200話 過去との決別
「すまねえ、ユナ。遅くなった」
俺は部屋から出て、宙に浮ていたストーンブレードを手に取った。
「もう!ヒナとなんて約束してるのよ!」
「仕方ねえだろ、ああでも言わねえとヒナが泣き止まなかったんだ」
「あの子、本気だからね。覚悟しなさいよ」
「ああ、今後は絶対あんな目に遭わせねえから、今回分だけは何とかする」
・・・とは言っても俺が得するだけの様な気もするんだが・・・
あの男の言った通り、この宿はあいつの息がかかっているだけの事はあって、部下が次々とやって来る。
ユナがすでにだいぶ片付けてくれていたが、まだまだ、湧いてくるみたいだ。
俺はストーンブレードを振り回して片っ端からそいつらを叩きのめした。
「しかしキリがねえな」
「お待たせしました。ゲンさま、お姉ちゃん」
ヒナが装備を装着して部屋から出てきた。
「よし、戦えるか?ヒナ」
「はい!大丈夫です!」
ヒナは二本のショートソードを構えた。
「じゃあ、ユナと交代だ。ユナ!部屋に戻ってユナも支度しろ!」
「ええ、頼んだわよ、ヒナ」
「まかせて!お姉ちゃん!」
ヒナがユナの前に躍り出て、部下と対峙した。
その間にユナが胸を隠しながら部屋に戻った。
「ゲンさま、戦いながらお姉ちゃんの胸、ちらちら見てましたよね?」
「胸を見てたんじゃねえ、ユナが無事か確認してただけだ!」
その時に胸も視界に入っていたが・・・
「わたしのは見てくれなかったのに・・・お姉ちゃんだけずるいです!」
いや・・・胸ならまだ我慢できるが、あれを見せられてしまったら、今の俺に我慢が出来る自信がねえんだよ!
「胸ならさっきヒナの胸も見たじゃねえか」
「それはそうですけど・・・わたしも胸を出して戦おうかな?」
「やめろ!それは」
「もちろん冗談ですけどね!」
軽口をたたきながらも、ヒナも部下を倒していた。
ヒナもだいぶ実践慣れしてきたな・・・
「準備出来たわよ」
するとユナが装備を付けて戻って来た」
「えらい早いな?」
「当たり前でしょ?何年冒険者やってると思ってるの?こういう支度が迅速に出来るのは当り前よ!ついでにあの男も縛っておいたわ」
「さすがです!お姉ちゃん!」
「あたしたちは荷物もまとめたわ。ゲン君も部屋に戻って着替えて来て!そうしたら脱出するわよ!」
「了解した。少しの間任せる」
俺はユナとヒナに部下たちの相手を任せて自分の部屋に戻った。
急いで着替えて装備を付け、荷物をまとめる・・・といっても大した持ち物は無いので初めからほとんどまとまっているのだが・・・
そしてユナとヒナのところへ戻った。
「準備はいいぞ」
「じゃあ、逃げるわよ」
「俺が突破口を開く」
俺はストーンブレードを目の前で回転させ、それを盾にして、部下たちを振り払いながら前に進んだ。
宿の外に出ると、宿の周りにもあの男の部下らしき者たちが集まっていていた。
いったい何人いるんだ?こいつらは。
「これはきりがないわね」
「じゃあ、一気に突破する!」
俺はもう一つストーンブレードを出現させて、二本を回転させながら通り道を確保した。
「このまま一気に町の外まで走るぞ!」
俺は複数の魔法を同時に扱うのは苦手だが、全く同じ動きをさせるのなら問題ない。
回転する二本のストーンブレードは凶悪で、部下たちは皆、道を開けてくれた。
俺達三人は、その後ろを全速力で駆け抜ける。
追いかけて来た連中は俺達より足が遅く、次第に距離が離れていった。
やがて町の外に出る城門が見えてきた。
俺はストーンブレードの回転を止めて背中に張り付かせた。
こうすれば普通に背負っている様に見える。
「どうしたんだ?こんな夜中に?」
門番に止められた。
さすがに夜中は門が閉まっていて、特別な理由が無ければ開けてもらう事は出来ない。
「俺は上級冒険者だ。緊急の依頼が入ってすぐに行かなきゃいけないなった。ここを通してくれ」
俺は上級冒険者証を見せた。
どの国でも、上級冒険者の行動には協力しなければならない決まりになっているのだ。
「そうか、何か事件が起きたんだな?良いだろう、早く行け」
門番が城門脇の通用口を開けてくれた。
「協力、感謝する」
俺はそう言って扉を通り抜けようとした。
すると、その時、追手が追いついてきた。
「そいつらを捕まえろ!門から出すんじゃない!」
追手が門番に向かってそう叫んだ。
「まずい!すぐに門を抜けるぞ!」
「待て!お前たち一体・・・」
俺は門番の前に次々とストーンランサーを突き立てた。
「すまない、先を急いでるんでな」
「ごめんなさい、門番さん」
「じゃあ、ごきげんよう」
俺達は通用口を抜けて城門の外に出る事に成功した。
通用口はストーンランサーで塞いだのでしばらく追手は来ないだろう。
だが、ここは、魔物が徘徊する城門の外だ。
ゆっくりはしていられない。
「このまま国境まで走って国外まで出るわよ」
「ここから国境までどれくらいあるんだ?」
「あたしたちのペースなら夜通し走れば明け方には着くんじゃないかな?国境は夜間は通行できないけど、夜明けと同時に通行できるようになるから丁度いいわね」
「一晩中走るんですか?」
「あたしたちはこの国では指名手配がかかる可能性があるからね。情報が国境に届く前に抜けないと、国外に出られなくなるかもしれないのよ」
「ユナの言う通りだ。ヒナ、きついだろうが頑張れるな?」
「はい!ゲンさまのおかげで元気いっぱいになりました!」
・・・何であんな約束で元気になるんだ?
「とにかく、ゆっくりしていられないわ、もう行きましょう」
「ああ、そうだな」
そして、俺達は一晩中走り続けたのだった。




