132話 秘術の研究所
ユナさんを先頭に、俺達は扉の中に入っていった。
扉の先は地下に続く階段だった。
俺達は、足音を立てない様に、慎重に階段を降りて行く。
地下何階まで下りたのだろうか?
普通の建物の何十階分も降りたと思われる辺りで階段は終わり、その先には扉があった。
扉には鍵はかかっておらず、そのまま中に入る事が出来た。
扉の奥は、廊下になっており、たくさんの扉が並んでいる。
「これじゃあ、どの部屋に何があるのか分かんないね」
不用意に開けて誰かに見つかると侵入がばれてしまう。
俺は魔力の気配を読み取った。
「奥の方に強い魔力が集中している。そっちに何かあるんじゃないのか?」
「はい、私もそう感じました」
シアも魔力を感じ取っていた様だ。
「じゃあ、そっちに行ってみましょう」
ユナさんと俺達三人は、廊下の奥の方へ進んで行った。
途中、扉のいくつかから、かすかに話声が聞こえたが、何を言ってるのかまではわからなかった。
廊下の奥の方には重厚な扉があったが、鍵がかかっていて開かない。
「さっきの魔法陣を試してみます」
シアが魔法陣を描いて呪文を詠唱すると扉が開いた。
「どの扉も共通みたいですね」
扉の奥に入っていくと少し薄暗い通路が続いていた。
更に奥に進んで行くと鉄格子の並んだ通路に出た。
鉄格子のなかには・・・・・少女が横たわっていた。
「ゲン!見つけました!」
鉄格子のはまった小さな部屋がいくつも並んだ場所で、各部屋には少女が一人ずつ入れられており、簡素なベットに横たわったり座りこんだりしていた。
「ユナさん、ここは何なんだ?」
「・・・監獄でしょうね」
そう、この場所は間違いなく監獄だ。
「この少女たちは罪人なのか?」
「少女だけを集めた監獄なんて聞いた事は無いけど・・・この子たちが犯罪者なのか、拉致されているだけなのか、聞いてみないと分からないわね」
そうなのだ。この子たちが犯罪者の可能性もある。
むやみに連れ出すわけはもいかないのだ。
「誰か、お話しが出来ればいいのですが・・・」
鉄格子の中の少女たちは、これまでの『巫女』同様に、目の焦点が定まらず、意識がここに無い様に見える。
誰か会話ができる者はいないのだろうか?
少女を順番に見ていくと、かすかに何かをつぶやいている少女がいた。
その少女は・・・今日、第五階層から戻って来た少女だった。
「シア!こいつに『状態回復』魔法をかけられるか?」
「はい、やってみます」
シアは『状態回復』の魔法陣を描いて呪文を詠唱した。
『状態回復』は傷などを治す『治癒』と異なり、精神的な異常を回復させる魔法だ。
『治癒』よりも高度な魔法のため、使える者は少ない。
「『リカバー』」
シアが魔法を発動すると、少女の目に生気が戻って来た。
しかし、その瞳の色は次第に恐怖に染まっていった。
「あううぅ!・・・・あぅ!・・・・あああああぁっ!・・・・ひっ!・・・ひぃぃぃぃぃぃっ!」
そして少女の魔力が急激に増大したのを感じた。
少女のいる鉄格子の部屋の中で、魔法が暴走し始めた。
風が渦巻いたり、火花や小さな炎が発生している。
・・・魔法陣も詠唱も使わずに、魔法が発動している?
「あああああっ!・・・ひいいいい!・・・・うううおおおお!・・・ひぃ!・・ひぃぃぃ!」
少女は頭を抱えて苦しみだした。
「大丈夫か!しっかりしろ!」
「うああああ!・・・・・ひぃぃぃっ!・・・ひぃっ!」
少女は更にもがき苦しみ始めた。
全身に苦痛を感じている様だ。
それに合わせて魔法が暴走しているのだ。
そして、この少女の魔力量・・・・・おそらく中級魔法士をはるかに凌駕している。
・・・この少女は『上級魔法士』なのか?
「シア、何とかならないか?」
「・・・状態異常を治してこうなった・・・という事は、この少女は、既に精神が壊れてしまっているのです」
「治せないのか?」
「一時的な精神異常なら治せますが・・・完全に精神が崩壊してしまっては、回復魔法で元に戻すことは出来ません」
「それって・・・・・もう、手遅れっていう事か?」
「・・・はい・・・怪我で言うなら、手足が付け根から欠損して無くなってしまった様な状態です。普通の治癒魔法や回復魔法で治せるレベルではないです」
シア自身も悔しそうな、泣きそうな顔をしている。
「おそらく、これを鎮めるために催眠系の魔法がかけてあったんです」
「まずいわ!この騒ぎでおそらく人が集まってくる。すぐに撤収するわよ!」
ユナさんの言う通りだ!すぐにここから出た方がいい。
「シア、今はとりあえず逃げよう」
「その子は多分、再び魔法で鎮静化されるわ」
俺はシアの手を引っ張って移動を開始した。
入って来た扉のところまで来ると扉がかちゃっと音を立てた。
まずい!人が来る。
「こっちよ!」
ユナさんの誘導で近くにあった部屋に入った。
間一髪で部屋の扉を閉めて隠れる事が出来た。
扉の隙間から覗くと、例の迷宮に行った術者のうちの数人が入ってきた。
「何をやっている!催眠魔法がとけているぞ!すぐにかけ直して鎮静化させろ!」
・・・やはり、魔法で押さえていたのか。
しばらくすると少女は落ち着いたのか、叫ばなくなり、魔法の暴走も収まって来た。
「こいつはもう使い物にならんな。魔力の暴走を抑制できなくなってしまった」
「またしても『失敗』ですか」
「ああ、この魔力生成量はもったいないが、暴走を止められないのであればリスクの方が大きすぎる。迷宮に奉れば、また『上級の魔物』を暴走させてしまう」
「やはり一時的な魔物発生源にしか使えなかったな。後で処分しておけ」
「しかしこのペースではいずれこの国から少女がいなくなってしまいます」
「正確には魔法が使える少女が・・・だがな」
「なあに、その時はまた他所の国から攫ってくればいい」
「しかし、こうなると唯一の成功例を失ったのが痛いな」
「ああ、自我を保ったまま上級魔法が使えるほどの膨大な魔力を制御できたのは彼女一人だけだったからな」
「それですが、次の候補がかなり有力です。もしかしたら前回以上の成功を納めるかもしれません」
「そうか、とりあえずその被験体に期待しておくか」
「はい、既に下準備は整っております。後は決行を待つのみです」
「失敗は許されない。確実に遂行するのだぞ」
「承知しました」
・・・・・とんでもない話を聞いてしまった。




