174話 魔女の特性
「魔女は覚醒するまで一切の魔法が使えないって話だったよな?」
師匠は魔女として覚醒するまで。魔法も身体強化も使えなかったって話だった。
どうやら魔女ってのはそういうものらしい。
「ヒナは亜魔女の中でも特に本物の魔女に近いって事じゃねえのか?」
「そうですね、本物の魔女と同様に『覚醒』しないと魔法が使えないのかもしれません」
アン殿下も俺と同じ事を考えていたみてえだな。
「『覚醒』って何ですか?」
ヒナが俺に尋ねた。
「本物の魔女ってのは生まれつき魔法が使えねえんだが、あるきっかけで覚醒して魔女の力が使えるようになるらしいんだ」
「そのきっかけって、何でしょうか?」
「それが、魔女によって異なるらしいんだ。ヒナにはヒナのきっかけがあるのかもしれねえな」
「わたしが魔女として覚醒するきっかけですか・・・一体何なんでしょう?」
「さあな、俺にもこれ以上詳しい事はわからん」
「でも、どうしてゲンさまはそんなに魔女の事にお詳しいのですか?」
「あっ、ああ、これか?これは、元々シアが魔法の事が好きで、色々調べていたんだ。その話をシアから聞かされていたんだ」
師匠が魔女って事は、今のところヒナには秘密にしている。
「そうなんですね?そういえばシアさんは亜魔女になってすぐに、魔女の魔法を自在に使いこなしていたんですよね?」
「シアはそれ以前から、『魔術師』を目指して魔法の勉強を頑張っていたからな。魔女の力を使ってるというよりは、魔法士として、魔力量が増えて、魔法陣や詠唱がいらなくなったってぐらいの変化でしかねみてえだが、シアの事だからこれからもっと努力してとんでもねえ魔女になっちまうかもしれねえな」
「そっかぁ・・・シアさんにとっては夢が叶ったって事なんですよね?」
「まあ、そうだな。今もその力を人のために役立てたくて頑張ってるからな」
「そうですね!シアさんはすごいです!・・・でもわたしは別に魔女になりたかったわけではないですからね」
ヒナは何かを考えこんでいた。
「やっぱりわたしが今なりたいのは冒険者です!」
「どうしたんだ?急に?」
「わたしが魔法を使える様になるには、何かのきっかけで『覚醒』しないといけないみたいなお話でしたよね?」
「ああ、その可能性が高いって話だな」
「だったらとりあえず一番やりたい事を突き進む事が『覚醒』への近道の様な気がするんです」
「何か根拠があるのか?」
「思いつきです!」
・・・根拠もないのにすごい自信だな・・・
「ふふふっ」
「あはははは」
なぜかアン殿下とミト先生が笑い出していた。
「ララさんと同じ事を言うんですね」
「ほんとです、お姉さまが全く同じ事を言っていた気がします」
そういえばそうだな・・・師匠だったら深く悩まずに突き進みそうだ。
「その通りかもしれませんね。とりあえず魔法陣の練習は続けて頂きますが、それ以外の時間はやりたい事に専念した方がいいのかもしれません」
ミト先生も認めてくれた。
「そういう事で、ゲン君もヒナさんのサポートをお願いします!」
「わかった、俺のできる事は何でも手伝ってやろう」
「じゃあ、ゲンさまと一緒に剣術の講座にも参加したいです!」
「・・・大丈夫なのか?ミト先生」
「そうですね・・・今年のカリキュラムは魔法士の講座と剣術の講座は時間が重なっていませんので両方受講する事は可能ですね」
「そうじゃなくて、魔法の修行に集中しなくても大丈夫かって事だ」
「さっきも言った様に、自分のやりたい事に夢中になるのが一番の近道かも知れません。たとえ遠回りに見えたとしても」
「そうか・・・じゃあ、ヒナは、とりあえず剣士として冒険者を目指すって事でいいのか?」
「はい!がんばります」
こうしてヒナは、剣術の講座にも参加する事になった。
ヒナを剣術講座に連れて行ったら、男子どもが大喜びしていた。
剣術講座はただでさえ女子が少ない上に、その女子も男勝りの気の強い女子が多くて、ヒナの様なタイプは希少なのだ。
「ヒナちゃん!講座が一緒になって嬉しいよ!」
中でもキアが一番盛り上がっていた。
「キアさん!わたしも一緒になれて嬉しいです!」
ヒナは誰にでも分け隔てなく愛想を振りまくので、キアを始め、すでに大半の男子が勘違いしているのではないだろうか?
かといって、女子から疎まれているかというと、そうでもなかった。
「ちょっと!男子たち!ヒナちゃんから離れなさいよ!彼女困ってるじゃないの!」
基本的に妹属性のヒナは、姉御肌の女子たちからすると守ってあげたくなるかわいい妹分に見えるのだろう。
「ヒナちゃんは初心者だし、あたし達で面倒をみるわ!」
「ありがとうございます!よろしくお願いします!」
ヒナの満面の笑みは、剣術講座の女子たちも魅了してしまった様だ。
とりあえず、これで、安心して剣術講座に参加させられるな。
しかしヒナは誰からも好かれるよな?
実は『魅了』の魔法でも使ってるんじゃないかってくらい、みんなから好かれている。
まあ、あの容姿であの笑顔を向けられたら誰でもそうなるか?
そういうところも、ほんとに師匠そっくりだな。
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【A.E. エゴドロイドと世界で最後の少女】
アンドロイドが主人公のSF恋愛ものです。




