149話 魔女の治癒魔法
「さて、ビビさんはこれからどうするの?盗賊に戻るって言うならここで捕まえるけど?」
「この迷宮が今後悪用されないのなら盗賊をやる必要もありません。それこそ魔女の様に人里離れて一人で生きていきます」
「そっか、悪いことしなければ干渉はしないけど、問題を起こした時は『勇者』として対応しないといけなくなるからね!」
「あなたの強さは十分理解しました。『勇者』と敵対するほど馬鹿ではありません」
「ふふっ、じゃあ、取り合えず二人に手伝って貰おうかな?」
「ララ先生、何を手伝うんですか?」
「まずはこの迷宮から出ようか?」
俺達4人は、迷宮を第八階層から戻っていった。
途中で魔物に一切遭遇しなかったのは、全ての階層の聖域から『巫女』を連れ帰ったからだ。
当然、冒険者たちも迷宮への入場は禁止されている。
「ゲン!シア!無事でよかった!」
地上に戻るとルナとレンが待っていた。
「ルナさん、レンさん、ご心配をおかけしました」
「よくやったな、ゲン」
「俺は大した事は出来なかった。シアが自分で解決したんだ」
「そんなことありません!ゲンが来てくれなかったら、わたしは操られたままでした!」
「ふふっ、相変わらず仲がいいのね」
「ところで、レン。彼女たちはどうなった?」
師匠がレンに尋ねた。
「ああ、『巫女』達は全員、病院に集められたよ」
「そっか、じゃあ、わたし達も病院に行くよ」
師匠はシアとビビを巫女たちのところへ連れて行くみたいだが何をするんだ?
「その前に着替え来ていいですか?」
そう言えば、ビビは全裸にローブを纏っているだけだったな。
「うん、いいよ」
「では宿に戻って着替えてきます」
「着替え終わったら病院に来てね」
「はい、わかりました」
そう言って、ビビはその場を去って行った。
「師匠、いいのか?あのまま逃げるかもしれないぞ」
「大丈夫、彼女はきっと来るよ」
師匠は余裕の笑顔だった。
「シアちゃんも着替えて来なよ。装備は回収してあるから」
「ありがとうございます」
シアが着替え終わるのを待ってから、俺達は病院へ向かった。
病院に着くと、入り口の前で既にビビが待っていた。
「遅かったですね。ずいぶん待たされましたよ」
ビビはいつもの黒いローブ姿だった。
同じ服を何着も持っているのだろうか?
「逃げずに来たんだな」
「この世界において『勇者』から逃げ切るのは不可能だと判断しました。言う通りにして恩を売ってから去った方が得策だと考えます」
「ふふっ、そう言う事にしておきますね。本当は私が何をお願いするかわかってて来たんですよね?」
「まあ、そうですね。本当にそれが可能なら見ておきたいというのが本音です」
・・・二人は何を話しているんだ?
「揃ったみたいだね、じゃあこっちだよ」
レンが病院の中へ案内してくれた。
「この部屋に、全員集めておいたよ」
レンに案内された大部屋には、隙間なくベッドが並べられていた。
それらのベッドには少女たちが寝かされていた。
「師匠・・・これは・・・」
「うん、『巫女』の少女たちを全員集めてもらったんだよ」
「巫女って・・・こんなにいたんですね」
シアが驚いていた。
そう、例の研究施設の地下にいた人数の何倍もの少女が寝かされていたのだ。
おそらく施設はあの一カ所だけではなかったのだ。
これほどの人数の少女を使い捨てにしてきたのか!
俺が怒りを感じていると、隣でシアの髪の色が、次第に黒く変化し始めていた。
「シアちゃん、落ち着いて!これからこの子たちを助けるからね!」
師匠がシアに後ろから寄り添って肩に手をかけた。
「えつ!助ける事が出来るんですか?」
シアの髪の色が瞬時に元に戻った。
「うん!そのためにあなた達に来てもらったんだよ」
「でも、彼女たちは、精神が破壊されて元には戻らないと聞きました」
「普通の魔法では治せないよ。でも魔女の魔法なら回復できる可能性があるんだよ」
「本当ですか!わたしは何をすればいいですか!」
シアは食いつき気味に師匠に詰め寄った。
「あなた達には、まずいくつかの魔法陣を覚えてもらうよ」
師匠はそう言って空中にいくつもの魔法陣を描いていった。
「これは・・・回復系の魔法の様ですが、この様な紋様は見た事がありません」
「魔女特有の魔法陣だからね。普通の魔法士には使えないよ」
「あなたはなぜそのようなものまで知ってるのですか?」
「ええと・・・勇者特権でね!」
・・・師匠・・・だんだん説明が雑になってるだろう。
「とにかく!これらの魔法陣をよく見て覚えてね!魔法陣を覚えたら自然と使えるようになるはずだから」
「はい!がんばって覚えます」
シアは真剣に師匠の描いた魔法陣を見つめている。
「本当です!見ているとどんな魔法の魔法陣なのか、だんだんとわかってきました!」
「不思議ですね。説明を受けなくとも、何をすべきか理解できてしまいます」
ビビも魔法陣を見つめながら驚きを隠せない様だ。
「魔女は本来、それぞれが固有魔法を持っているんだけど、あなたたち『亜魔女』は固有魔法を持たない代わりに、他の魔女の魔法を模倣しやすいみたいだね」
「この魔法陣はどなたか実在の魔女の魔法陣という事ですか?」
「・・・ええと・・・ある魔女が別の魔女に魔法を伝授する時に、こうやって魔法陣を利用するらしいよ。人間が使う魔法陣はそれを更に定型化したものという事だね」
「やはり、ずいぶん魔女について詳しい知識をお持ちですね?」
「・・・うっ、うん。勇者権限、勇者権限・・・」
・・・師匠・・・もう余計な事をしゃべらない方がいいぞ。
「全部の魔法を習得したら教えてね。『巫女』達の治療を開始するよ!」




