156話 姉妹の過去
ユナと少女は仲の良い姉妹だった。
下級だが貴族の家に生まれ、平穏で幸福に満ちた生活を送っていた。
少女は姉であるユナの事が大好きで、ユナも妹である少女をとても可愛がっていたのだ。
しかし領地が魔物に襲われ、両親は犠牲となり、屋敷も領地も壊滅、姉妹は家族も身分も住むところも失ってしまった。
施設に入れられた二人はやがて別々の里親に引き取られ、少女はユナと離れ離れになってしまった。
少女を引き取った里親は、少女を小間使いとしてこき使った。
毎日きつい仕事を押し付けられていた少女は、挙句の果てに奴隷商に売り渡されてしまったのだ。
里親は初めから養子にするつもりは無く、商品として奴隷商に売りつけるつもりで少女を引き取っていたのだ。
少女はその後、何人もの主人に転売され、その度に様々なきつい仕事を押し付けられていた。
しかし、少女はいつか姉と再会する日を夢見て、何年もの間、自分の境遇と辛い仕事を我慢して生きていたのだ。
やがて少女は買主から遠く離れた場所にある国に身売りされた。
馬車に乗せられて長旅の果てに少女が連れて来られたのはこの国の・・・例の研究施設だった。
少女は自分が類稀な素質の持ち主である事を告げられ、ぜひともその素質を使ってこの国のために貢献してくれないかと言われた。
少女は自分には生き別れになった姉がいて、いつかその姉に会いたいと思っている事を告げた。
すると、この国のために貢献してくれたのなら、その見返りとして姉に会わせてやると言われ、快くその役目を引き受けたのだ。
その後、少女は何かの魔法を施され、この棺に入れられた。
体と心が引き裂かれる様な苦痛が襲ってきたが、姉に会えるなら我慢できる・・・そう思って・・・いつか姉に会える日を夢見ながら、少女は意識を失っていったのだった。
「・・・・・・終わったのか?」
俺はシアに尋ねた。
「・・・はい・・・記憶の修復は無事に完了しました・・・・・ただ・・・」
シアは憔悴しきった顔で答えた。
「何かあるのか?」
「この少女の魔力はあまりにも強大なのです。わたしやビビさんの様に正気を保ったまま目覚めるかどうか・・・」
「・・・どういう事なんだ?」
「私から説明するね」
師匠が『柩』のそばにやって来た。
「まずはその子を『柩』から出してあげよう」
俺は少女を抱きかかえて棺から出ると静かに寝かせた。
「さっきの二人はね、この第七階層の『柩』に入れられたけど、適性が足りなくて、ただ精神が崩壊しただけで終わってしまったのだけど、この子は精神が崩壊したものの、膨大な魔力を持っていたため、その後ずっとこの第七階層の魔力供給減として、『柩』の中で魔力を供給し続けていたんだよ」
「つまり、シアやビビと同等の力を持ってるのか?」
「本来、この『柩』は第八階層の『柩』が完全形であって、第七階層以下は、その効果を弱めたものなんだよ。それでも正しく覚醒できた人はほとんどいなかったみたいだね」
シアとビビはそれだけ適性が高かったって事だよな?
しかし、この少女にはそこまでの適性は無かったって事だ。
それでもかなり高いレベルでの適性は有ったので、こういう状況になってしまったわけか・・・
「この少女が目を覚ました時に、万全の体勢で対処する必要があります」
シアには何か考えがあるみたいだ。
「そのために、ユナさんとお話をしなければなりません」
俺達は治療の終わった少女たちを連れて地上に戻った。
少女たちはまだこん睡状態で、目を覚ますまで数日かかるという見込みだった。
俺とシア、それに師匠とビビの四人は、ユナのいる監獄に来ていた。
ユナは檻の中で膝を抱えて座っていた。
うつろな目で虚空を見ている。
「あたしの処分は決まったのかしら?」
足音で気がついたのか、声をかける前に目線だけをこちらに向けて俺達に問いかけた。
「ユナさん!力を貸して下さい!」
シアはユナの檻の前に膝をついた。
「ユナさんの妹さんを助けるためにユナさんの力が必要なんです!」
「妹が!・・・ヒナが助かるの?」
ユナの表情が変わった。
「シアさん!妹を助けるって・・・どういう事?」
「はい、現時点で出来る事は施しました。後は目覚めるのを待つだけです・・・でも、正常に目を覚ますかどうかわかりません。ですからユナさんに手伝って欲しいんです」
「よくわからないけど、妹を救う方法があるなら何でもするわ!あたしは何をすればいいの?」
「まずはここから出ましょう。許可は取ってあるから」
師匠が根回しをしてくれたらしい。
「大丈夫なのか?」
「この状況で逃亡したりしないでしょ?」
看守に頼んでユナを檻から出してもらった。
一応、手枷は付けなければいけないらしい。
そしてユナを妹さんが寝ている病室に案内した。
ユナは妹を見つけるなり、そばに駆け寄った。
「ヒナ!ヒナなのね!・・・やっと・・・やっと会えた・・・」
ユナは妹にすがりついて泣き出したのだった。
「ユナさん、もしよかったら、事情を聞かせてもらえないでしょうか?」
シアがユナに尋ねた。
「・・・妹を助ける事が出来るなら・・・全てをお話しします」
ユナはこれまでの経緯を語り始めた。




