139話 裏口の門番
「この扉の向こうにシアがいるんだな?」
「いえ、まだです。この扉の中は強力な魔物で守られています。入ったらまず魔物を倒さなけれななりません。第八階層の聖域はその先です」
「なんだって!それを先に言え!」
裏口なんて話がうますぎると思ったが、そういう事か。
「第八階層は聖域のみの階層で、他の階層の様に広くは有りません。しかし、聖域の奥に隠し部屋があり、上級の魔物が守護しているのです」
「上級の魔物か?何とか回避してすり抜ける方歩は無いのか?」
「隠し部屋は中に入ると扉が閉まり、上級の魔物を倒さないと再び扉が開かない様になっています。通り抜けるには上級の魔物を倒すしかありません」
・・・つまり上級の魔物が『扉の鍵』って事だ。
「しかし、まだ第八階層の『棺』は空のはずです。棺に『巫女』が納められていなければ魔物はある程度弱体化しているはずです」
「なら迷ってるひまはねえ、さっさと上級の魔物を倒して先に行くぞ!」
「おう!あたいに任せとけ」
「ようやくこの僕の実力を発揮する時が来たようだね」
「あたしも今度こそシアさんを取り戻さないと」
「魔物が弱体化してるならさっさとやっつけちゃおうよ!」
みんなやる気みだいだな。
「では扉を開きます」
ビビが手をかざすと金属の扉に魔法陣が浮かび上がり、重そうな扉は自ら開いていった。
「扉は二重になっています。中に入ってください」
全員が中に入るとビビは今の扉を閉めた。
「次が最後の扉です。中には門番の魔物が待っています」
ビビが次の扉に手をかざし、同じ様に魔法陣を浮き上がらせると扉が開いた。
「中に入ってこの扉が閉まると魔物が襲い掛かってきます」
扉の中に入ると、巨大な魔物が眠っているかの様に寝そべっていた。
後ろ向きの様だが、俺達が入って来たのが裏側からだからだろうな?
「では扉を閉めます。締まりきると魔物が目を覚まします。わたしが魔法で動きを拘束しますのでその隙に攻撃して下さい」
「おう!わかったぞ!任せとけ!」
「僕の腕の見せ所だね!」
ココさんとギルはやる気満々だな。
そして、ビビが扉を閉めると・・・魔物が目を覚ました。
魔物は体に沿わせていた長い首を持ち上げ、こちらを振り向いたのだ。
それからゆっくりと体をこちらに向けている。
蜥蜴の様な全身に、蝙蝠の様な羽根、全身は鱗に覆われ大きな爪と鋭い牙を持つその姿は、おとぎ話に出て来る『竜』そのものだった。
「何だこれ!『竜』じゃないの?」
「今までに竜っぽい魔物は見た事があるが、ここまで完璧な『竜』は初めてだな」
「魔物を結界に閉じ込めました!今のうちに攻撃を!」
ビビが叫んだ!
全員が同時に動いた!
そして『竜』も同時に動いていた。
その巨体からは想像もつかない速さだった。
瞬時にビビの結界を破壊し、ココさんの方へ急接近していた。
ココさんは咄嗟に『竜』の鼻っ柱を殴りあげていた。
『竜』は頭部を斜め上に捻じ曲げられたが、即座に体勢を整え、再びココさんに迫る。
しかし、ビビが張り直した結界に阻まれる。
ココさんはその隙に素早く移動して、既に『竜』の視界にはいなかった。
「今度は結界を三重に張っています!」
ビビはさっきより結界を強化した様だ。
だがそれも数秒しか持たなかった。
三重結界を破壊した『竜』は、今度は俺の方に迫って来た。
俺は剣で竜の右手の爪を切り落とし、口の攻撃を躱して左腕に切りつけて『竜』の視界から外れた。
その時には、ビビが再度結界を張っている。
「今度は五重に結界を張っています。これは・・・おかしいですね。この『竜』はこれほど活発ではなかったはずですが・・・」
その五重結界もすでに破壊されそうだ。
今度はギルを見つけてそちらに向かっている。
ギルは『竜』の頭に飛び乗り、後頭部から首に向かって『竜』の上を走りながら首周りに切り傷を増やしていく。
俺も同じ様に、『竜』に飛び乗って首に傷を付けていった。
鱗はとんでもなく硬いが、俺の剣なら傷を付ける事が出来た。
おそらく普通の剣では傷を付ける事は出来なかっただろう。
ギルの剣も、何か特殊な剣なのだろう。
別の場所では、キアとユナさんも攻撃を仕掛けていた。
それぞれ、多少なりとも『竜』にダメージは与えているが巨体に対して小さな傷しか付けられない。
そして『竜』も黙っているわけでは無い。
前足や尾を振り回して俺達に反撃してくる。
反撃が来ると俺達は一旦『竜』から離れ、ビビが結界で時間稼ぎしている間に体勢を立て直す。
その繰り返しになっている。
「少しづつダメージを与えてるけど、これじゃいつまでかかるか分からないぞ」
ココさんの言うとおり、倒すのにかなり時間がかかりそうだ。
「なあ、ビビ、こいつを一撃で倒せる魔法とかないのか?」
師匠の『グラビティキャノン』なら一撃なんだが・・・
・・・この第八階層ごと消滅するよな?
「無い事は無いですが、発動に時間がかかります」
「なら、オレの魔法で、こいつを一旦足止めして時間を稼ぐ。その間に魔法の準備をしてくれ」
「わかりました。そうしましょう」
「よし!みんな!俺とビビが魔法を発動する時間を稼いでくれ」
「おう!わかったぞ」
「僕に任せてくれたまえ!」
ココさんたちに時間を稼いでもらっている間に、オレは『ストーンランサー』の魔法陣を描き始めた。
ビビも同時に準備を始めた様だ。
ビビの体がうっすらと光っているが、何をしているのかはわからない。
俺は『ストーンランサー』の魔法陣に出来るだけ魔力を注ぎ込む。
ココさんたちが『竜』に絶え間なく攻撃を続けて気を引いてくれている。
しかし、『竜』は俺の魔法陣に気が付いたようだ。
俺の方に向かってきた。
よし!今だ!
「『ストーンランサー』」
俺は魔法を発動し、『ストーンランサー』を『竜』に向けて放った!
通常の『ストーンランサー』ではない。対『上級の魔物』用の特別仕様だ。
巨大な石の槍は高速で回転しながら『竜』の胴体に突き刺さった!
やはり『竜』の体は硬く、石の槍は途中までしか刺さっていない。
だが・・・それが狙いなのだ。
今回の『ストーンランサー』は貫通力よりも推進力を強化してある。
『ストーンランサー』はそのまま『竜』を押し戻し、部屋の壁に押さえつけたのだ。
『竜』は必死にもがいているが、『ストーンランサー』の推進力はまだ残っている。
俺は『竜』に押し戻されない様に、必死に『ストーンランサー』を制御する。
「まだか!ビビ」
「あと少しです」
「こっちはそろそろ限界だ」
「できました。発動します」
ビビは無言で『竜』に手をかざした。
そしてビビからとてつもない魔力が放出されるのを感じた。
次の瞬間、『竜』は巨大な氷の彫像と化していたのだ。




