116話 雪原を疾走
次の町は最初の町ほど大きくは無く、宿も質素で店も少なかった。
町の結界も完全ではなく、町の中にも雪が積もっていた。
俺達はすぐには出発せずに何か雪原の移動に有効なものが無いか、町の中を探していた。
まず目についたのは『そり』だ。
町の中では荷物の運搬にそりが使われていたのだ。
小さいそりは荷物を乗せて人が引いているが、大きいそりは馬車のように馬に引かせていた。
「そりで移動するというのはどうでしょうか?もしかしたら乗り合い馬車のような物があるかもしれません」
シアが提案した。
「そうだな、町を移動するそりがあれば利用するか?」
町の人に聞いてみたが、町を移動する乗り合い馬車的な定期便というものは無く、貴族や商人が個人的に所有しているだけだという事だった。
「あーあ、いい方法だと思ったけどだめそうだね」
「やはり自分たちで地道に移動するしかないみたいですね」
あきらめて徒歩で隣町を目指そうかと思ったところで、広場で遊ぶ子供たちを見かけた。
子供達は広場の中央にある丘の上から、一人乗りの小さなそりで滑り降りて遊んでいた。
「ふふっ、楽しそうですね!」
「僕らも小さい頃は草の生えた坂道をそりで滑って遊んだな。でも雪の方が良く滑りそうだよね」
それは、俺の村でも子供がやってたな。
「ゲンもやった事ありますよね?」
「いや、村の子供らがやってるのは見た事があるが、俺はもっぱら剣ばかり振ってたから一緒に遊んだ事は無かったな」
「そうなんですね・・・そうだ!あの子たちと一緒に少し遊んでいきませんか?」
「えっ?おい、何言ってんだ?」
「いいじゃないですか!ちょっとだけですから!」
シアは俺の腕を掴んで強引に子供たちのところへ連れて行った。
「ねえ!君たち!少し一緒に遊んでもいいかな?」
子供たちは美少女に突然話しかけられてポーっとしている。
しかし、シアの交渉がうまくいってそりを貸してもらえる事になった。
シアと並んで丘の上でそりに乗る。
「ゲン、こうやって滑るんですよ!」
そう言ってシアはそりを押し出しつつ、上に飛び乗った。
そりは思ったよりも速い速度で丘を下っていった。
「きゃあ!すごいです!」
シアも予想以上の速さにちょっと驚いている。
シアのそりは、丘を下った後も速度が落ちずに平地を滑走する。
シアは止まろうとそりを横向きにしようとしたが、バランスを崩して横転し、その先の雪だまりに突っ込んでしまった。
豪快に雪煙を巻き上げてシアの姿が見えなくなった。
「シア!大丈夫か?」
俺もシアの真似をして、同じ様にそりに乗って丘を滑走した。
・・・確かに、結構な速度だ。
俺もあっという間にシアが突っ込んだ雪だまりのところまで来てしまった。
・・・ところで、これはどうやって止まるんだ?
そういえば止まり方を聞いていなかった。
俺はなす術もなく、そのままの速度で豪快に雪だまりに突っ込んだ!
再びあたりにもうもうと雪煙が舞上った。
「いてて!」
俺は雪の中に埋まっていた。
体の上に積もった雪を押しどけて、雪の上に出た。
「シアはどこだ?」
俺のまわりは舞い上がった雪煙が降り積もって真っ白だった。
「シアはまだ雪の中だよ!」
遠くからココさんが教えてくれた。
大変だ、早く掘り出さないと!
俺は周りの雪を手でかき分けた。
「シア!どこにいる!」
雪はさらさらで手ごたえがなく、掻き分けても、舞い上がって再び降り積もってくる。
俺はがむしゃらに周りの雪をかき分けた。
・・・すると、雪の中にふにっとした柔らかい感触があった。
俺はそれを掴んでみた。
心地よい柔らかさのそれは、程よい弾力があった。
「ひゃう!」
シアの声だ!
