187話 魔法士試験対策
ヒナの下級剣士試験合格祝賀会の翌日・・・
この日は、師匠が次の国外遠征へと旅立つ日だった。
今度もかなり長期に渡った遠征になるらしい。
「じゃあ行くね!上級魔法士試験、頑張ってね!」
「ああ、師匠もこれ以上、旦那を増やすんじゃねえぞ!」
「あはははは!もうこれ以上は絶対ありえないよ!」
・・・それ・・・フラグじゃねえよな?
「ゲンの方こそ、三人目のお嫁さん作っちゃだめだよ?」
「いや!二人も・・・いねえし!」
・・・微妙に・・・完全否定しきれなかったのが情けねえ・・・
・・・こっちもフラグじゃねえよな?
「はい!ゲンさまにこれ以上お嫁さんが増えない様にわたしがしっかりと監視します!」
・・・ヒナ・・・それって、自分までは含めてるって事だよな?
「あはははは!ゲン!二人を悲しませちゃだめだからね!」
・・・だから、何でそれが確定事項になってんだ!
そうして師匠は笑い転げながら旅立っていった。
「行っちゃいましたね?ララさま」
「ああ、そうだな」
「お寂しいですか?ゲンさま?」
「そんな事ねえよ!」
「ふふっ!しかたないですね。シアさまとララさまの二人分、わたしがたっぷりと甘えさせてあげますよ?」
「そんな事に気を使わなくていいから、ヒナは魔法士試験に集中しろ!」
・・・しかし・・・師匠と再会したこの数日で、師匠への気持ちがぶり返してしまったのは、自分でも自覚しているのだ。
そして・・・ヒナに対する感情が、単なる兄妹愛や家族愛の様なものではなく、恋愛感情に変化しつつあるのではないのかという事も、自覚し始めていた。
さすがに俺も、これだけ恋愛経験が豊富になって来れば・・・・・って、言うほどの経験数でもないのだが・・・・・今の自分の感情が何なのか、自覚できる様になってきてはいる。
もちろん、シアへの気持ちが薄れたという事はない。
会えない時間、シアの事を忘れた事はないし、むしろその思いは強くなっているのだ。
一人に決めて、その一人を大切にしなきゃいけないってのは理解していたし、そうする覚悟は出来ているつもりだった。
しかし、例の、帝国の話を聞いてから、その決心が揺らいでいるのは自分でも感じているのだ。
だが、今は目の前の事だけを考えねえとな!」
「ヒナ!今日からは魔法士試験の事だけ考えろ!絶対に合格するぞ!」
「はい!ゲンさまにどこまでもついて行きます!」
ヒナは胸の前で両手を握りしめて俺を見上げていた。
・・・やる気だけは有るんだが、大丈夫かな?
「・・・・・ゲンさまぁ・・・わたし、やっぱりだめかもしれません・・・」
魔法の特訓を再開したとたんに、ヒナが挫折していた・・・
「あきらめるな、魔力量は有るんだ。きっかけさえつかめれば絶対に魔法が使えるようになる!」
・・・ヒナはこの期に及んで、いまだ、魔法が全く発動できていないのだ。
学科の方はミト先生の見立てでは十分余裕で合格できるレベルに達しているそうだ。
ヒナの人並外れた記憶力があれば、そう難しい事ではなかった。
しかし、実技の方は全く解決の糸口が見えていなかった。
「ミト先生、何とかなんねえのか?」
「そうですねえ・・・こればかりは原因が解明できないと・・・」
「わたし・・・やっぱり魔法使いじゃないと思います」
「でも、並みの上級魔法士を凌駕する魔力量を持っている事は間違いないのよねぇ」
ミト先生も頭を抱えている。
「ヒナさんが覚醒するきっかけが何なのか、わかればいいのですが」
アン王女も一緒に対策を考えてくれている。
「冒険者になったり、剣士試験に合格出来たらそれがきっかけになるのかと思ったですが、思ったほどのインパクトはありませんでしたし・・・」
予想以上に成長の早かったヒナは、下級剣士試験に合格したが、本人も周りもそれが当然という空気になっていたからな。
「もっとこう、人生が変わるくらいの強烈な衝撃を受ける出来事が必要なのかもしれませんね」
「人生が変わるくらいの衝撃的な出来事って・・・何なのでしょう?」
「そうですねぇ、親や家族、あるいはそれ以上に大切な人が死んでしまうとか・・・後は運命の人と結ばれるとかですかねぇ」
「ええっ!両親は亡くなってるし、お姉ちゃんが死んじゃうなんて絶対嫌です!・・・そうなると・・・ゲンさま!わたしを抱いてください!」
「なんでそうなる!」
「何となくですが・・・ゲンさまと結ばれたら、魔法が使える気がします!」
「ばか!そんな事できるわけねえだろ!それにたとえばの話で何の根拠もねえ!」
何を言ってるんだ!ヒナは!
「試してみる価値はあるのかもしれませんが、さすがに学院の教師として生徒にそれを認める訳にはいきません」
吹き出すのをこらえながらミト先生が止めてくれた。
一応、学院内での不純異性交遊は禁止されている。
「ちぇっ、ダメでしたか・・・あわよくばゲンさまに抱いてもらえると思ったのに」
・・・ヒナ、お前、そっちが目的か?
「とにかく、試験の直前で覚醒する可能性もありますから、残りの時間は魔法のイメージトレーニングなど、覚醒した後を想定したトレーニングを続けていきましょう」
「それでしたらわたくしも協力いたします」
アン王女は精神に関与する魔法が得意だったよな?
イメージトレーニングの手伝いにはもってこいだな。
「王女殿下に手伝って頂くなんて、恐縮です」
「ここではただの学友ですよ。遠慮しないで下さい」
「俺も自分の訓練をしておかねえとな」
こうして、俺とヒナは、連日魔法の訓練を続け、ついに試験当日を迎えたのだった。




