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勇者を名のる剣聖の弟子  作者: るふと
第五章 氷雪の国
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155話 最後の巫女

 今度も俺の脳裏には最初から少女の記憶が流れ込んできた。


 師匠が棺から吸い出した記憶の断片を使って少女の記憶を修復しているのだ。




 ・・・しかし、めちゃくちゃ早い!




 シアの時はシアの考えや悩みどころを共感する余裕があったのだが、師匠の処理速度は速すぎで、何がどうなっているのか俺には全然追えなかった。


 瞬く間に、バラバラだった記憶が次々ときれいに修復されていく。


 これが・・・本物の『魔女』の実力なのか?




 ・・・いや、違う!




 これは『剣聖』としての鍛錬の成果だ!


 『魔女』の所業だから俺には関係ないという意識でスルーするところだった!

 今のは、師匠の『剣聖』としての思考速度によるものだったのだ。




 しまった!

 折角のチャンスだったのに、もっとしっかり追っていれば良かった。




 師匠の『剣聖』としての強さは今の思考速度に依存するものだったのだ。


『剣聖』の『剣聖』たる所以は、剣術の技のみではなく、その『駆け引き』によるところが大きいのだ。


 戦いの最中に、あらゆる選択肢をシミュレーションし、最適な戦術を構築し、瞬時に実行する。

 その、思考速度と判断速度により、『剣聖』は最強の剣士となるのだ。

 俺も『剣聖』を目指すのなら、今の師匠の思考速度について行かなければならない!


 その事に気がついた頃には、一人目の少女の治療はすでに終わっていた。




 師匠は一人目の治療が無事に終わったら、すぐに、二人目に取り掛かり始めた。




 今度は見失わねえ!




 俺は今度は雑念を捨てて、師匠の思考についていく事に集中した。



 やはりとんでもねえ速さだが、集中して追っていくと、ある程度師匠の思考が見えてきた。



 師匠は常に複数の選択肢の可能性を同時にかなり先までシミュレーションしながら作業をすすめていたのだ。


 一つのトライが失敗しても、その他の選択肢もシミュレーション済みなので、正解にあたるまでの時間が極めて短いのだ。

 ほぼ、一度外せば、ほとんどが二度目で正解を当てる。


 それによって次々と正解の答えで埋まっていくのだ。



 意識を集中して追いかける事で、かろうじてやっている事が見えたが、今の俺ではこの速度で思考する事はまだ不可能だ。



 しかし、目標となる到達点はこれで見えてきた。




 奇しくも『魔女』の魔法の手伝いをする中で『剣聖』の剣の極意を垣間見る事が出来たのだった。





「すごいです!ララ先生!こんな短時間で治療を終えるなんて!」


 師匠の治療の速さにシアが感動している。


「ふふふ、シアちゃんあまり休めなかったかな?」


「いえ!もう大丈夫です!」



「今のも『勇者』だから・・・ですか?」


 ビビが師匠に疑いのまなざしで問いかけた。


「えっとね・・・今のは・・・」


「今のは『剣聖』の実力だ」


 俺の発言に全員が振り向いた。


「高次元の先読みと分析、そして実行と修正、それらを超高速で展開できるのは、師匠の『剣聖』としての鍛錬によるものだ」


「へえ!そうなんだ!」


 ・・・何で師匠が感心してんだよ!


「『剣聖』?・・・その人は『勇者』なのでは?」


「師匠は『勇者』である前に『剣聖』なんだよ。俺は『勇者』の弟子じゃなくて『剣聖』の弟子だ」


「・・・違いがよくわかりませんが『勇者』の方が『剣聖』より格上なのでは?」


「総合的な強さでは『勇者』の方が上だが、剣の技だけで見れば『剣聖』の方が上だ」


「・・・つまりあなたは剣だけで頂点を目指したいという事ですね」


「まあ、そう言う事だ」


「ゲン、さっきの話だと、ララ先生は剣を極めたから魔法の展開が速いという事ですよね?」


「そうだ。シアも格闘技を習得し始めてから魔法の発動が速くなった事に気がついているか?」


「・・・単に魔法が上達したのかと思ってました」


「剣や格闘の実戦では、瞬時の判断が生死を分ける。その鍛錬によって魔法に必要な思考演算速度が上がるみてえだな。だから師匠は最強なんだよ」


「なるほど・・・わたくしよりシアさんの方が魔法の操作に優れているのそういう事でしたか?」


「ああ、魔法使いでも剣や格闘の鍛錬は無駄じゃねえって事だ」


「以前、わたくしに剣が使えるか聞いたのはそういう事だったのですね?」


「あの時はそこまで深く考えてなかったけどな」


「わかりました!ゲン!わたしはもっと格闘技を極めますね!」


 シアはなぜかやる気に満ちていた。


「・・・ああ、がんばれ」


 ・・・シア、どこまで強くなるつもりだ・・・




「では、最後の『巫女』の治療を始めましょう」


「そうだな、早く助けてやろう」




 最後の『巫女』の少女を棺に入れて俺も棺に入り少女に覆い被さった。



「始めますよ」


「ああ、こっちも大丈夫だ」




 俺もさすがに段取りに慣れてきたな。




 シアが治療を開始すると、記憶の断片が見えてきた。




 ・・・!これは!




 散らばった記憶の断片には、全体に渡って、ある人物が数多く映っていたのだ。


「ゲン、この子は!」


「シアも気がついたか!」



 この少女の記憶の大半を占めていた人物・・・それはユナだったのだ!



「とにかく、治療を続けます!」



 シアは再び治療を再開した。



 記憶が繋がるにつれて、この少女が一体何者なのか、わかってきた。



 少女は貴族の娘だった。


 幼い頃から姉と二人で仲良く暮らしていたのだ。




 ・・・そう、この少女はユナの妹だったのだ。


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