俺は手に触れたもののまわりの雪を払い除けた。
すると、雪の中からシアのピンクブロンドの髪が見えてきた。
さらに雪をどけるとシアの顔があった。
「ゲンのエッチ!」
シアは顔が真っ赤だった。
・・・俺が掴んだものは、どうやらシアの胸だったらしい。
シアの白いコートが雪の中で見えなかったのだ。
「すまん、シア、大丈夫か?」
「・・・おっぱいは揉まれましたけど・・・大丈夫です!」
「おーい!二人とも大丈夫か?」
ココさんとキアが遠くから叫んでいる。
雪の中を歩いてきているが、中々ここまで来られない。
「お姉さんたちへたくそだなあ」
子供の一人がそりで滑って来た。
「止まる時はこうするんだよ」
その子はそりから両足を出して踵を雪面に当て、少しずつ速度を落として俺達の前で止まった。
「急に止まろうとするから転ぶんだ」
なるほど、ああやって少しずつ速度を落とせば良かったのか。
「ふふっ、ゲンってば真っ白です!」
「そういうシアも真っ白だぞ」
二人とも雪を全身に被っていた。
「ゲンは元々真っ白ですけどね」
シアは、あははは!と楽しげに笑った。
「もう一度挑戦してみるか?」
「はい!次は大丈夫です!」
俺達は子供達と一緒に、童心に帰ってそり遊びを堪能した。
おかげで、すっかりそりの扱いをマスターした。
「お兄さん、お姉さん、楽しかったよ!ありがとう!」
「君たちもありがとうね!」
俺達は子供達と別れ、広場を後にした。
「ふふっ楽しかったですね!」
「おう!楽しかったぞ!」
実は一番はしゃいで楽しんでいたのはココさんだった。
完全に子供達に溶け込んで一緒に遊んでいた。
「なあ、あのそり、移動に使えるんじゃないか?」
俺はそりで遊びながら考えていた。
「確かに下り坂は早いけど、登り坂や平地は進まないんじゃないか?」
「それなんだが、俺に考えがある」
俺達は町の道具屋を訪ねた。
小型のそりは、この町の必需品の様で、道具屋で普通に売っていた。
俺はそりを4つ購入した。
「ゲン、これでどうするんですか?」
「まあ、見てろって」
俺達は一人一台ずつそりを背負って町の外へ出た。
「今からじゃ次の町に着く前に夜になっちゃうんじゃないの?」
「いや、大丈夫だ」
俺はそりを縦に4台並べて間をロープで繋いだ。
「じゃあ、みんな、そりに乗ってくれ」
俺は先頭のそりに乗った。
「準備はいいな?」
俺は『ストーンブレード』の魔法を発動した。
目の前に出現したストーンブレードの柄にロープを縛り付ける。
ロープの反対側はオレがのっている先頭のそりに繋いである。
「じゃあ行くぞ!そりから振り落とされるなよ」
俺は『ストーンブレード』を前方に向かって飛ばした。
ロープに繋がった俺のそりが『ストーンブレード』に引っ張られていく。
そして、他のそりも次々引っ張られていった。
4台のそりは軽快に滑り出した。
「なるほど!こういう事だったんですね!」
「こりゃ、らくちんでいいや!」
「楽しいぞ!これは」
無駄に魔力が余っていて、『ストーンブレード』を常時発動可能な俺ならではの移動方法だ。
馬にそりを引かせる事も考えたのだが、この町では馬の入手はできないし、そもそも馬の扱いに慣れていない。
『ストーンブレード』は発動時に大量の魔力を必要とするが、発動後はそれほど魔力を必要としない。
4台のそりを引いても思ったより魔力を消費しないので、俺の魔力生成量なら、一日中連続でそりを引っ張っても大丈夫だ。
「もう少し速度を上げてもいいか?」
「はい!まだ大丈夫です!」
最初は様子を見るために『ストーンブレード』の速度を控えめにしていた。
少しづつ速度を上げてみる。
「そろそろ制御が難しくなってきました」
普通の馬の走るくらいの速度で、そりの制御があやしくなってきた。
この辺りが限界か?
「じゃあ、この速度で行くぞ」
速度を固定して、そりを走らせ続けた。
吹き付ける風の風圧もこの程度なら問題ない。
風は冷たいが、皆寒さは対策済みだ。
真っ白な雪原の中を颯爽と駆け抜けるのは、何とも爽快な気分だった。




