201話 国境の罠
俺とヒナ、そしてユナの三人は一晩中走り続けて、ちょうど日の出と共に国境に着いた。
この国と隣国は険しい山脈によって分断されていて、この峠道が唯一の国境がとなる。
ユナは国境警備の詰め所の扉を叩いた。
「国境を通りたいので門を開けてもらえないかしら?」
しばらくすると、国境警備の役人が欠伸をしながら眠そうな顔で出てきた。
「どうしたよ、こんな早朝から」
「俺は上級冒険者だ。緊急の依頼ですぐに隣国に行きたい」
俺は上級冒険者の冒険者証を役人に見せた。
「なるほど、冒険者証は本物だな。しかし、ずいぶん若い上級冒険者だな?」
「この間上級になったばかりだ。いいから早く通してくれ」
「まあ、いいだろう、通れ!」
俺が門を通過すると、その後に続いたヒナとユナが止められていた。
「あんたたちは通行を許可できない」
「ちょっと!あたしたちも通してよ!」
「通行を許可できるのはその上級冒険者のみだ!」
「わたしたちは同じパーティーメンバーです。どうしてダメなんですか?」
「冒険者証を確認したところ、お前たち二人はこの国の国民だろう?上からの指示で、容姿の優れたこの国の女性は、特別な許可が無いと国外に出してはいけない決まりになっているのだ」
「そんな法律聞いた事ないわよ?」
「最近出来た決まりだ」
「そもそも容姿なんて主観的なものでしょう?どうやって判断するのよ?何とか見逃してくれないかしら?」
「おまえら二人は誰がどう見てもかなりの美人じゃねえか?さすがに見逃せねえよ」
確かに・・・そう言う意味では見逃してもらうのは無理だと思うぞ。
「その二人は今回の任務に必要なんだ。許可してくれないと困る。どうすれば許可が貰える?」
俺は門を引き返して二人のところに戻った。
「この国境における判断は、この地域一帯を治める領主様に一任されている。手前の城下町に戻って領主様の許可をもらうしかないだろうな」
・・・なんて事だ。
折角逃げて来たのにまたあの町に戻らなきゃいけないのか?
「・・・あの・・・さっきみたいに無理やり通ってはだめなんですか?」
ヒナが小声で俺とユナに尋ねた。
「それは無理ね。さっきは民間人が相手だったから国外に逃げれば何とかなったけど、今回は国が相手だから、国外でも追跡が来るわね。あたしたちの身元は冒険者証で割れてるし、冒険者ギルドも協力して追手が来るわ。下手をすると国家間の紛争にもなりかねないし」
「それじゃあ、どうすればいい?」
俺はユナに尋ねた。
「・・・その領主の許可を得るしかないわね?」
「それって、大丈夫なのか?」
「わからないわ、でもこうなっては他にどうしようもないのよ。これからの人生、お尋ね者で終らせたくはないでしょう?」
確かに・・・そうなっては剣聖どころかシアとの結婚もままならなくなる。
それに、ユナやヒナも一生日陰者暮らしになっちまう。
「じゃあ、領主に会いに行くわよ」
「それしかなさそうだな」
「あまり、あの町には戻りたくないです・・・」
ヒナは、だいぶ不安そうだが・・・
ユナは役人に話しかけた。
「ちょと、あなた、すぐに領主と会いたいんだけど取り次いでくれる?」
「ああ、いいだろう。紹介状を書いてやる」
俺達は、領主への招待状を受け取って、来た道を戻る事になった。
途中、追手に遭遇する可能性が高い。
ユナは慎重に前方を警戒しながら走った。
案の定、ユナが追手の気配を感じたので、木の陰に隠れてやり過ごした。
こういった一連の対応は、ユナが手慣れたものだった。
「さすが、ベテラン冒険者だな」
「危ない仕事をいっぱいこなしてきたからね」
「さすがです!今度わたしにも教えて下さい!お姉ちゃん」
ヒナにあんまり変な裏技は覚えて欲しくない気もするが・・・身に付けておいた方が色々安心か?
そうして俺達は、何度か追手をやり過ごしながら、再びあの町に戻って来た。
城門の詰め所に顔を出すと最初は門番に怒られたが、紹介状を見せて事情を説明すると状況を理解してくれたのか、馬車を用意してくれた。
妙に待遇が良すぎて気持ち悪いんだが、馬車で領主の城に連れて行ってもらえたので、あの太った男とその部下に遭遇する事が無くて助かった。
馬車は町の平民街を抜け、更に奥の貴族街に入った。
そして更にその奥の領主の城に向かい、城門をくぐってそのまま中に入っていった。
「・・・立派なお城ですね」
いつものヒナならもう少しテンションが上がりそうなものだが、昨日から色々あり過ぎたせいだろうか?
今ひとつ盛り上がりに欠けていた。
「どこの国でも国境を守る貴族は高い地位を与えられている事が多いからな」
「そうね、ここの領主はこの国で三本の指に入る有力な貴族だったはずよ」
豪華な玄関の前で馬車を降りると、応接間に案内された。
応接間も豪華な作りだった。
しばらく待っていると、応接間に人が入って来た。
「すまない、待たせたね、お客人」
振り返るとそこには・・・
昨日、この町で最初にヒナに声をかけてきた貴族が立っていたのだ。




