107話 盗賊の増援
俺と盗賊の幹部らしき『アニキ』は、ほぼ互角の戦いをしていた。
「いい腕だが、こっちはもうすぐ増援が来る。そうしたら一気に片をつけてやる」
残念だな、増援ならこちらにも来る。
終わるのはお前らだ。
するとそこに盗賊の斥候がやって来た。
「アニキ!大変だ!増援に来るはずのチームが、向こうで敵の別働部隊と交戦を始めちまった。かなりの劣勢ですぜ!」
「何だと!おい!貴様、そっちにも増援がいたのかよ!」
「ああ、その部隊が俺達の本体だ。あんたをここで釘付けにしておけば、向こうはじきに片が付くだろうな」
「畜生!そうゆう事かよ!」
『アニキ』はかなり怒ってるようだな。
「おい、ボスにこの事を知らせて来い!」
「良いんですかい?村への襲撃は」
「村の襲撃どころじゃねえ!こっちが全滅しちまう!」
「わかりやした!伝えてきます」
斥候は返事と同時に姿を消した。
ボスの方は、あのギルってやつが対応しているはずだが、どうなっているんだろうな?
性格は別として、実力はかなりのはずだ。心配はいらないだろうが。
「わりぃな小僧、遊んでる暇が無くなった。とっととてめえを片付けて、向こうに行かせてもらうぞ!」
『アニキ』の打ち込みがさっきより激しくなった。
今まで本気を出していなかったのか?
身体強化の腕力も速度もさっきよりも増している。
「あんた、この国の人間じゃないのか?」
ざっと見た感じ、この国の冒険者に、ここまで身体強化を使いこなせる奴はいなかった。
「はっ!盗賊に国なんか関係ねぇ!今はこの国で雇われ・・・おっといけねぇ。無駄話が過ぎたな」
何だって、ただの盗賊じゃないのか?
「こっちも本気をださせてもらう」
俺は剣を鞘にしまった。
そして、『アニキ』に向かって突進する。
「なんだぁ、俺様と素手でやり合おうってか?」
「素手じゃない」
俺が『アニキ』に切りかかる予備動作をしたところで、後方から飛んできた『ストーンブレード』が俺の手に収まった。
俺の速度に『ストーンブレード』の速度を加算して、『アニキ』に叩き込む。
「なんだ!そりゃ!どこから出てきた?」
『アニキ』は慌てて自分の大剣で受け止めようとしたが、『ストーンブレード』に力負けして吹き飛ばされる。
「どうなってんだ!力と速さが一気に倍増したぞ!」
俺は吹き飛んだ『アニキ』を追いかけて、第二撃を打ち込む。
再び、『アニキ』が吹き飛んだが、手ごたえがさっきより少ない。
おそらく全力でぶつかる前に、自ら後ろに下がったのだろう。
今の俺には勝てないと判断したか?
「冗談じゃねえ!何で貴様みたいな化け物がこの国にいる?」
俺は更に追撃をかけ、『アニキ』に三撃目を入れる。
今度は受ける気もなく、完全に逃げに入った。
俺を倒すってのは諦めた様だ。
「おめえら!ここは撤退する。向こうのチームに合流するぞ!」
『アニキ』は残ったメンバーに声をかけて、逃走した。
俺は追いかけずに、周りの状況を確認した。
他の盗賊は、幹部らしき数人を除いて、全て倒している。
幹部たちも、ユナさん、シア、キアとそれぞれ対峙していて、いずれもこちらが押し気味だ。
しかし、そいつらも、戦うのをやめて逃走に入った。
「ゲン君とシアさんは、あたしと一緒に奴らを追うよ!キア君と他のみんなは、倒した盗賊を捕縛して!」
「了解!まかせて下さい!」
ユナさんはまだ、動ける盗賊もいるのでキアを残したのだろう。
俺とシアはユナさんと共に、逃走した『アニキ』たちを追った。
行先の別働隊はココさんたちが制圧するだろうから、挟み撃ちに出来る。
しかし、盗賊だけあって逃げ足だけは妙に早いな。
既に逃走した幹部たちの姿は見えない。
だが、別動隊のところに行ったに違いないので、ココさんたちと合流すればいい。
俺達はココさんたち本隊のいる場所を目指した。
ココさんたちの場所は、連絡係が教えてくれたので、最短距離で到着出来た。
本隊は、既に盗賊の別働隊を制圧し終わっていた。
「ココさん、ガズさん、こっちは終わりましたか?」
ユナさんがガズさんたちに尋ねた。
「ああ、ココさんが大活躍して大体片付けたんだが、盗賊の幹部らしき奴らを数名取り逃がしちまった」
「こっちもです。腕の立つ4名が逃走したので、こっちの隊に合流したのかと思ったのですが?」
「ここには来なかったぜ。そうするとそっちも取り逃がしちまったって事か?まずいな、それは」
結局雑魚ばっかり捕らえて、幹部を一人も捕まえていない。
「村へ行くぞ!」
ココさんは言い終わるよりも早く村に向かって駆け出していた。
「そうだな、盗賊の残党は村に集結している可能性が高い。ここの片付けは俺達がやるからお前らは村に向かえ!」
「わかった!ここは頼むよガズ」
盗賊のリーダーの率いるチームは当初の予定通り村に向かっていたはずだ。
おそらく他の幹部たちもリーダーと合流し、村を襲ってから離脱する可能性が高い。
倒した盗賊たちの捕縛はガズさんたちに任せて、俺とシア、それにユナさんはココさんを追って村へ向かった。




