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【9章開始】勇者を名のる剣聖の弟子  作者: るふと
第七章 魔女の夢
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202話 領主の望み

「あんたは昨日の!」




 ヒナに声をかけてきた貴族は、この領地の領主だったのか。




「昨日は大変失礼した。しかし君たち姉妹は国外からやって来たと言っていたが、元々はこの国の出身だったのだね?」


 領主はユナとヒナを見て語りかけた。


「長くこの国を離れていたのは本当の事よ」


「まあよい、それよりもここに来たのは、あの件だね?」


「ええそうよ!あのばかげた決まりを何とかして、あたしたちを国外に出させて頂戴。元々この国に用は無かったんだから!」


「そうはいかない。あれは国王直々のお達しなのだ。わたしもおいそれと無視するわけにはいかないのだ」


「そもそも何なの?あの決まりは?」


「君たちも知ってると思うが、この国では人身売買が公然と行われている。わたしもそれに加担していたので何も言えないのだが・・・そのために、容姿の良い貧しい平民の女性は片っ端から買われて行ってしまったのだ」




 そう・・・そのせいでヒナはあんな目に遭ったのだ。




「それを恐れて、見た目の良い娘を持つ貧しい平民の親達の中には、娘を国外に逃がす者が多くなってきたのだ。とくに勇者のいる東側の大国は治安も良く、身寄りの無い少女でも安心して生活できると聞く。その結果、国内に容姿の良い女性が減ってしまったのだ」



 そういや、前に師匠に聞いた事があったな。


 国外から流れて来た子供たちを保護する施設があるって。

 学院にもそこから通ってる子が結構いた気がする。


 ヒナもそれと同じ扱いだったな。



「そこで国王は容姿の良い平民の女性を国外に出してはならないという決まりを作ったのだ」


 ・・・またずいぶんと身勝手な決まりだな。


「あたしたちはそれを知らずに、まんまとこの国に戻って来たって事ね?」


「そういう事だ」



「あの・・・どうにかならないのでしょうか?」


 ヒナが領主に尋ねた。


「方法はいくつかあるのだが・・・・」


 ヒナと領主は、しばらく無言で見つめ合っていた。


 ・・・二人とも、どうしたのだろう?




「・・・あの・・・少し領主様と二人だけで話をさせて頂けないでしょうか?」




 ヒナが突然、とんでもない事を言い出した。


「何を言っている?ヒナ」


「どうしたの?二人だけでなんて?あたしたちがいたら話せない事なの?」


 俺とユナはヒナに尋ねた。


「わたしに少し考えがあるんです。任せてもらえないでしょうか?」


 ヒナにしては珍しく、強い意志を感じた。


「・・・でも、その人は・・・」


 ユナはかなり心配そうだが、それは当然のことだった。


 ・・・だが、俺にはヒナには何か秘策がある様に見えたのだ。


「ヒナ・・・信じていいんだな?」


「はい!絶対大丈夫です!」


 ヒナは自信に満ちていた。


 特に危うげな様子は無いし、任せてみるか?


「よし、わかった。ここはヒナに任せる」


「大丈夫なの?」


「何かあったら大声を出せよ。ヒナ」


「はい!そうします!」


 ヒナは元気にうなずいた。


「あんた、ヒナに何かしたらただじゃおかねえからな」


「もちろんだ・・・彼女に危害を加えるような事は決してしないと誓おう」


「信じていいんだな?」


 俺は領主に尋ねた。


「ああ、信じてくれ」


 領主の返事にも不実なところはなさそうに見えた。


「たのんだぞ、ヒナ」


「無理はしちゃだめよ」


「はい!任せて下さい!」




 ヒナは領主と共に、領主の執務室へと入っていった。




「どう思う?ヒナは大丈夫なのかしら?」


「もし何かあったら、あの領主をぶっ倒して、国外に強行突破するだけだ」


「できればそれは避けたいけど・・・ヒナは何を思いついたのかしら?」


「それはわからないが、自信はありそうだったからな」




 ・・・しかし、あの領主はかつてヒナと関係を持っているのだ。




 ヒナ本人は覚えていないはずだが、あの領主がヒナを買って、まだ幼さの残るヒナに手を出したのは紛れもない事実なのだ。


 ヒナがここの領主に買われたのは、ヒナが人身売買されるようになってから、かなり後の事だった。


 その頃には、ヒナの人格はかなり崩壊していて、ヒナの方から買われたら自分は買主に身をささげるのが当然という様に、自然と体を差し出し関係を持ってしまっていたのだった。


 だが、今のヒナはその時とは違う。

 しっかりとした自分の意志を持っているのだ。


 最近のヒナには不安げなところは無いし、自信もついて来ている。

 そのヒナが、自分ら言い出した事であれば、出来るだけやらせてあげたいと思ったのだ。



「それにしても遅いわね?」


 ユナの言う通り、二人が執務室に入ってからすでに2時間程度が過ぎていた。


 ・・・さすがになにかあったのかもしれねえ。


 特にヒナが助けを求める声をあげる事もなく、時間が過ぎていたが、声を出せない状況になっているとも限らない。




「これ以上は待てねえな。踏み込むぞ」


「そうね。さすがに遅すぎるわ」


 俺とユナは執務室の扉の前に行った。




 俺が魔法でドアを吹き飛ばそうとしたその時・・・




「どうしたんですか?二人とも」


 ドアが開いてヒナが出てきたのだ。


 扉の前で待ち構えていた俺とユナを見て、きょとんとしていた。




「大丈夫なのか?ヒナ」


「はい!交渉は成立しました。これで無事、国外に出る事が出来ます!」


 すごいな、ヒナは話をまとめたのか?・・・しかし、ヒナは一体何を交渉したんだ?


「でもどうやったの?ヒナ」



 そこに領主も執務室から出てきた。


 ヒナは領主の方を見てにっこりと微笑んだ。




「それは・・・わたしが、この領主様の養女になったのです」


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