176話 冒険者登録
「わあ、ここがこの町の冒険者ギルドですね!」
ヒナのいた氷雪の国の冒険者ギルドは、魔物退治に特化したギルドだったために、戦闘力の高い猛者しかいなかったのだが、ここのギルドは、もっと日常的な依頼も多く取り扱っており、初心者の若い冒険者や女性の冒険者も多いのだ。
それでもヒナがギルドに入ると注目を集めた。
この容姿とこの装備だ。目立たない訳がない。
・・・と言っても、この状況は俺にとってはいつもの事だった。
師匠と一緒の時も、シアと一緒の時も、大体、ギルドに入るとこんな反応だったからだ。
俺はヒナを受付に連れて行った。
「これは上級冒険者のゲン様、国外遠征から戻っていらしたんですね。あの依頼では大変なご迷惑をおかけしまして、当ギルドといたしましても、心よりお詫び申し上げます」
「ああ、その件は解決したから大丈夫だ。それよりも今日はこいつの冒険者登録に来た」
「こちらのお嬢さんですか?」
「ヒナと申します!よろしくお願いします!」
ヒナは少し緊張気味に深々とお辞儀をした。
「では、こちらの用紙に必要事項を記入願います。ヒナさんは剣士や魔法士などの資格はお持ちですか?」
「まだ何も持っていないです」
「そうですか、そうなると実技試験を受けて頂く必要があります」
「実技試験というのは何を行なうのですか?」
「ええと、ヒナさんは魔法士ですか?」
「いえ、剣士で冒険者になろうと思います!」
「それでしたら剣で模擬戦を行なって頂きます。用紙の記入が終わったら訓練場の方へお越しください」
「はい!わかりました!」
ヒナは用紙に必要事項を記入した。
所属パーティーを書く欄があったからそこには『黒曜石の剣』と記入した。
「ええと・・・これは?」
「俺達のパーティー名だ。今日からヒナもパーティーメンバーだ」
「えっ?わたしが入ってもいいんですか?」
「もちろんだ、当面は俺と一緒に行動するだろ?」
「それはそうですね・・・ありがとうございます!」
ヒナはとても嬉しそうに笑った。
訓練場に着くと、試験官の剣士が待っていた。
「ではそこの武器の中から好きなものを選びなさい」
そこには模擬戦用の剣や槍などの武器が並んでいる。
「ええと・・・じゃあ、これで!」
ヒナは二本の短剣を手に取った。
「お嬢ちゃん、初心者だろ?いきなり二刀流は無理だと思うが?」
「大丈夫です!これでやります」
ヒナは日々の訓練でだいぶ短剣の扱いが上手くなってきている。
最近は自主的に二刀流の練習をやり始めているのだが、はっきり言って、現時点では一本の方が有利に戦えるはずだ。
だが、どうしても二刀流にこだわりがあるみたいなのだ。
二刀流の最大の欠点は、剣を片手で持たなければならないため、絶対的に剣戟の威力が弱くなる点だ。
当然、両手で剣を持った相手とまともに打ち合えば、力負けする。
そこで、二本目の剣を上手く活用する訳だが、実際にやってみるとそんなに簡単なものではない。
「どうしてもと言うなら構わないが、二刀流のせいで実力が発揮できなかったとしても不合格にするからな」
試験官は、相手が女の子だろうと手加減する気は無い様だ。
実力が無い者が冒険者になっても命を落とすだけだ。
そこはしっかりと合否を判定しないと意味がない。
「はい!それでいいです!」
ヒナの、この謎の自信はどこから来るのだろう?
そして試験が始まった。
ヒナは二本の短剣を両手にぶら下げる形で試験官に向かって走っていった。
そして右手の短剣で試験官に切りつけた。
試験官はロングソードでそれを受け止め、押し返した。
・・・はずだったのだが・・・・
試験官はそのままヒナの右手の短剣に押し負けて体勢を崩し、そこにヒナが左手の短剣で二撃目を入れたのだ!
・・・あっさり勝負がついてしまった・・・
一体何が起きたのか?
当のヒナと試験官の二人とも唖然としている。
何でヒナの一撃目にあれほどの威力が・・・って、そうか!
ヒナが今身につけている装備は『附加装備』だったのだ。
附加装備ってのは普通の装備や、一般に出回っている魔法を付与した装備とは格が違う。
国宝級の高級品なのだ。
その最大の特徴は、装備者の能力を倍増する事に有るのだが、装備者の能力が高ければ高いほど、その効果が大きくなる事にある。
一方で、扱いが難しく、技の熟練度が高くないと使いこなすのが困難なのだ。
・・・そして、今のヒナの技は、附加装備の能力を使いこなす事によって可能な技だったのだ。
俺は子供の頃から師匠の技を真似して訓練をしてきたおかげで、附加装備を使いこなすために必要なスキルがある程度身に付いていたから、それほど苦労せず使いこなせていたが、普通の剣士がいきなり使うのは難しいのだ。
師匠の作った附加装備は、いきなり最大能力を発揮すると使用者に危険が及ぶので、リミッターを付けてあるはずだ。
使用者が未熟な場合は、それに合わせて出力を制限する機能だ。
しかし、つい最近初めて剣を握って、練習を始めてから間もないヒナが、なぜあそこまでの力を使いこなす事が出来たのだろう?
「今の技は何だったんだ?・・・君、初心者じゃないだろう?・・・とにかく合格だ」
試験官は戸惑いつつも、ヒナの合格を認めてくれたのだった。
 




