145話 全裸の魔女
その場にいる全員が全裸となってしまった!
・・・これが・・・『全裸の魔女』の力か!・・・恐るべし!『全裸の魔女』
「ビビ!やっぱりお前の二つ名は『全裸の魔女』だ!
「やめて下さい!勝手に変な二つ名を付けるのは!」
「この状況は元はといえばお前のせいだろ!」
「何言ってるのですか!わたくしはむしろ被害者です!二度もあなたに裸にされました!」
「今回は俺じゃねえ!」
「ゲン!なに裸の女の人と楽しそうに会話してるんですか!」
シアが両手をギュッと握りしめた!
「うおっ!やめろ!シア!」
シアは身体強化で普段よりも更に腕力が上がっている。
危うくちぎれるかと思った!
振り返るとシアは涙目で俺を見上げていた。
「シア、これは仲良くしてるわけじゃない!ちぎれるから手を放してくれ!」
「ああっ!ごめんなさいっ!」
シアは慌てて握っていた手を放した。
「大丈夫ですか?今治します!」
シアが手をかざすと強く握られた痛みが引いていった。
・・・ただ、引いたのは痛みだけで、刺激とシアの手の感触はしっかり残っていた・・・
全員が全裸になってしまうという異常事態は、何とかココさんたちを説得して収束させる事が出来た。
ココさんと、キアとギルは、三人ともしぶしぶだが服を着てくれた。
って言うか、何でお前ら人に裸を見せたがる?
シアとビビは着ていた服がボロボロになってしまって着るものが無い。
そこで、気を失っている術者たちから服を借りる事にした。
ココさんたちが、術者たちを裸にして縛り上げた。
服は二人分で良かったのだが、ココさんが二人だけ裸だと不公平だと言って、全員裸にしてしまった。
瀕死状態だった術者のリーダーは縛った後、シアが最低限の治癒魔法で、死なない程度に治療してあげていた。
さっきもそうだが、シアは魔法陣や詠唱無しで治癒魔法が使える様になったみたいだ。
結局、シアとビビは裸の上から直接ローブだけを羽織る事にした。
さすがに二人とも見知らぬ男性が身に着けていた肌着や下着を着るのは気が引けたらしい。
「残念、シアさんの美しい裸体をしっかり目に収める事が出来なかった」
ギルが残念がっている。
俺は、とにかくギルにだけはシアの裸を絶対に見せまいと、シアがローブを着るまで、シアの前に立ちはだかってギルの目線からシアを死守したのだ。
俺が先に服を着ようとすると、隙が出来てシアの裸が見られてしまうので、俺はシアがローブを着終わるまで、全裸のままで仁王立ちしていたのだ。
・・・つまり、俺の・・・あれは、常にギルや他のみんなの目線にさらされていた訳なんだが、・・・
その間、ビビはずっとガン見してるし、ココさんは時々チラ見してはニヤニヤしていた。
そしてギルとキアは全裸の俺の前に同じく全裸で仁王立ちして、勝手に負けを認めていった。
「ふっ、今日のところは僅差だが負けを認めよう。敗者はおとなしく引き下がるとするよ。だが、次回は必ず僕が勝利してシアさんを頂いていくよ」
・・・何の勝負の話だ。
「ゲン、更に差が開いてしまった様だね。僕も日々の鍛錬に精を出して、いつか君に追いついてみせるよ」
キア、毎日そんな鍛錬してたのか!ってか微妙にうまい事言ったとか思ってるだろ?
シアがローブを身に着け終わった頃には、俺以外は全員服を着ていて、最後に俺が全員の視線を集める中で服を着た。
一応、先に着替え終わっていたシアが、今度は目隠しをしてくれたが、全員の視線を遮れるわけもなく、主にビビの視線を遮る様にしていた。
「とりあえず落ち着いたな。シア、とにかく無事でよかった。あれからの事を教えてくれ」
「あれからって、研究施設に戻ったところからですか?」
「ああそうだ、ユナさんがシアの後を追いかけたんだが、扉が閉まって俺達は入れなくなってしまった」
「あの後、少女たちのところに行こうとしたら、後ろから何かの薬を嗅がされて、意識が遠のいて・・・・・気が付いたら・・・ゲンにおっぱいを揉まれていたんです」
「・・・胸を揉んだのは緊急事態だったからだ・・・それは置いといて・・・つまり何も覚えていないって事か・・・」
「それにしてもユナさんが敵だったなんて・・・」
シアはかなりショックを受けている様だった。
無理もない、あれだけ信頼していたんだ。
「さて、これからどうするかだが・・・」
この術者たちはおそらくこの国の指示で動いていた可能性が高い。
俺たちのやった事はこの国にとっては不利益になる行為だ。
黙ってこの国から出してもらえるとは考えにい。
「わたくしはこの場所を破壊して、立ち去るだけです」
盗賊として活動しているビビは、このまま逃げてしまっても何も問題ないのだろう。
「あたい達は、そうはいかないな。冒険者として素性は知られているし、下手をすれば国家間の争いの火種になるそ」
ココさんの言う通り、このままこの地下迷宮を破壊して逃亡すれば、俺達は犯罪者としてこの国から追われる事になる。
「それならわたくしと共に盗賊になれば良いのでは?」
「ばかな事を言うな!」
シアをそんな闇の世界に引き込むわけにはいかねえ!
「ところでシアは、大丈夫なのか?体に異常があったり、何か具合が悪ところとかないのか?」
俺はシアに尋ねた。
「はい、今のところは何ともないです。むしろ以前よりも体が軽くなってスッキリした感じがします」
「それは魔力で体が常に最適な状態に保たれているからです」
ビビがシアに説明した。
「魔力が潤沢にあるため『身体強化』と同時に、自分の体に対して『治癒』や『回復』などの魔法が、常に発動したままになるのです。そのため常時、身体能力が向上し、ベストな体調が保たれるのです」
「そうなんですね?わたしはあなたと同じ体質になったという事ですね?」
「ええ、わたくしも以前『巫女』としてここに連れて来られ、処置を施されました」
やはりそうだったのか。
「当時、『巫女』の中で最高の適性を示したわたくしは、この第8階層の『棺』に納められました。『棺』は階層が深くなるごとにその効果が大きくなりますが、適性が無い『巫女』は自分の適性よりも深い階層の棺に入ると、精神が崩壊してしまうのです」
「ちょっと待て、それは適正に合った階層の棺に入れば、自我を保ったまま魔力が向上するって事か?」
「はい、その通りです。以前はその様な使われ方をしていた様です。しかしそれでは、ほとんどの『巫女』は大した魔力向上を期待できず、大勢の『巫女』候補の中から数人の『中級魔法士』が誕生する程度だったそうです」
それだけでも、画期的な事じゃねえのか?
「しかし、彼らは、限界を超えた棺に『巫女』を納める事で、膨大な魔力が発生する事に目を付けたのです。そして『巫女』本人の魔力生成量や魔力量が爆発的に向上するだけでなく、そのまま『巫女』を棺に納めておく事により、迷宮内に発生する魔物の数や強さが増加するのです。それを利用して効率良く魔結晶を回収できるこの迷宮のシステムを構築したのです」
「『巫女』達の精神が崩壊してもお構いなしって事か?」
「はい、それによって寒く貧しかったこの国は豊かになったのです」
「少女たちの犠牲の上に国が豊かになるなんて!そんな事許されるわけありません!」
シアは激しい怒りを感じようだ。
「シア!髪の色が!」
感情を高ぶらせたシアは・・・髪の色と瞳の色が、黒に変っていた。




