189話 実技試験の結果
「じゃあ、次はヒナちゃんだね?何か得意な中級魔法を発動してみて」
セナはにこにこしながらヒナに指示をした。
「ええと・・・どうしましょう?ゲンさま」
「とりあえず魔法陣を描いてみろ」
「はい、描きます」
ヒナは『ウィンドアロー』の魔法陣を空中に描いた。
「へえ!ヒナちゃんも魔法陣描くの速いねぇ!」
剣士としての腕前も上がって来たヒナは、当然、魔法陣の描画速度も上がっていた。
「うん、形も悪くないね。じゃあ、魔法陣に魔力を入れてみて」
「・・・・・はい、やってみます」
ヒナは魔法陣に向けて杖を構え、いかにも魔力を魔法陣に注ぎ込むような姿勢になった。
「はーーーーーーっ!」
「やーーーーーー!」
「うーーーーーん!」
ヒナは全身に力を込めて魔力を絞り出そうとしている。
・・・だから筋肉に力を籠めればいいってもんじゃないんだが・・・
今度は両手でしっかり杖を握りしめて前に突き出した。
「とおっ!」
「えいっ!」
「やぁっ!」
さっき以上に気合を込めて魔力を絞り出そうとしている感じだ。
・・・顔を真っ赤にして、何だか変な汗が滲み出してないか?
やめさせた方がいいんじゃ?
相変わらずヒナの体から魔力が出てくる感じが、全く感じ取れない。
「ヒナちゃん、それじゃだめだよ。僕がちょっと手伝ってあげよう」
セナはそう言うとヒナの背後に何か小さな魔法陣を描き、聞いた事の無い魔法を発動した。
「じゃあ、もう一回やってごらん。体の力は抜いて魔力だけが体から流れ出す様にイメージしてごらん」
「はい・・・やってみます」
今度はさっきより落ち着いた感じで杖を構えた。
・・・そして、ヒナの体内の魔力量が少しだけ増大した様な感じがした。
元々、ヒナの魔力は体の奥の方に眠っていて、かなりの魔力量を保有しているだろうことは、俺もなんとなく感じ取っていた。
しかしヒナの魔力は、体の奥底に集まっていて、全然表層に流れ出そうとして来ないイメージなのだ。
それが、今は体の中心に集まっていた魔力がほんの少しだけ膨らんだように感じたのだ。
これなら、もしかしたら行けるかもしれない。
・・・しかし、その後は何の変化も起こらなかったのだった。
「・・・なるほどね・・・・」
セナは微笑みを崩さずに何かを考え込んでいる様だった。
「じゃあ、次は上級魔法の魔法陣を描いてみようか?」
試験は不合格ではなくてまだ続くらしい。
「・・・はい、では、ゲンさまと同じ『ヘルフレイム』で」
ヒナは杖を構え、空中に大きな魔法陣を描いた。
「ほぅ!ヒナちゃんまで『ヘルフレイム』の魔法陣をこんなに速く描けるようになってたんだね。こりゃ二人とも将来が楽しみだ」
セナはにこにこしながらうなずいていた。
「うんうん、形も申し分ないね、間違いが一つもないし、完璧だ。でもこれ、ララちゃんの改良版のヘルフレイムだよね?一般的なヘルフレイムの魔法陣じゃないから他の人の前で使う時は気を付けてね」
「そうなのか?師匠から覚えるならこっちの方がいいよ!って軽く言われてたんだが」
「この魔法陣はララちゃんが改良して魔力効率が上昇し、威力が増加したヘルフレイムなんだよ。確かに発動後の制御も楽だし、体への負担も少なくていいんだけど、まだ非公式だからね」
・・・師匠・・・相変わらずその辺は大雑把だな。
「さて、この魔法陣なら問題なく魔法が発動できるはずなんだけど・・・ヒナちゃん、魔力を注入してみて」
「・・・あの・・・でも、さっきもだめでしたし・・・」
「今度は最初から僕がサポートするから、とにかくやってみて」
「・・・はい・・・では、いきます!」
ヒナが杖を構えると、セナはさっきと同じ様にヒナの背後で魔法を発動した。
・・・さっきより少し大きい魔法陣みたいだったが、何の魔法かは、やはりわからない。
ヒナが、魔法陣に魔法を流し込もうとすると、ヒナの体内の魔力がさっきよりも大きく膨れ上がった。
もう少しで表皮から外に魔力が流れ出しそうな感じだ。
「いいぞ!ヒナ!もう少しだ!」
・・・思わず声が出てしまった。
しかし、魔力の増大は、なぜかそこでピタッと止まってしまった。
おしい!あと少しだったのに何でそこで止まってしまったのだろう。
何だかヒナの表皮に強力な魔力結界でも張られているかのような感じだった。
その後も、しばらくヒナは頑張っていたのだが、ついに体力も限界に来たみたいだ。
立ってるのがやっとって感じだ。。
「よし!じゃあ、ここまで」
セナが試験終了を告げると、ヒナは、力尽きて倒れてしまった。
俺は慌てて、倒れそうになったヒナを受け止めた。
「大丈夫か!ヒナ!」
「・・・ゲンさま、ありがとうございます・・・ゲンさまに抱きしめられて幸せです・・・」
「・・・こんな時に何言ってる・・・」
ヒナは汗だくになりながらも嬉しそうだった。
・・・だが、試験はこれで不合格だろうか?
「じゃあ、この後は二人とも面接だから、少し休憩して落ち着いたら僕の執務室まで来てね!」
「ヒナは、不合格じゃないのか?」
「合否は全部終わってから発表するよ」
セナはそう言ってその場から立ち去った。




