142話 絶体絶命
「シア!俺だ!目を覚ませ!」
シアに接近した俺は懸命にシアに呼びかけた。
しかし、やはりシアからは全然反応が無い。
至近距離まで入り込むと、シアは俺に格闘技をかけてきた。
ココさんから習ってたやつだが、身体強化のレベルが明らかに上がっている。
剣で受ける訳にもいかないので俺は後ろに下がって距離を取った。
するとそこに、すかさず『アクアアロー』が降り注ぐ。
俺は寸前のところで剣で払いのけた。
シアは格闘技を繰り出しながら同時に魔法を発動していたのだ。
魔法を無手順で発動できる様になったシアはとんでもない強敵だった。
最近のシアの得意とする、中距離、遠距離の敵を魔法で牽制しつつ、近距離の敵を格闘技で倒す戦闘スタイルは、魔法が無手順になる事で更なる真価を発揮するのだ。
まるで師匠を相手にしているみたいだ。
・・・いや、師匠の場合は剣だけに限定しても強いんだが・・・
それにしても、シアは反応速度が速い分、さっきの『竜』よりも強敵になっている。
魔法の連射も速くなって、息をつく暇もない。
俺がシアと対峙している間に、ビビは術者たちに攻撃を仕掛けていたが、それもシアが防いでいたのだ。
俺と戦いながら別のところに結界を張り、更にビビにも攻撃魔法をぶつけているのだ。
「まさか、これ程とは思いませんでした」
ビビにとってもシアの強さは想定外だった様だ。
「中級魔法士の魔力量を最大限に有効活用する訓練を重ねていたからな。魔力量が増大して、発動の手順が不要になればこれだけの事が出来るってわけだ」
それほどの強敵となったシアをどうやって気絶させるかだが・・・
俺に出来るのは真っ向から戦う事しかねえ!
俺は剣を鞘に収め、『ストーンブレード』を手に取った!
この『ストーンブレード』は刃が無く、打撃に特化したバージョンだ。
シアにダメージを与えて気絶させる事が目的だ。
魔力操作と肉体操作をシンクロさせたシナジーアタックで、俺はシアに一気に迫る!
そして『ストーンブレード』でシアに思いっきり切りかかった。
シアはそれを素手で受け止めた!
身体強化のかかり具合が半端ねえ!
ココさんに匹敵するレベルじゃねえのか?
だが、魔法と剣術を融合したこの技は、そのココさんさえも凌駕した事があるのだ!
俺は絶え間なく、シアに連続して剣戟を打ち込んだ。
たとえシアが強力な身体強化を使っていても、剣術の腕は俺の方が上だ。
俺の連続攻撃に反応するだけで精いっぱいのはずだ。
実際にシアは魔法を使っている余裕が無くなったらしく、魔法の攻撃の頻度が下がっている。
それによってビビの方も余裕が出来てきて、術者たちやユナを押し始めた。
俺の方は一瞬の隙も与えずにシアに連続攻撃を続ける。
状況を維持させるためには、攻撃を途絶えさせるわけにはいかない。
シアも俺に意識を集中せざるを得なくなって、更に他へのサポートが薄まった。
いける!
このまま攻撃のペースを上げていけば、シアの意識を失わせるだけの攻撃を入れる事が出来る!
おそらく手加減を考えていてはだめだ!
ビビと対決した時もそうだったが、覚醒した『巫女』は俺の最大級の攻撃でも一瞬意識がとぶ程度だった。
シアがビビ以上の能力に開花したのであれば、あの時以上の攻撃をくわえなければならないのだ。
俺は、連撃を繰り出しながら、更に『ストーンブレード』に魔力を追加し続けていた。
剣戟のペースをさらに上げていった。
次第にシアを押し始めている。
そして、『ストーンブレード』の魔力注入が最大値に達したところで、俺は渾身の一撃をシアに放った!
シアの腹に決まった剣戟は、シアを後方に吹っ飛ばした。
その先にいた術者とユナさんを巻き込んで、シアは棺の間の壁面にたたきつけられたのだ。
「ぐはっ!」
シアと壁に挟まれて、術者は口から血を吐いていた。
ユナさんも白目をむいて気を失っている。
・・・肝心のシアは・・・
下敷きになった二人を残して立ち上がっていた。
・・・相変わらず感情の無い目で俺を見ていた。
だめだったか・・・
これだけの攻撃でも決定的なダメージを与えられなかった。
そして、すかさずシアから、『ホーリーアロー』の連射が襲い掛かって来た。
『ホーリーアロー』は『アロー』系の中で最も射速が速い。
発動から一瞬で目標に到達する。
光の矢の出現と同時に、発射方向を読んで『ストーンブレード』ではじき返す事で、ぎりぎり回避が可能だ。
シアの同時発動は相変わらず三つまでだが、一つ目を弾いた直後に、間を置かず瞬時に新たな矢が出現するので、常に三つの矢の軌道を意識していないと回避が追いつかない。
今度は俺の方が追い詰められていた。
しかもその状況を維持したままでシアの方から俺に接近してきたのだ。
『ホーリーアロー』の対応で精一杯の俺は、シアの直接攻撃に対応しきれない。
シアは俺の懐に入ると、強烈な肘打ちを俺の腹に決めた。
俺はその衝撃で後方に跳ばされ、壁にたたきつけられる。
「ぐふっ!」
附加装備が衝撃の大半を吸収してくれたにも関わらず、内臓に強い衝撃を感じた。
シアの打ち込みはそれほど強烈だった!
ぎりぎりで意識を失わなかった俺の目には、俺に向かって『ホーリーアロー』を放とうとしているシアの姿が映っていた。
意識はあるが、体が言う事を聞かねえ!
『ストーンブレード』はさっきの衝撃で消失してしまったので、剣を抜いて対応しようとしたが、体の痺れが抜けきらずに、思う様に動かない。
さすがにこれは、躱しきれねえ。
そう思った時、目の前で光の矢がはじき返された。
「大丈夫ですか?」
ビビが俺の隣に来て結界を張ってくれたのだ。
 




