122話 地底の大空洞
第三階層はひとつながりになった広大な地下空間だった。
地図ではわかっていたが、実際に来てみると想像していたものとはだいぶ違っていた。
天井はどれくらいの高さがあるのかわからないくらい高い。
おそらく天井全体がぼんやり光っているのだろうが、距離感が全く分からない。
空気も多少かすんでいるのか、天井や周囲の壁がどこにあるのか把握できないほどの広さだった。
「へえっ!地下とは思えないね!」
「この空間も何かの魔法で作られているのかもしれませんね」
「自然に出来たという事は無いだろうな」
上を見なければ地上にいるのかと錯覚してしまうほどだ。
・・・もっとも、この国の地上は一面雪景色のはずだが・・・
「さあ、この階層には『中級の魔物』がいるはずだぞ!気を抜くなよ!」
ココさんの言う通り、これからは一瞬でも気を抜けない。
俺は『ストーンブレード』を発動して待機させる。
シアも『アクアスラッシュ』を用意するかと思いきや『ストーンスラッシュ』を二つ発動していた。
「どうした?シア。『アクアスラッシュ』じゃないのか?
「やはり魔力の回復が早いみたいなので、試しに魔力消費の大きい『ストーンスラッシュ』を使ってみました」
「俺の方はあまり実感が無いが、シアはそんなに回復が早いのか?」
俺は元々魔力生成量が多くて回復が早いので、あまり普段と違いを感じない。
「はい、確実にいつもより魔力の回復が早くなっています。『ストーンスラッシュ』二つ分の魔力はすでに回復しました。『ストーンスラッシュ』を維持するために必要な魔力より回復量の方が多いくらいですので使わないともったいないです」
「それはすごいな!シアはこの迷宮の中なら無尽蔵に魔力が使えるって事か!」
ココさんが驚いているが、ココさん自身も元々身体強化の魔力が無尽蔵だよな。
「とりあえず先に進んでみよう。中級の魔物が出るから気を付けろ!」
第三階層は一つの空間で道が無いのだが、地図を見て第四階層の入口の方角へ進むことにした。
第三階層の地面は平たんではなくアップダウンがあり、大きな岩が転がっていたりなどで視界は悪い。
逆に地形が変化に富んでいるので、奇抜な形をした岩などは帰りの目印になる。
少し進むと早速、『鱗猿』が現れた。
周りには『小鬼』などの『下級の魔物』も多数いる。
俺とココさん、それにキアはまず下級の魔物を片付け始めた。
その間にシアは攻撃魔法を発動していた。
「『アクアランサー』!」
巨大な水の槍が鱗猿に向かう。
通常の『アクアランサー』より一回り大きい水の槍が『鱗猿』の胸に命中したかと思うと、水の槍は回転しながら拡散し、『鱗猿』の上半身を木っ端みじんに吹き飛ばしてしまった。
「どうやったんだ?シア」
「『アクアランサー』にいつもの何倍も魔力を注入して、水を高速で回転させながら発射したんです。そして、相手に突き刺さったところで、更に回転を上げて遠心力で拡散させてみたんです。普段は『アクアランサー』一発にこんなに魔力を使う事は無いんですが、今は魔力に余裕があるので試してみました」
試しにやってみた割にはとんでもない破壊力だったな。
その後も『中級の魔物』に出くわすたびにシアが強化版の攻撃魔法を試して一撃で仕留めていった。
しかも、その間に、周りに集まってくる『下級の魔物』を『ストーンスラッシュ』で薙ぎ払っているのだ。
「なんか、おいしいところ全部シアが持って行っちゃってるんだけど?」
「ふふふっ!魔物討伐って楽しいです!」
さっきまで『聖女』だったシアが、なんか違うキャラクターになってる気がする。
「しかし、あれだけの魔法を連続で使えるってすごいな!『上級魔法士』並みじゃないか?」
「まだこれくらいでは『上級魔法』を発動するには全然足りませんよ」
『中級魔法士』と『上級魔法士』の違いはその保有する魔力量だ。
『中級魔法』と『上級魔法』では発動に必要とする魔力量が桁違いに跳ね上がるらしい。
『中級魔法士』の中ではずば抜けて魔力量の多いシアや俺でも、『上級魔法士』と比べると魔力量は全く及ばないのだ。
「一度に使える魔力量は及ばなくても、魔力切れしないならかなりの戦力になるぞ!」
「そういえば、キアは身体強化で魔力切れしないのか?」
「僕も普段より魔力の回復は早い気がするけど、シアほど極端じゃないかな?最近は魔力を節約しながら戦う癖がついちゃってるから、極端に消耗しないし、あまりよくわからないんだよね」
・・・言われないと分からない程度の増加量か。オレと同じだな。
やはりシアの変化が極端だな。
「もうすぐ第四階層へのゲートですよ!折角だから行ってみましょう!」
広大な空間の反対側の壁にたどり着くと、小さな洞窟があった。
しかし、その洞窟の前にはバリケードが作ってあって中に入れない様になっていた。
「『結界』も張ってあります」
シアが教えてくれた。
「かなり厳重だな」
国家機密にかかわる依頼が、おそらくこの先にある。
辺りには他に人の気配もなく、わざわざここまで来る冒険者がいない事がわかる。
「ここより先には進めないな、今日はこれで戻るか」
「依頼の内容が開示されれば先に進めるだろう」
俺達はとりあえず引き返す事にした。
「ふふふ、帰りも魔物を倒しまくりますよ!」
「シアは本当に魔力切れしなさそうだな」
「あたいも魔力切れしないぞ!」
「ココさんはいつもじゃないですか。それよりお腹は減ってないですか?」
「ああっ!そうだ!腹がぺこぺこだ!早く戻ってご飯を食べよう!」
「わたしもお腹が空きました。甘いものが食べたいです!」
魔力は回復出来ても、空腹は満たされないみたいだな。




