147話 そして強欲の魔女
「来ちゃった!」
俺達の前に降り立ったのは・・・いつも通りのににこにこ笑顔の師匠だった!
「師匠!どうしてここに!」
「ふふっ、ゲン、シアちゃん、久しぶり!」
「ララ先生!会いたかったです」
シアは師匠のもとに走って行って抱きついていた。
師匠が現れただけで、この安心感。
・・・やっぱり師匠は格が違う。
「ふふ、シアちゃん、がんばったね!もう大丈夫だからね」
「ララ!来たのか!」
「ララ先生!やはり助けに来てくれましたね」
「ココさん、キア君、元気そうで良かったよ」
「何と!シアさん以外にもこんなに美しいレディがいたなんて!」
「・・・ええと・・・誰?」
「お初にお目にかかります。ギルと申します」
・・・ギルは思った通りの対応だった。
「・・・あなた・・・『勇者』ですね?」
ビビが師匠を睨みつける。
「ええ、はじめまして。『勇者』ララです」
するとビビの髪と瞳の色が黒に変った。
すかさず師匠に向かって『ホーリーランサー』を放った!
師匠はそれをレイピアで弾き飛ばした。
「へえ!面白いね!」
「なっ!光の槍を剣で跳ね返すなどと!」
ビビは次々と『ホーリーランサー』を師匠に放ったが、師匠はそれを華麗に躱したりレイピアで逸らしたりしつつ、ビビとの距離を詰めていった。
そしてビビの首筋にレイピアの切っ先を当てた。
「ふふっ、私には効かないよ」
「つっ・・・・強い」
首筋に切っ先を当てられて、ビビは攻撃をやめた。
「わたくしを・・・どうするつもりですか?」
「そうだね・・・まずはあなたと話がしたいかな?」
師匠は振り返ってココさんたちに声をかけた。
「ココさんとキア君はそこの彼・・・ええと、ギルさんと一緒にこの人たちを上に連れて行って!上でレンとルナが待ってるから」
レンとルナも来てるのか?
「師匠、どうやってここに入ったんだ?この迷宮は国の最高機密って話だったが?」
「この国の国王とは話をつけたからもう大丈夫だよ!」
仕事速ええ!もう国王と交渉済みなのか?
「その件は後で詳しく話すよ」
「シアちゃんとゲンはここに残って!少しこの人と四人で話をしたいの」
・・・『魔女』の件、だな。
ココさんたちが術者を担いで聖域の外に出ると師匠が話し始めた。
「とにかくシアちゃんが無事で良かったよ!」
「ララ先生、まさかこのタイミングで来てくれるなんて思わなかったです」
シアは、レン達に定期的に状況を報告していたのだ。
この国の様子があやしいと感じ始めた時点でレン達が動いてくれていたのだ。
「確か師匠も別の国に旅に出てたんだったよな?」
「うん、丁度仕事が一つ片付いたところで、レンから呼び出しがあってね。緊急事態みたいだったから、この国の王城に直接乗り込んだんだよ」
・・・転移魔法陣を使ったのか?
「『勇者』のあなたがわたくしに何の用ですか?」
「まず、あなたのお名前を教えもらえますか?」
「わたくしは・・・ビビです」
「ビビ?・・・ふうん・・・まあ、いいか。ちょっと失礼します」
師匠はビビの後ろに回り込むとローブの襟を引き下げて背中をむき出しにした。
「ちょっ!ちょっと!何するんですか!」
ローブを引き下げられて、ビビは胸がきわどいところまで露わになった!
