129話 溶岩の魔物
第五階層の『上級の魔物』は『聖域』に向かう一本道の途中にいた。
先行していた討伐班は、すでに戦闘状態に入っている。
上級の魔物は、巨大な蛇の様な長い胴体の魔物だ。
頭は肉食の獣の様で大きな牙が生えている
そして胴体の途中に長く鋭い爪の付いた前足のような物が付いていた。
全身のサイズや形状はわからない。
なぜなら、魔物は溶岩の中に潜っており、こちらに攻撃する時のみ頭と体の一部のみを現わすのだ。
「ココさん!大丈夫か?」
この魔物は溶岩の中に潜っているため、全身が高温だ。
武器を使わずに素手で戦っているココさんにはきつい相手だろう。
「おう!ララにもらったこの小手があるから熱は平気だ!だが、ダメージを与えると溶岩の中に潜って、出て来る時には回復してるから、あたいには倒す手立てがない」
溶岩の中に潜られると、こちらから攻撃が出来ないからな。
「攻撃魔法で倒すしかないが。有効な魔法を使えるのが一人しかいなくて難航していた」
ココさんが指さした方を見ると、討伐班の中にいた魔法使い風の容貌の上級冒険者が、氷系の攻撃魔法で対抗していた。
「魔物が溶岩から出てきたらあいつが攻撃魔法をぶつけて、更にあたいや剣士たちでダメージを与えるんだが、一気に倒し切らないと溶岩に潜って復活してしまうんだ」
「ではわたしが攻撃に参加します!」
そうだな、今回はシアが攻撃の要になった方がいい。
「俺も参加する。でかい魔法を一発当てる戦法なら俺も戦力になる」
俺とシアは討伐班の方に参加する事になった。代わりに数人の剣士が護衛班に入る。
『上級の魔物』は、今は溶岩の川の一部の少し広くなった溶岩だまりに潜んでいる。
あの巨体で溶岩だまりから他の場所に移動するには、一旦体を溶岩の上に出す必要がある。
つまり、姿を現わす場所はある程度限定できるのだ。
俺とシアは、攻撃魔法の魔法陣をいくつか描き溜めて準備をしておいた。
上級冒険者の魔法使いも同様に魔法陣を準備している。
上級冒険者の魔法使いは、魔法陣の描画速度自体はシアや俺に比べたら遅いのだが、魔力量はかなり多い様だ。
魔法陣に膨大な魔力を注ぎ込んでいる。
俺は同時に複数の魔法を操れないので魔法陣は一つだけだが、シアは既に10個近い魔法陣を準備している。
もう一人の魔法使いは、とりあえず二つだ。
「もうすぐ魔物が出て来るぞ!」
「冒険者の一人が教えてくれた」
俺達三人は攻撃魔法がいつでも発動できる様に準備をする。
そして、ついに魔物が溶岩から頭を出した!
「最初は俺が行く!『アイシクルランサー』!」
俺は魔力をかなり余剰気味に注ぎ込んだ『アイシクルランサー』を魔物の頭部めがけて発射した。
普段使いなれている『スートン』系ではないが氷系魔法は、石系魔法に次いで質量が大きく、制御性はさほど変わらない。
それに通常より魔力量を多くして大きくした分質量も増しているので、『ストーンランサー』に近い感覚でコントロールできた。
『アイシクルランサー』は鎌首を高く持ち上げようとした上級の魔物の左目から、頭の中をえぐり取りつつ、後頭部へ抜けた。
魔物は大穴の空いた頭の半分が凍り付いた。
蛇の様な上級の魔物は残った右目で俺を睨みつけ、俺の方に迫って来た。
俺をターゲットにした様だ。
「シア!それから魔法使いのあんた!後は頼む!」
魔法使いは、俺に命令されて不満だったのか、軽く舌打ちをしたが、すかさず、『アイスバレット』を放った。
シアも『アイススラッシュ』で魔物に切りつけながら、重ねて『アイシクルアロー』を連続発射する。
魔物は溶岩の上に出ている体の大部分が凍りついた。
・・・だが、溶岩に近い下側からすぐに溶け出してしまう。
「続けていきます!」
シアともう一人の魔法使いは、次の魔法陣を描き始める。
シアの方が早く、次々に連続で氷系の魔法をぶつけていく。
その間、ココさんや他の剣士たちは、魔物の体の凍っている部分を中心に攻撃を仕掛けて削っていく。
俺も魔力が回復するまでは、剣を使った物理攻撃に参加する。
やがて、ダメージの大きくなった魔物は再び溶岩の中に潜ろうとし始めた。
シアが、『アイシクルアロー』を連射するが、溶岩の近くは凍結が追いつかない。
このままでは再び潜られてしまう。
そうなったらまた最初からやり直しだ。
「『アクアフラッド』」
その時、魔法使いの上級冒険者が魔法を放った!
上級の魔物の周りに膨大な量の水の奔流が巻き起こり、渦を巻いて魔物に迫っていく。
そしてものすごい水蒸気が立ち上った。
当然だ・・・溶岩の上に大量の水を流したのだから・・・
そして、蒸気が晴れてくると溶岩は石となって固まっていた。
上級の魔物は体の周りの溶岩が固まって動けなくなった。
「よし!今のうちに魔物の横をすり抜けて先に進めるぞ!」
術者たちと護衛班は上級の魔物が動き出す前に魔物の脇をすり抜けて痛をの先に進んで行った。
それにしても、これだけの大量の水を発生させる中級魔法なんてあったのか?
「シア、今の魔法、知ってるか?」
その様子を呆然と見ていたシアの目が、次第に輝き始めた。
「『アクアフラッド』・・・・・・『上級魔法』です」




