177話 新米冒険者
「やりました!よくわからなかったけど、合格しました!」
・・・やっぱりヒナ自身も良くわかっていないらしい。
「ああ、合格だ。よくやったな」
俺はヒナの頭を撫でた。
「えへへ、嬉しいです!」
ヒナはご機嫌だった。
「やはり、上級冒険者パーティー『黒曜石の剣』の関係者だけあって、ただ者では無かった様ですね」
試験官は勝手に納得していた。
・・・俺達が今まで派手にやり過ぎて、『黒曜石の剣』の名は変に悪目立ちしてしまっているのだ。
「ヒナは自分が今何をしたのかわかってないのか?」
「とにかく勝たなきゃ!って思って、ありったけの力を一撃目に込めたつもりだったんですけど!まさか勝ってしまうなんて思ってませんでした!」
「試験だから相手を倒さなくても合格は出来たんだが」
「そうだったんですか!試験の直前にバトラーさまが、試験官を倒さないと合格できないですよって、おっしゃられたので」
・・・・・それって、お約束なのか?
「とにかく合格は合格だ。変に勘繰られ前に登録を済ませてしまおう」
試験官のいる前で、ヒナが附加装備を使いこなせた理由を追及していると、合格が取り消しになってしまう可能性がある。
今は、このまま結果を甘んじて受け入れた方が得策だ。
俺達は受付に戻って登録手続きを完了させた。
「では、これがヒナさんの下級冒険者登録証です」
「わあ!これでわたしも冒険者になれたんですね!」
ヒナは本当に嬉しそうだ。
受け取った冒険者証を高く掲げて眺めている。
「いつかお姉ちゃんと一緒に冒険の旅をするのが夢なんです!」
「そうか・・・それならもうすぐその夢が叶うな」
「その時は・・・ゲンさまも一緒がいいです」
ヒナは冒険者証で口元を隠し、顔を赤らめてはにかみながらそう言った。
「そうだな、みんなで一緒に旅が出来たら楽しいだろうな」
「はい!早くそうなる様にがんばります!」
「今日は学院もお休みで、まだお時間もありますし、これから簡単な依頼でも受けてみてはいかがですか?」
バトラーが提案してくれた。
「わたし!依頼受けてみたいです!」
ヒナも乗り気だ。
・・・今日のところは冒険者登録だけで済ませようと思っていたんだが・・・
やる気に満ちたヒナの気を削ぐこともないか?
「そうだな、危険度の低い依頼なら構わないか?」
いきなり魔物退治もどうかと思うので、とりあえず無難なところで薬草採取ってところか?
途中、魔物に出くわす可能性もあるが、それは俺とバトラーで対処すればいい。
ヒナには薬草採取の目的達成に専念してもらえばいいだろう。
「じゃあ、最初は薬草採取でいいな?」
「はい!それでいいです!ちょうど薬士講座で薬草の勉強も始めたところなので、いい復習になりそうですね」
「ヒナは薬士の講座にも入ったのか?」
「はい、折角だから役に立ちそうな事は学院に在学中に出来るだけ身に付けてしまおうと思ったんです」
「ははは、まるで師匠みたいな事を言うな?」
「そうなんですか?」
「ララ様は学院の歴史上ただ一人、全ての講座を習得されて卒業なさった方でございます」
バトラーがヒナに説明してくれた。
「へえ、ララ様って本当にすごい方なんですね?やっぱり勇者だからですかね?」
「前にも言ったが、師匠は勇者の能力と関係なく、努力する事が好きみてえなんだ」
「ふふふっ、ゲンさまが頑張っている女性がお好きなんですね?」
「なんでそういう話になる?」
「だって、シア様もそうですし、ゲンさまが女性の事を話す時って、その人が頑張ってる事を褒める話ばかりですよ?」
「・・・そうか?・・・それは単に俺の身近にいる女性が頑張ってるやつばかりだって事じゃねえのか?」
「だからわたしも目一杯頑張ろうと思ってるんです!」
・・・何が『だから』なのかわからねえが、まあ、頑張るのは悪い事じゃねえだろう。
度が過ぎなければな。
俺達は依頼の中から適当な薬草採取の依頼を選んで受ける事にした。
一応、今回の依頼はヒナがメインで受けて、俺とバトラーは付き添い兼護衛という役まわりだ。
目的の薬草が生えているのは王都の外だが、その場所であれば日が暮れる前には帰って来られるだろう。
「じゃあ、遅くならねえうちに出発するか」
「はい!初めての依頼でわくわくします!」
「薬草採取って言っても、魔物が出現する可能性のある場所だ。気を引き締めて行けよ」
「はい!わかりました!」
・・・相変わらず、いつも返事が元気だな。
まあ、いい事だが。
そして、ヒナの元気なふるまいは、ギルド内でも好印象だったらしく、冒険者たちが老若男女を問わず、温かい目つきでヒナの事を見守っていた。
物静かなシアとはまたちょっと違ったタイプだが、これですっかり冒険者の人気者になっちまうだろうな。
さすがに師匠もここまで元気いっぱいでは無かったと思うぞ。
・・・俺の脳裏に時々よぎる、ヒナの記憶の中の、感情の無い、無口なヒナと同一人物とは思えない言動に、多少の違和感は感じるものの、今のヒナが幸せにあふれた未来を歩んでくれる事を俺は嬉しく思っていた。




