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勇者を名のる剣聖の弟子  作者: るふと
第六章 魔女の末裔
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167話 新学期の始まり

第6章 『魔女の末裔』 開始します。

ゲンとヒナが中心の話です。


「・・・勇者さま・・・勇者さま・・・」



 ん、誰か師匠を呼んでいるのか?



「勇者さま、勇者さま、起きて下さい」



 もしかして、俺を呼んでるのか?



 俺は、『勇者』じゃねえぞ。



「早く起きないと遅刻しちゃいますよ!こうなったらくすぐっちゃいます!」



 誰かが俺の上に飛び乗って来た。


 そして脇の下をくすぐり始めたのだ。



「わっ!やめろ!くすぐったい!・・・ヒナか!何やってんだ!起きたからやめろ!」



 目を開けると・・・朝の光の加減で僅かに緑色がかって見えるヘーゼルの髪に、薄緑の瞳をした、まるで森の妖精の様な美少女が俺に跨っていたのだ。



「ふふっ、やっと起きましたね!今日は学院の登校日ですよ。早くしないと朝ごはんを食べる時間が無くなっちゃいますよ!」


 美少女は満面の笑みで俺にそう言ったのだが・・・



「こらっ!ヒナ!どこに座ってる!」



 俺はヒナを突き飛ばして、ヒナの下から抜け出した。



 寝起きで硬くなった俺の股間に、何か柔らかくて気持ちいいものが触れていると思ったら・・・




「いたたたた。ひどいです、勇者さま」


 ベッドの上でひっくり返ったヒナの制服のスカートの中にそれが見えていた。



「・・・見えてるぞ、ヒナ」



「やん!」


 ヒナは慌てて起き上がるとスカートの裾を直して真っ赤になっていた。



 ・・・一応、恥じらいはしっかり持ってるんだよな?


 「さっ、起きたのでしたら早く着替えて食堂に来て下さい!」



 ヒナはそう言って、真っ赤な顔のままそそくさと部屋を出て行ってしまった。




 ヒナは、冒険者ギルドの依頼の国外遠征先で知り合った少女だ。


 訳あって、この師匠の屋敷で俺と一緒に暮らしている。


 屋敷の主である俺の師匠は、国外での仕事があるとかで、先日から家族ぐるみで出かけてしまった。


 つまり、今、この屋敷には俺とヒナの二人だけで住んでいるのだ。


 まあ、二人と言っても他に、執事やメイドたちもいるのだが・・・


 最近、ヒナの俺に対するスキンシップが日に日にエスカレートしているのは気のせいだろうか?




 そして、俺とヒナは今日から一緒にこの王都の学院に通う事になっている。


 俺は学院の卒業資格を既に得ていて、冒険者の活動のために長期休学していたのだが・・・ある事情で、ヒナと一緒に再び学院に通わなくてはならなくなってしまったのだ。




 着替えて食堂に行くとヒナが席に着いて待っていた。


「先に食べてても良かったんだぞ」


「勇者さまと一緒に食べたかったんです」


「その『勇者さま』ってのもやめてくれ。この世界に『勇者』は一人しかいねえんだ」


 俺の師匠こそが、その『勇者』なのだ。


「ふふっ、二人きりの時にしか呼びませんよ!ゲンさま」


「『ゲンさま』ってのもやめてくれ、呼び捨てでいい」


「それは譲れません!ゲンさまはわたしの恩人で、わたしにとってはゲンさまこそが『勇者さま』なんです!わたしはゲンさまを『勇者さま』って呼ぶ時に、とっても幸せを感じるんです!ですからゲンさまを呼び捨てになんてできません!」


 ・・・理屈が良くわからんが、そこは譲れないらしい。



 とりあえず俺は席に着いて食事を始めた。

 それを見て、ヒナも食事を始めた。


「ふふっ、やっぱり一人で食べるより一緒に食べた方がおいしいです!」


「・・・やっぱりユナと一緒に暮らしたいか?」


 ヒナは長年生き別れていた姉のユナと、つい先日無事に再会する事ができたのだ。


 しかし、ユナは、依頼先の国でまだやる事があるためその国に残っているのだ。


「おねえちゃんとは会おうと思えばこれからいくらでも会えますから!・・・それよりも、ゲンさまの方こそ、シアさまと会えなくてさみしいのではないですか?」


 シアと会いたいかと聞かれれば、もちろん会いたいに決まっているのだが・・・


「シアも俺も、今はそれぞれやるべき事があるからな」


「ふふふっ、お二人とも心から信頼し合っているんですね!羨ましいです!」


 面と向かってそう言われるとかなり恥ずかしいな。


「お二人はわたしにとって理想の恋人同士なんです!なんと言っても『勇者さま』と『聖女さま』ですから!」


 ・・・俺は『勇者』じゃねえし、シアも『聖女』じゃねえけどな・・・


「でも・・・シアさまがいなくて、どうしても寂しかったら・・・わたしがシアさまの代わりになぐさめてあげますからね!ララさまも不在ですし、遠慮なくわたしに甘えて下さいね!」


 ・・・ヒナのスキンシップが多くなったのはそういう事か!


「そういうのはいらねえよ」


「あはははは!」


 冗談なのか本気なのかわからねえが、ヒナが楽しそうに笑っているならそれでいい。




 ヒナは不幸な過去を背負っていたのだ。


 本来だったらこんなに楽しそうに笑う事は、二度と無かったのかもしれない。


 俺の軽はずみな行動がヒナの性格・・・いや、人生自体を大きく変えてしまったのだ。

 だから俺はヒナに対してその責任を負う義務がある。


 だが、ヒナの楽しそうな笑顔を見ていると、俺のやった事が少しは許された気がするのだ。




「さあ、そろそろ学院に行かねえと遅刻するぞ」


「はい!すぐに準備します!」


 ヒナはとびっきりの笑顔で元気に返事をした。




 俺は生涯をかけて、ヒナのこの笑顔を守ってやらねえといけねえな。


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