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勇者を名のる剣聖の弟子  作者: るふと
第五章 氷雪の国
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161話 少女の勇者

「わたしの勇者様!」



 目を覚ましたヒナは俺を見て『勇者』と言って抱きついてきたのだ。


 ヒナの柔らかい頬が俺の頬に触れた。




「ヒナ、どうしたの?しっかりして!」


 ユナの声でヒナはユナの方を見た。


「あっ!おねえちゃん!」


 ヒナは俺に抱きついたままグイっとユナの方を向こうとした。




「・・・一旦放してくれないか?」


 俺はヒナに頼んだ。


「ああっ!ごめんなさい!勇者様!」


 ヒナは慌てて俺を抱きしめていた腕を放した。


 ヒナの顔が真っ赤になっている。



「ヒナ!あたしのことがわかるのね?」


 今度はユナがヒナに抱きついた。


「もちろんだよ!おねえちゃん!ずっと会いたかった!」


 ヒナもユナの事を抱きしめ返した。


 感動の姉妹の再会だ。




 ・・・その前に俺が割り込んでしまったが・・・




 さっきのは一体何だったんだ?


 ヒナは『勇者』と面識は無かったはずだが?

 そもそもなんで俺を『勇者』と間違えた?




「ごめんね、辛い思いをいっぱいさせちゃったね」


 ユナが泣きながらヒナに謝った。


「ううん、わたしは全然辛くなかったよ?離れていた間もずっとおねえちゃんの声が聞こえていたし」


「ヒナ、あたしの呼びかけが聞こえていたの?」


「うん、辛い時やさみしい時は、いつもお姉ちゃんの声が頭の中に聞こえて、励ましてくれていたよ」


 良かった・・・ユナの呼びかけはちゃんと届いていたんだな。


「それに、勇者様がいつでも私の事を助けてくれたんだよ!」


 ヒナが俺の方を見て微笑んだ。


「勇者って・・・俺の事か?」


「はい!魔物に襲われた時や・・・・・その・・・男の人に襲われそうになった時には、いつも助けてくれましたよね?」


「俺の事が、見えていたのか?」


「いつも突然現れて、一瞬でいなくなってしまいましたので最初はよくわからなかったのですが、毎回注意深く見ていたら、お顔が見える様になりました」




・・・ 確かに、あれだけの回数助けに入っていたら、見られていてもおかしくない・・・のか?


 しかし、ヒナの記憶を見ていただけのはずの俺を見る事が出来るなんて・・・これはヒナの能力なのか?




「あの・・・勇者様は・・・どうして私の事をずっと守ってくださったのですか?」


 ヒナが顔を赤らめてはにかみながら俺に尋ねた。


「ユナに頼まれたんだ。自分がいない間、妹の事を守ってくれと」


「おねえちゃんは勇者様とお知り合いだったのですね?」


「うん・・・まあ、友人・・・だね」


「すごい!おねえちゃん!勇者様とお友達なんて!・・・それに、そちらのきれいな方は、『聖女様』ですよね?」


 ヒナは今度はシアの方を見て言った。


「わたし!?・・・ですか?」


「はい、聖女様がわたしを元通りに治してくれたんですよね?」


 ヒナは屈託のない笑顔でシアに微笑みかけた。


「ええと・・・確かにわたしがヒナさんの治療をさせて頂きました」


「ありがとうございます!聖女様!ずっと聖女様の加護に守られているのを感じていました。想像してた通りのきれいな方なのですぐに分かりました」




 ・・・シアの事も気がついていたのか?




「それから・・・そちらの『魔女』さん?・・・『魔女』さんもわたしの事を助けて下さいましたよね?」


 今度はビビの方を見て言った。

 見た目が完全に魔女だから『魔女』と思われて当然・・・なのか?


「ビビも・・・手伝ってくれていたのか?」


「あなたが無茶をし過ぎてシアさんだけではフォローしきれていなかったので、時々手伝っていました」


 そうか・・・ビビも手伝ってくれていたのか。


「ありがとな、ビビ」


「あなたにお礼を言われる筋合いではありません」


「ありがとうございます!魔女さん」


 屈託のない笑顔でヒナに笑いかけられて、ビビもまんざらでもない様だった。




 ・・・それにしても・・・こんなに明るい性格だったのか?ヒナは。




「ユナ、ヒナは昔はこんなに明るい性格だったのか?」


 俺は小声でユナに尋ねた。


 記憶の中のヒナは、感情の無くなった人形の様な子だった。


「いえ、両親が亡くなる前は、もっと引っ込み思案で、進んで他人に話しかけるタイプではありませんでした」




 ・・・ やはり性格が変わってしまっているのか?




「でも、こんなに明るくて楽しそうなヒナは見た事が無かったわ」


 ユナは、内心嬉しそうにそう言った。




「ヒナ、自己紹介がまだだったな。俺はゲン。剣士だが勇者じゃねえ。本物の勇者はそこにいる俺の師匠だ」


 俺は師匠を指さした。


「はじめまして、ヒナちゃん。私はララ。今回は陰ながらみんながヒナちゃんを助けるのをお手伝いしていました」


 ヒナは師匠を見て目を輝かせている。


「はじめましてララさん。とてもおきれいな方でびっくりしました。今の『勇者』は男の方だと聞いていたのですが、ララさんが『勇者』なのですか?」


「少し前に先代から『勇者』を継承したんです」


「そうなんですね。でも、師匠さんが勇者という事は、ゲンさんが次の勇者という事ですよね?」


「いや、俺は『勇者』の弟子じゃなくて『剣聖』の弟子だ。師匠は『剣聖』でもあるんだ」


「・・・・・?どう違うんですか?」




 ・・・師匠の紹介をすると必ずこの質問が出るよな。




「俺は『勇者』を継承するつもりはねえ。『剣聖』を目指しているんだ。自分の力で世界一の剣士になりてえんだ」


「そうなんですね。それは素晴らしいです。でも・・・やっぱり、ゲンさんは、わたしにとっての勇者様です!」


 ヒナは両手を胸の前でぐっと握りしめて力説した。



 ・・・なんか、ヒナってすげえかわいいんだけど。



「ゲン、ヒナさんは病み上がりで疲れています。今日はこのくらいにしておきましょう。ユナさんと二人の時間も欲しいでしょうから」


 シアが俺の隣にやって来て、ヒナに声をかけた。


「ヒナさん、何か具合が悪くなったり困った事があったらわたしに相談して下さいね」


「ありがとうございます!聖女様」


「わたしの名前はシアです。聖女じゃなくて魔法使いですよ」


「シアさんはわたしにとっては聖女様です。実際にすごい治癒魔法でわたしを直してくれました。本当に感謝しています」


「ふふっ、ヒナちゃんが元気になって私も嬉しいです!じゃあ、ゲン、行きましょう。ヒナちゃん、今日はお姉さんにいっぱい甘えて下さいね」


「じゃあな、ヒナ、また明日な」


「はい!みなさん!本当にありがとうございました」




 ヒナは目一杯のかわいらしい笑顔で俺達を送り出してくれた。


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