146話 嫉妬の魔女
シアの髪の色と瞳の色が黒に変っていた。
・・・そう、『上級魔法』を使う時の師匠と同じ色だ。
そしてシアから膨大な魔力を感じる。
「落ち着いて下さい!今のあなたは思っただけで『上級魔法』を発動してしまいます」
「シア!気を静めろ!できるな?」
俺はシアの目の前に回って、シアの頬を両手で挟んだ。
「・・・はい、取り乱してすみません・・・」
シアは、落ち着くと髪と瞳の色が元に戻っていった。
「今のは・・・一体?」
「わたくしもそうですが、上級魔法を発動できるほどのレベルまで魔力を高めると髪と眼の色が黒に変わるのです。どういう理由かわかりませんが」
やはり、魔女に近付いているって事なんだろうな?
「さっきまでの戦闘では髪の色は変わっていなかったが?」
「催眠魔法で上級魔法の使用が制限されていましたから、魔力がそこまで増大しない様にセーブしていたのでしょう」
「わたしの体ってどうなってしまったのでしょうか?」
シアが両手の手のひらを見つめてつぶやいた。
「あなたは魔女になりたかったそうですね。おめでとうございます。これであなたは念願の魔女になれたのですよ」
「わたしが・・・魔女?」
「この地下迷宮の第八階層の棺に入って正気を保てたのはわたくしとあなただけです。これは魔女になる関門を突破したという事です。現にあなたは魔法陣と詠唱無しで魔法を発動しましたよね」
「ええ、確かに」
シアは手のひらの上に小さな炎を出現させた。
魔法陣も描いていないし、呪文も詠唱していない。
「頭の中で魔法陣をイメージして発動する様に念じただけで魔法が具現化しました」
「それから、先ほどの様に、魔力を増大させると黒目黒髪に変ります」
ビビはそう言うと、目と髪の色が黒に変った。
そして魔力が一気に増大したのを感じる。
「わたしももう一度やってみます!」
シアも、何か力を入れている様だが、何も変化はない。
「・・・うまく出来ません」
さっきの様に感情が高ぶらないとだめなのだろうか?
「まだ、魔力量のコントロールが上手く出来ないようですね。これならどうですか?」
そう言って、ビビはいきなり俺にくちづけをした!
「ゲンに何するんですか!」
シアの髪と眼が、一瞬で黒に変化し、魔力量が爆発的に増加した。
さっき以上の魔力量だ!
そして周囲の空気が張り詰めたのを感じる。
「ふふふっ、やはりあなたにはこれが一番効果があるみたいですね」
「そんな事を試すな!」
シアの前でまたしてもビビにキスをされてしまった!
「ふふっ、嫉妬で魔力が増大するなんて・・・さながらあなたは『嫉妬の魔女』といったところでしょうね」
「シアにそんな二つ名をつけるなよ」
「いいえ!望むところです!ゲンのためならわたしは『嫉妬の魔女』になります!」
「シアのイメージと合わない気がするんだが?」
シアはむしろ『聖女』のイメージだ。
「これくらいのインパクトがあった方が、ゲンに変な虫が寄り付かなくなって好都合です!」
・・・シアは俺の貞操を守る守護神にでもなるつもりだろうか?
「本人が宜しいのなら『嫉妬の魔女』で良いのではないですか?わたくしの二つ名はあらためて考えさせて頂きますが」
・・・いや、ビビはもう『全裸の魔女』でいいと思うぞ。
・・・そして・・・シアの二つ名が『嫉妬の魔女』に決まってしまった。
なんか、もっとかわいらしい二つ名が良かったんだが。
「話を戻しますが、わたくしがこの聖域を破壊する理由がお分かりいただけたでしょうか?」
「ああ、この場所がある限り、犠牲になる少女が後を絶たねえって事はわかった。だが単純に壊せばいいってもんでもねえだろ」
「そうですね、この極寒の国でいきなり魔力の供給が絶たれたら、それこそ大勢の国民が凍死してしまいます。何か対策を考えないと」
「それにこの迷宮は、この山の中、つまり王都の地下に広範囲に広がっている。万が一この迷宮が崩れたら、おそらく地上にある王都も壊滅的な状態になるだろう」
「そもそもこの迷宮って何なんだ?」
「おそらく大昔の実験場では無いかと」
「何の実験だ?」
「魔物を作り出す実験と・・・人間を魔女に変える実験ではないですか?」
「人間を魔女に変えるなんて、普通そんな事思いつかねえだろ?それにノーリスクでそんな事できるなんて思えねえんだが?」
「そういえば、魔女になったら不老不死になるんですか?」
シアはビビに質問した。
「不死はどこまでか試した事は無いですが、確かに滅多な事では死にません。歳も取っていますので不老ではありませんね」
「そうなんですね!このまま成長が止まるとか、そういう事は無いんですね!」
シアは自分の胸を見下ろして安心していた。
「ただ、普通の人より成長は遅くなるかもしれないですね」
「ええっ!そんなぁ!」
「まあ、遅いだけで成長しないわけでは無いですから」
ビビもシアが何を気にしているのか察したらしい。
自慢げに胸を反らしている。
「ゲン、ごめんね。結構待たせるかもしれない・・・」
「いや、俺はそのままのシアが好きだから」
「ゲン!嬉しい!」
シアが俺に跳びついた。
・・・しかし、魔女について、ビビもこれ以上の情報はなさそうだな・・・
「とにかく、わたくしはこの聖域を破壊します。邪魔をするなら容赦しませんよ」
どうする?ここでビビとやりあうのは得策じゃない。
そもそも、今のシアがビビとまともにぶつかりあえば、結果としてこの場所は破壊されるだろう。
そんな事をしていると、聖域の天井が光って上から人が下りて来たのだ。
しまった!追手が到着したのか?
時間をかけすぎた。ここが国の管轄なら、異常を察知して制圧部隊が来てもおかしくなかったのだ!
俺達は戦闘態勢に入った!
そして・・・俺達の目の前に降り立ったのは・・・・・
なんと!師匠だった!




