124話 迷宮攻略会議
「なんだって!それじゃ終わりが無いじゃねえか!」
上級の魔物が無限に発生するだと?
・・・そんな事が起こりうるのか?
「幸いな事に、一つの階層で発生する上級の魔物は同時に一体。そして討伐後、次に発生するのは一日経ってからです」
「その言い方だと、他の階層にも一体ずつ『上級の魔物』が出現するみたいじゃねえか?」
「その通りです。第四階層以降、各階層に『上級の魔物』が一体ずつ発生します。そして、あなた方への依頼は単なる討伐ではありません」
上級の魔物討伐がついでって・・・どんな依頼だ。
「彼らを第四階層中央の聖域へ連れて行くという護衛任務をお願い致します」
会議室の扉から、フードを被った術者らしき者たちが入って来た。
10名の大人と、一人は・・・少女だろうか?
フードを深くかぶっているので顔は良く見えないが、シアと同じくらいの少女の様だった。
「彼らを目的地まで連れていけば『上級の魔物』の発生を止める事が可能です」
こいつらが何かの術を施せば魔物が発生しなくなるのか?
そんな事が可能なのだろうか?
「それをできれば第八階層まで繰り返してください」
「『上級の魔物』と5回戦えって事か?」
「順調に行ったとして5回です。彼らに欠員が出るなど、任務が失敗に終わった場合は、再度『上級の魔物と』戦う事もありえます」
「冗談じゃねえ!『勇者』不在で『上級の魔物』討伐なんて、何人も犠牲者を出してようやく一体倒せるかどうかじゃねえか!5回も戦ったら、ここにいる全員あの世行きだ!誰も生き残らねえぞ!」
年配の冒険者が騒ぎ立てた。
確かにその通りだ。
俺達も、何度か『上級の魔物』と対峙した事があるが、結局最後は師匠に止めを刺してもらっていた。
自分達だけで倒しきれるかどうか、今のところ確証はない。
「そのために、今回は最強の冒険者として名高いココさんに参加頂いています。ココさんは過去に何体もの『上級の魔物』を討伐した実績を持っています」
そういえば、そうか。
ココさんが、ベストな状態で『上級の魔物』と戦った事は無かったな。
ココさんが空腹で動けなくなって、絶体絶命の時に師匠が助けてくれたのだ。
・・・・・食べ物さえ切らさなければ大丈夫か?
「他にも高名な冒険者の方々に集まって頂きました。これだけのメンバーであれば上級の魔物でも十分に討伐が可能だと確信しております」
「・・・悪いが、おれは降りさせてもらうぜ」
さっきの年配の冒険者が立ち上がった。
続いて他にも数名の冒険者が席を立った。
「確かに報酬はいいが、命を賭けてまでやる仕事じゃねえ」
「仕方ありません。強要は出来ませんので、残念ですがお引き取り下さい」
「じゃあな、お前らも命を無駄にすんじゃねえぞ」
数名の冒険者が部屋を出ていった。
残った冒険者は12名だ。
「12名ですか?まあ、あなた方なら大丈夫でしょう」
ユナさんとギルは残っている。
他にいかにもベテラン冒険者といった風貌の男性冒険者が5名、それから魔法使い風の冒険者が一名だ。
魔法使い風の冒険者は口にマスクをしており、フードを深くかぶっているため顔が良くわからない。
「では、残った皆さんは、この依頼への参加に同意したとみなし、作戦の説明に移ります」
ギルド長が話を再開した。
「第四階層の『上級の魔物』討伐は明日、決行します。第四階層への入り口までは全員で術者チームの護衛をしながら移動して頂きます」
「第四階層では、二班に分かれて、一班は『上級の魔物』と対峙、もう一班は、『上級の魔物』を迂回しつつ、階層の中央に向かいます」
「階層中央の聖域で術者たちが第四階層の魔物の出現を抑制する処置を行います。これが完了すれば第四階層の『上級の魔物』を無力化できます。『上級の魔物』を先に討伐出来れば問題ありませんが、もし討伐できなくても、処置が完了するまで時間を稼いで頂ければ『上級の魔物』は容易に討伐が可能となります」
「時間稼ぎはどれくらいの時間すればいいんだ?」
俺はギルド長に質問した。
「処置には一時間程度かかります。その間、他の『中級の魔物』や『下級の魔物』は際限なく出現しますので、それらからの護衛も必要となります」
いずれにしても一時間は戦闘を続けなきゃいけねえって事か?
それならやはり、早めに『上級の魔物』を討伐して全員で護衛にあたった方がいいな。
「先に『上級の魔物』を倒してから、処置を開始したらダメなの?」
キアが質問した。
術者はそれまで第四階層手前のゲートで待機してもらえば安全だ。
「確実に『上級の魔物』を討伐できるというなら、それでもかまいませんが」
「時間稼ぎだけなら無理をする必要が無いが、討伐が必須となると犠牲者が出る確率が高くなる。最初の案が堅実だろう」
ベテラン冒険者の一人がアドバイスをくれた。
「ココさんでも討伐はきびしいのか?」
俺はココさんにたずねた。
「あたいの攻撃は打撃だけだからね。魔物によって相性があるんだ。あたいだけでは倒しきれない相手もいる」
俺やシアもダメージは与えられても決定的な大技は無いからな。
・・・あの魔法使いはどうなんだ?
「あんたは『上級の魔物』に止めを刺せる魔法とか使えないのか?」
魔法使い風の冒険者に聞いてみた。
・・・魔法使いは無言で首を横に振った。
・・・しゃべれないのか?・・・いや、詠唱が必要だから声は出るよな?
「そうか、わかった」
やはり最初の案で、二班に分かれる事になった。
俺達三人とユナさんが護衛班、ココさんとギル、その他の冒険者が討伐班となった。




