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勇者を名のる剣聖の弟子  作者: るふと
第五章 氷雪の国
158/320

157話 姉の思惑

 ユナの幼少期の話は妹さんの記憶と一致していた。




 そしてユナは妹と別れた後の事を語り始めた。




「別々の里親に引き取られた後、あたしは冒険者を目指しました。元々剣術を習っていた事もあり、何の足掛かりもなくなった自分にとっては、手っ取り早くお金を稼ぐには丁度良かったからです」


 ユナは静かに語り続けている。


「冒険者をやりながら、妹の行方を捜したわ。しかし、妹は引き取ったはずの里親の元には既にいなかった。最初は死んだと告げられたけど、何か様子がおかしかったので調べたところ、奴隷商に売り渡した事が判明したの」


 これも妹さんの記憶と同じだ。


「奴隷商に行って、飼い主を聞き出そうとしても、顧客の情報は一切出せないと言われて、買主を特定することは出来なかった。それで、独自に調査を始めて、妹の足取りを探し始めたのよ」


「それから、あたしは主に人探しや人身売買がらみの依頼を優先的に受ける様になって、おかげでその世界の裏情報にかなり詳しくなった。妹の可能性のある奴隷の情報が入ったら、どんなに遠くであっても確認しに行ったわ」


「それでも妹の足取りは全然つかめなかった。そんな時に、この国で若い少女を大勢買い集めていた事を知ったのよ」


「わずかな可能性にすがってこの国に来たのはいいけれど、集められた少女は例の研究施設から出る事は無く、会って確認する事は不可能だった。そこであたしは時間をかけて連中の信用を得て、内部に入る事にした。でも部外者のあたしに出来る事と言ったら、世界各国から候補となる少女を見つけだして連れて来る事だった」


「冒険者として各国を回り、人身売買の組織の裏情報に精通したあたしにとって『巫女』の候補となる少女を集めて来る仕事は天職だったわ。あたしは有望な候補をこれまで以上のペースで集めて来た事によって、彼らの信用を得る事が出来て、施設内に自由に出入りする事が許されたの」


「自分の妹を見つけるために・・・他の、大勢の少女たちを犠牲にしたのですか?」


 シアは・・・怒りと悲しみが混ざった表情でユナに問いかけた。


「そうよ、あたしはここに連れ去られたかもしれない自分の妹を見つけだすためだけに、同じ様な境遇の少女たちを集めてくる仕事を請け負っていたのよ」


 シアは、何も言い返さなかった。


「その甲斐あって、あたしはついに妹の所在を突き止める事が出来たのよ・・・でもその時、妹はすでに迷宮の第七階層の『柩』に収められた状態だったわ。第七階層は妹以外に適合者がいないため、妹をそこから出すわけにはいかないと言われたわ。だからあたしは妹に代わる『巫女』を探し出すために、それまで以上に『巫女』の候補の少女を集めまくったのよ」




「・・・そしてついに、シアさん、あなたを見つけたのよ」


「わたし・・・ですか?」


「ええ、他の候補の子たちは、なぜか元々の魔力が普通の人よりも少ない子がほとんどだった。でもシアさんは巫女の適性が高いにも関わらず、初めから魔力量も豊富で高レベルで魔法操作技術まで持っている。そんな子は他にいなかったのよ。シアさんなら、妹の代わりに第七階層の巫女になる事が出来ると確信したわ。あるいは第八階層の巫女にだって」


 『巫女』の適性と魔力量はともかく、制御技術はシアが自分の努力で手に入れたものだからな。


「例の盗賊討伐の時に、シアさんをどうやって連れてこようかと考えていたら、まさかあの依頼を受けていたなんてね。おかげで手間が省けたわ。しかも自ら施設に潜入しようとするなんて、こんなに都合よく事が運ぶなんてね」


 シアの善意の行動が、ユナの思惑通りだったなんてな。


「でも最大の誤算はシアさんが完全な状態で覚醒してしまった事ね」


 ユナがシアを見つめたあと俺に視線を移した。


「それに、あなたがあそこまでしてシアさんを助けようとするなんてね」


「俺はどんな事があってもシアを守ると決めたからな」


「あたしにもゲンぐらいの力と決意があったら、こんなひどい事をしなくても妹を取り戻せたかもしれなかったわね」


 ユナは力なく俯いてしまった。




 ・・・結局、ユナはただ妹を救いたかっただけだったのだ。




 だがそのために他の少女たちを犠牲にしてしまった事が問題だ。


 誰か力を貸してくれる仲間がいたら違ったのかもしれねえな・・・




 ・・・だが、まだ手遅れじゃねえ。




「シアの覚醒は誤算じゃねえぞ」


 俺の言葉にユナが顔をあげた。


「・・・どういう事ですか?」


「妹さんを元通りにする事が出来るかもしれませんよ?」


 シアがユナに微笑みかけた。


「ヒナが!・・ヒナが本当に意識を取り戻す事が出来るの?・・・この研究施設の連中の話では妹は、すでに記憶と自我が失われていて、元には戻らないと言われた。あたしは寝たきりで目を覚まさなくてもいいから妹を自分の元に取り戻したかったのよ」


「失われていた妹さんの記憶はわたしが元通りに修復しました」


「そんな事が・・・できるの?」


「はい、ユナさんがわたしを魔女にしてくれたおかげです!あと、自我が戻るかどうか・・・それはユナさんにかかっているんです」


「あたしに?」




「わたしと一緒に妹さんを目覚めさせましょう!」



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