115話 雪原の旅
国境付近の町で数日を過ごし、この国の衣装や必要な装備と情報をある程度入手した俺達は、いよいよ王都目指して出発する事にした。
「さあみんな!王都に向けて出発するぞ!」
宿をチェックアウトして、ココさんが元気に号令をかけた。
「はあ、この快適な宿ともお別れかぁ。ココさんと一緒のお風呂が、しばらくおあずけなんて・・・」
なんか、あれから俺達は風呂は4人一緒に入るのが習慣になってしまった。
「あはは、また王都に着いたら同じ様な宿を探そう!」
キアの目的が自分の体だって知ってるのはずなのに、ココさんはおおらかだな。
「そういえばキアは、シアの裸には何も感じないのか?」
ココさんがキアに尋ねた。
「僕とシアは兄妹のように育ってて二年前ぐらいまでは一緒にお風呂に入ってたからね。今更って感じかな」
ちょっと待て!二年前だと!それって俺達が出会う少し前じゃねえのか?
「わああああ!キア!それ言っちゃだめです!」
シアが真っ赤になって慌ててる。
「シア・・・お前とキアって・・・」
「違うんです!物心ついた頃から一緒にいたので、完全に兄妹の様に思ってて・・・
わたしもキアの裸を見ても何にも感じないので、気にしてなかったんですけど、さすがに学院に入学する年に近づいて、おかしいなって思って・・・」
「僕もだよ、他の女の子の裸を見たら興奮するけど、シアの裸を見ても全然興奮しないんだよね。久しぶりに見たけど、やっぱり何も感じないや」
「なんか色々複雑な気分だが・・・まあ、キアがシアに対してその気がないならいいか」
「うん、そこは安心していいよ」
「うううっ、ゲンには知られたくなったのに・・・」
シアがちょっと落ち込み気味になってしまった。
「あっはっは!だったらこれからは毎日ゲンと一緒に風呂に入ればいいだろ?」
ココさん、いきなりそれはちょっと・・・
「そうですね!、これから一生ゲンと一緒にお風呂に入ればいいんですよね!」
・・・一生、毎日なのか?・・・まあ、シアが元気になるんだったらいいか?
町の門の前に来た。
最初にこの町に入った国境側の門とは反対側の門だ。
そこそこ大きい町だが、全周を強固な壁に覆われている。
町で聞いた情報では、この地域では住民が住んでいるのは町の内側だけで、外側にはだれも住んでいないという話だった。
そのため、この町の住人はめったに壁の外に出る事はなく、門も普段は閉じていて通行人が通る時のみ開けるのだそうだ。
俺達は門番に冒険者証を見せて門を開けてもらった。
門を開けると冷気が入って来た。
門は二重になっており、間に広場があって、その向こうに二つ目の門があった。
一つ目の門が閉じられてから、二つ目の門が開けられた。
門の向こう側は・・・一面の雪景色だった。
門番に聞くと、昨日の夜に雪が結構降っていたそうだ。
町の中は上空に結界が張ってあるため、雪が積もらないらしい。
「わあ!ゲン!雪ですよ!本物の雪です!」
シアが雪を両手ですくって空に放り投げた。
雪は日の光にきらきらと輝きながらシアに降り注ぐ。
その姿は、さながら雪の精霊の様だった。
俺も頭から雪を被ったが、温度防御の装備、それに町で買ったコートのおかげでほとんど寒さを感じない。
いや、『寒い』という事は感じているのだが、寒さを苦痛に感じないという表現が正解か?
どういう仕組みか分からないが、温度防御の装備はそういう仕組みになっているらしい。
師匠いわく、『熱い』や『寒い』などの情報の有無が戦況を左右する場合があるので感覚自体は残すようにしているのだそうだ。
「ゲン!隙あり!」
「うわ!冷てえ!」
考え事をしてたら顔に雪玉をぶつけられた。
「やったな!シア!」
「隙あり!」
シアの方を見たら横からも顔に雪玉が当たった。
しかも固く握ってあったので結構痛い。
附加装備の防御機能は、痛覚も多少は伝わる様になっているのだ。
ダメージはキャンセルするが、痛覚も状況判断に必要な感覚という事で少し残してあるのだ。
「キア!硬く握り過ぎだ!」
「隙あり!」
今度は特大の雪玉が俺にぶつかった。
俺は雪玉ごと吹っ飛ばされる。
ココさん、これは既に魔物が倒せるレベルの攻撃じゃねえのか?
「おまえら!」
俺は雪玉を作って次々とみんなにぶつけた。
「きゃ!冷たい!」
「いてっ!僕のより硬くしただろ」
「ははは!こんなもんじゃ効かないぞ!」
俺達はそれからしばらく雪合戦をして楽しんだ。
「あはははは!楽しかったです!」
「これは魔物退治に使えそうだぞ!」
「ゲン!僕ばっかり狙ってただろ!」
雪ってこんなに楽しい物なんだな。
雪合戦を満喫した後、俺達は王都を目指して移動を開始した。
・・・しかしここで一つ問題が発生した。
足場が悪くて速く走れないのだ。
町で売っていた雪用のブーツに履き替えていたので滑る事は無いのだが、雪がまだやわらかく、歩くたびに沈み込んでしまって、一歩一歩ゆっくり進む事しかできない。
「このペースだと今日中に次の町に着けるかわからんな」
「そうですね、何か対策を考えないと雪の中で野宿になってしまいます」
町で聞いたら王都までの街道には、徒歩で一日程度の距離ごとに町があるらしい。
俺達のペースなら、一日でいくつもの町を通過できると考えていたのだが、これでは一日歩き通しでも一つの町しか移動できない。
魔法で移動する事も考えたが、いいアイデアが浮かばず、結局この日は普通に歩いて、何とか次の町に着いた。
何か対策を考えないといけないな・・・




