドを出発した。
俺達も、出発しようとしたら、ギルド長に声をかけられた。
「今回、上級冒険者はあんた一人だ。何かあった時にはあんたの活躍にみんなの命がかかってくる。それだけは胆に銘じときなよ」
・・・そうだった。前回はココさん、シアとキア、それからギルもいたのだ。
ビビほどの強敵に、そうそう出くわす事も無いと思うが、それでも俺が先陣を切って強敵を倒していかないと、討伐隊の中に被害者が出てしまう可能性があるのだ。
「とは言っても、一人で気負い過ぎるんじゃないよ。最年少で上級冒険者になったって言っても、あんたはまだ子供だ。経験だって少ない。大人に頼る所はしっかり頼るんだよ」
「そうだぜ、やばそうな奴はお前に任せるしかねえけどよ。おまえがそいつとの戦いに集中できる様に俺達は全力でサポートする。だから強敵が現れたら、余計な事は考えずにそいつを倒す事だけを考えろ!・・・わかったな?」
ガズが俺の背中を叩いた。
・・・そうだ、俺は、中級の魔物を倒しながらも、他のみんなも俺が守る気でいた。
だが、意識が分散して集中力を欠いたら、かえって状況が悪化する可能性があったのだ。
ガズやみんなが他の下級の魔物を倒したり、ヒナたちのサポートに当たってくれるなら、こんなに心強い事は無い。
「ありがとう、ガズ。頼りにしてる」
「ああ、まかせろ」
「ヒナの事も、守ってくれ。宜しく頼む」
「何言ってるんですか?ゲンさま。わたしはずっとゲンさまのそばにいて一緒に戦いますから、ガズさんに守ってもらわなくても大丈夫ですよ」
ヒナはやはり第一線で中級の魔物と戦うつもり満々だった。
「そうだぜ、彼女の事だけはお前が自分で守ってやれよ。そう言うのでますます惚れ直すってもんだからよ!」
・・・いや、ヒナにこれ以上惚れ直してもらう必要はないんだが・・・




