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勇者を名のる剣聖の弟子  作者: るふと
第五章 氷雪の国
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150話 巫女の治療

「二人とも、もう何をすべきかわかったかな?」


「はい!高位の『状態回復魔法』と『記憶復元魔法』で『巫女』の少女たちの以前の記憶を呼び戻すのですね!」


「正解!体が衰弱している子が多いから、まずは治癒魔法で体力を回復させてからね」


「はい、治癒魔法も通常のものより高度な治療が出来る魔法ですよね?」


「こんなふうに高度な魔法が習得できるなんて・・・魔法陣の公開されている一般的な魔法しか習得できないと思ってました」


「ふふ、あなた達の中には魔女の魔力回路が疑似的に形成されているからね。魔女特有の魔法陣のパターンを、自分の魔力回路で補完して理解できるんだよ!」




 ・・・何を言ってるのか俺には理解できん・・・




「でも『残留思念感知魔法』は何に使うのでしょうか?」


「あとで必要になったら教えるね」




 シアもビビも、高度な魔法を覚えて気分が高揚しているみたいだな。




「じゃあ、早速、三人で手分けして少女たちの治療を始めるよ!ゲンはシアちゃんのサポートに入って」


「はい!ゲン、向こうのベッドの子から始めましょう」


「ああ、手伝う事があれば何でも言ってくれ」


 師匠にはレン、ビビにはルナがサポートに付くみたいだな。



 俺とシアは、一番端のベッドの少女のところに来た。


 少女は眠ってはおらず、目を開けて起きてはいるが、目の焦点が合っていない。

 意識がここには無い感じだが、僅かに何かにおびえているようにも見える。


 ・・・おや、この少女は?


「最初の第四階層の子です」


 そう・・・俺たちが最初の依頼で迷宮に入った時に第四階層に残してきた子だ。


「あの時気が付いていればこんな事にはならなかったのに・・・」


 シアが泣きそうな顔になっていた。


「あの時は何も知らなかったんだ。しかたねえ。でも今のシアなら救ってやる事が出来るんだろ?」


「はい、治療を始めます」



 シアは少女の額に手をかざした。


 魔法陣の描画や呪文やの詠唱は行なっていないが魔法が発動している。


 シアと少女が淡く光り始めた。


 シアの髪や瞳が黒くなっていないのは、そこまでの膨大な魔力量を使っている訳じゃないからだろう。


 そして、血色の悪かった少女の顔に次第に少し赤みが差してきた。


「治癒魔法を使いました。通常の魔法士が使うものよりも高度な魔法です。これで身体的な衰弱は回復しました」


「普通の治癒魔法とどう違うんだ」


「身体的な怪我なら、過去の古傷まで遡って修復が可能です。この子の場合は体の欠損はありませんでしたが、欠損の修復も可能です」


「それって、手や足が無くなっても治せるってやつか?」


「はい、完全に使いこなすには、もう少し訓練が必要ですが、治せるようになるはずです」


 ・・・すげえな、本当に『聖女』クラスの治癒魔法じゃねえか。


「次に『状態回復魔法』を使います。以前私が使ったものよりさらに強力な魔法です。状態異常の回復だけでなく、過去に受けた精神的な外傷もある程度回復できるみたいです」


 再びシアが少女の額に手をかざした。


 今度は緑色の光に包まれる。


 すると、少女の目の焦点が次第に合って来た。

 意志が戻ってきている様だ。


「・・・あぅ・・・うぅ・・・うぅ・・・・」


 ・・・意識は戻ってきた様だが・・・まるで赤子の様な行動を始めた。


「ゲン、すみません。この子が変な行動をとらない様に少し押さえててもらえますか?」


「わかった」


 俺は少女の両手首を掴んでベッドに押さえつけた。

 少女は少し抵抗しようとしているが、俺の腕力に逆らえるほどではなかった。


「すぐに記憶の修復を行ないます」


 今度はシアと少女が金色の光に包まれた。


 すると少女の表情が目まぐるしく変わり始めた。


 様々な感情が表情に現われては消えていった。


「これは、何が起きているんだ」


「失われた記憶を呼び覚ましているのです。精神の一部が欠損していても、体が覚えている記憶もありますので、それを読み出して欠損した精神を復元しているのです。彼女は今、過去の記憶を次々と再現しているところです」


「そんな事が出来るのか?」


「通常の魔法にはこの様な魔法はありません。これは『魔女』でなければできない治療みたいです」



 ・・・やっぱりすげえな、魔女って。



 しかしよく見るとシアの額に汗が浮かんでいた。


「シア、どうした?大丈夫か?」


「・・・記憶の修復が思ったより大変な作業みたいです。肉体に残った記憶が完全ではないのと、断片的に散らばってしまっているので、それを正しく並べ替えて、欠損部分を補間して精神に戻さなければいけないので、少しも気を抜けないんです。わたしが失敗するとこの子は廃人になってしまいますので」


 ・・・不可能では無いってだけで、簡単な作業ではなかったか。


 他人の精神を直接いじってるんだ。

 当然と言えば当然か?


 少女が暴れなくなったので、俺は手ぬぐいを冷たい水で絞ってシアと少女の額を拭いた。


 少女の額にも汗が滲んでいたのだ。


「ありがとうございます。ゲン。少し楽になりました」


「他にもやって欲しい事があったら何でも言ってくれ」


「はい、助かります」




 やがて少女の顔が恐怖で激しくゆがんだ。


「いやっ!やめてっ!やめて下さい!」


 少女がはっきりとしゃべったのだ!

 そしてベッドから抜け出そうとし始めたのだ!


「ゲン、あと少しです!しっかりと押さえていて下さい!」


「わかった」


 俺は再び少女の両腕をしっかりと押さえつけた。


「いやっ!助けてっ!」


 ・・・なんか俺がこの少女を襲っているみたいなんだが・・・


 やがて少女がふっと静かになった。




「もう大丈夫ですよ」


 シアが少女を抱きしめた。


 少女の上に覆いかぶさって両腕を抑えていた俺は、頭を少女とシアの胸に挟まれる形になった。


「うっ・・・うっ・・・うわーん」


 そして少女は泣き出したのだ。


 俺はシアと少女の胸の間から抜け出した。


 シアは少女をよりしっかりと抱きしめて耳元でささやいた。


「安心して下さい。あなたはもう大丈夫ですよ。あなたを傷つける人は誰もいません」


 シアはそうやって、しばらくの間、少女を抱きしめて声をかけ続けた。


 やがて、少女は次第に泣き止んでいった。




「・・・あ・・・ありがとうございます・・・聖女様・・・」


 シアを見た少女はそう呟いたのだ。




 ・・・ほらみろ、やっぱりシアは『聖女』じゃねえか。



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