師匠がビビの背中に手をかざすと、例の魔法陣が浮かび上がった。
「・・・なるほどね!」
師匠は魔法陣を見て何かわかった様だ。
「シアちゃんもいいかな?」
「はい、これでいいですか?」
シアは自らローブを下げて背中を師匠に見せた。
ローブを肩まではだけたために胸のふくらみも僅かに見えてしまう。
さっきまで全てを見ていたにも関わらず、こういう見え方にはに一瞬ドキッとしてしまう。
そしてビビの時と同様に、師匠がシアの背中に手をかざすと同じ魔法陣が現れたのだ。
「師匠、何かわかったんだな?」
「うん、思った通りだったよ・・・二人とも、『魔女』の末裔だね」
「魔女の・・・末裔?」
「そう、遠いご先祖様に魔女がいたんだね」
「すごい!わたし、魔女の血を引いてたんですね!」
「うん、でも魔女の血を引いてる人って、実は結構いるんだよ」
「そうなんですか?」
「魔法が使える人って、わずかだけど魔女の血をひいてたりする事があるんだよね。そのなかに極まれに魔女の特性に極めて近い体質の人が現れる事があるんだよ。」
「そして、その『棺』というのが魔女の能力を強制的に引き出すための古代魔道具だね」
「古代魔道具?」
「うん、その棺と同じ魔法陣が二人の背中に描かれていたけど、その背中の魔法陣は『棺』と被術者を繋ぐための触媒であると同時に、適性を調べる目的もあったみたいだね」
「いったい、誰が何のためにそんなものを作ったんでしょうか?」
「大昔、魔女が今よりも人間と共に暮らしていた時代に、魔女の能力を手に入れようとした人間が作ったんだろうね。もしかしたらそれに協力した魔女がいたのかもしれない」
「つまり、その時代には魔女と同等の魔法が使える人間がたくさんいたって事でしょうか?」
ビビが師匠に質問した。
「ううん、この『棺』を使おうにも、適性に合った人間が現れる可能性は極めて低いからね。おそらく魔女の直接の子供でも適合する事はほとんど無かったんじゃないかな?だから能力値を下げて適性にあわせて8段階の『棺』を造ったんだろうね。それでも、適合者が見つかる事はめったにないから、そのうちこの『棺』は忘れ去られていったんだと思うよ」
「それにしても、何でこんな『迷宮』に設置されて魔物の発生源にする必要があったんだ?今の師匠の話だとこの迷宮にある必要性がわからねえんだが?」
「それは、元々この『迷宮』と『棺』は全く別に作られたものだからだよ」
・・・なんだって!
「この迷宮はまさに魔物を人工的に発生させるための実験に作られたものだね。この山は元々自然界の魔力が集まりやすい地脈だったんでそれなりに魔物の発生率が高かったんだけどど、そこに目を付けてこの迷宮作ったみたいだね」
・・・誰が・・・ってのは聞くまでもねえな・・・
「『聖域』と呼んでいる部屋、つまりこの場所に『上級魔法士』以上の魔力を持った人が入ると、その人の魔力に合わせて強い魔物が発生する様に作られているみたいだね」
「それって、『上級魔法士』がいないと意味がないって事ですよね?」
「うん、それも一般的な『上級魔法士』だと、『中級の魔物』を数体出現させたら魔力切れを起こしてしまうね」
・・・『上級魔法士』って・・・一般的なも何も、各国に数人しかいねえんじゃないのか?
・・・って言うか、つまりこの迷宮って・・・『魔女』が使うためのものだよな?
「それだと、この迷宮もほとんど使い道が無かったって事ですよね?」
「そう、それでさっきの棺をこの迷宮の聖域に設置する事を誰かが考えたんだよ。それも『柩』の安全装置を壊した上でね」
「安全装置を壊した?」
「本来『柩』は被術者の背中に描いた魔法陣で適性を調べて、適性が足りない場合は発動しない様に出来ていたんだよ。でもそのリミッターが壊されていて、少しでも適性があるなら、強制的に魔力を増大出来る様に改造されてしまっているみたいだね」
「そして、精神が崩壊するってわかってて、『巫女』を『棺』に入れてたって事か!」
「本当にひどいです!許せません!」
「というのが私の見立てなんだけど・・・合ってたかな?ビビさん?」
「・・・はい、わたくしの調べた内容とほぼ一致しています。というか、わたくしがいくら調べてもわからなかった事までご存じなんですね?」
「『勇者』特権でね。『禁書』なんかの閲覧許可も持ってるんだよ」
・・・本当は『魔女』の記憶だよな?
「なるほど・・・それにしても、今の話が本当であれば・・・やはり『魔女』は間違いなく過去に実在していたという事ですね?」
確かに、今の師匠の説明は、『魔女』が存在する前提で話をしていた。
「ええ、『魔女』は確かに実在しています」




