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勇者を名のる剣聖の弟子  作者: るふと
第一章 剣聖の弟子
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1話 剣聖の弟子

【勇者の弟子はお嫁さんになりたい!】のスピンオフです。

最終話とエピローグの間の話になります。

「もうすぐ王都に着くかな?」


 王都の手前の宿場町から王都までは歩いて1日だ。

 今朝宿を出発してから走ってきているので昼前には王都に着くだろう。


「ぼうず!元気だなぁ!」


「まあなっ!」


 歩いている旅人を追い越すたびに声をかけられる。

 街道を走るなんてもの好きなんか、まずいない。

 急いでいる奴は大抵馬か馬車を使う。

 俺は鍛錬と宿代の節約も兼ねて村からずっと走り続けてきた。

 歩いて2日分の距離を1日で移動すれば宿代が半分で済む。


 街道を調子よく走っていると、なんだか前の方が騒がしい。


 近づいてみると馬車が魔物に襲われていた。


 10体ぐらいの『小鬼』に馬車が囲まれている。

 二人の剣士が対応しているが押され気味だ。


 『小鬼』は猿のような魔物で、大きさは人より少し小さい。

 全身緑色で、頭にはこぶがあり、手足の指には太くて鋭い爪が生えている。


「待ってろ!助けに行く!」


 俺は剣を抜いて『小鬼』に切りかかった。


 剣士の方を向いていた小鬼を背後から袈裟懸けにする。

 心臓とみぞおちにある魔結晶を分断するのが『小鬼』討伐のセオリーだ。


 右肩から左脇腹にかけて、ぱっくりと切り裂かれた『小鬼』は動かなくなっていた。


 『下級の魔物』の中でも一番弱いと言われている『小鬼』だが、一撃で倒すのは容易じゃねえ。

 それなりに動きは速いし、素人が剣で切り付けても骨や筋肉で刃が止まって内臓まで届かない。


 俺は幼い頃から剣士を目指して鍛錬を続けてきた。

 『小鬼』を一太刀で倒せるようになったのはわりと最近だ。


 『小鬼』の一体が倒れて、他の『小鬼』と剣士が俺に気が付いた。


「っ!君はっ?」


「いいからそいつらを倒せ!」


 俺はその時には、隣にいた『小鬼』の胴体をみぞおちの上で水平に切り裂いていた。

 うまい事心臓と魔結晶を分断して『小鬼』は動かなくなった。


 剣士たちの方を見ると『小鬼』に切りつけてはいるが刃が通らずに、なかなか倒せないでいる。


(素人かよ!)


「何してんだ!あんたたち!剣士じゃねえのかよ!」

 

「『身体強化』が使えなくなったんだ!これでは戦えない。どうして君は『小鬼』を倒せるんだ?」


「俺は元々『身体強化』なんて使ってねえよ」


 


 この国の人間はみんな『魔力』を持っていて『魔法』が使える。

 使えねえ奴には会った事がねえ。

 一応俺も薪に火をつける程度の簡単な『魔法』だったら使える。


 『魔法』の応用で『身体強化』ってのがある。

 『魔力』を体の中で巡らせて、身体能力を高める技だ。


 この国の剣士はみんな、この『身体強化』で身体能力を高めている。

 この技が使えねえと剣士にはなれねえって話だ。


 俺はこの『身体強化』が使えねえ。

 向き不向きがあって、みんながみんな使える訳じゃない。

 使えない奴は剣士の道は諦めるしかないと言われた。


 でも俺はあきらめたくなかったから一人で鍛錬を続けた。

 村の学校では『身体強化』が使える奴らにいつもぶっ倒されてバカにされた。

 それでもあきらめなかった。


 そんな時に『あいつ』を見たんだ。


 父親に頼んで連れて行ってもらった王都の剣術大会で『身体強化』が使えない少女が出場しているって話題になっていた。


 そして、その大会で、その少女が優勝した。

 自分より体の大きな大人たちが『身体強化』を使っているにもかかわらず、そいつらに圧勝したのだ。


 その時の試合が目に焼き付いて離れなかった。

 やればできるんだと確信した。


 会場の観客席の末席で遠く離れていたから彼女の顔はわからなかったが動きは鮮明に覚えている。

 あの時の彼女の動き方を思い出しながらその後も鍛錬を続けた。


 それからの俺はみるみる強くなっていった。


 それまでの俺は、『身体強化』に真っ向から力だけで対抗しようと体を鍛えていた。

 しかし、大会で見た彼女の戦い方は違っていた。

 彼女は見た目の通り、普通の少女並みの腕力しか待たねえはずだ。

 無駄のない動きで相手の攻撃を躱し、巧みに相手の隙をつき、的確に急所に攻撃を決めていた。

 魔力も体力も使わずに、強大な敵を倒してやがったんだ。


 彼女をイメージして鍛錬を重ねた俺は、村の子供には負ける事がなくなった。


 禁止されていたが、村の外の魔物が出没する森に行って魔物とも戦っていた。

 最初は何度も死にそうになったが、彼女をイメージして戦っている内に勝てるようになった。


 そんな彼女が最近『剣聖』になったと噂で聞いた。


 『上級剣士』の剣術大会の決勝戦で『剣豪』を倒したというのだ。

 『身体強化』を使わずに、この国で最強の剣士まで登り詰めたという事実に、おれば震えが止まらなかった。

 彼女はその偉業がたたえられ、100年以上空席だった『剣聖』の称号を与えられたのだという。


 それを聞いた俺は、決心を固めた。


 『剣聖』の弟子にしてもらう!


 どうすれば弟子になれるのかわからないが、とにかく会いに行こう!


 そう決心して村を飛び出し王都を目指していたのだ。




 

「ちっ!仕方ねえな!俺がこいつらを倒すから、あんたらはせめて馬車を守ってな!」


 幸いにも(?)『小鬼』たちは俺をターゲットに決めたみたいだ。

 みんな俺の方に向かってきて馬車の方は手薄になっていた。

 

 俺は一旦斜め後ろに下がり、『小鬼』に囲まれない様に隊列を乱す。


 そして近いやつから順番に倒していく。


 さすがに囲まれて一度にかかってこられたら対処できない。

 相手をこちらの都合の良い様に誘導して有利な条件で倒していく。

 これも彼女から学んだ事だ。


 俺は落ち着いて、『小鬼』を一体ずつ確実に仕留めていった。


 俺の方に付いてきた『小鬼』を全て倒して、馬車の方を見ると、剣士二人がかりでようやく一体の『小鬼』を倒したみたいだった。


 馬車の周りには2体の『小鬼』が残っていた。


(馬車から少し離れすぎた!戻るか)


 そう思って馬車の方に向かおうとすると、馬車の上から巨大な手が馬車の屋根を掴んだ。


 『中級の魔物』『鬼』だ。


 『鬼』は馬車の屋根を掴むと力任せに剥ぎ取った。


「いやー!お嬢様!」

「しっ、『シールド』!」


 中には貴族の令嬢らしき少女と侍女がいた。


「・・・魔法が・・・使えない!?」


 貴族の少女は魔法を使おうと魔法陣を描いていたが発動しなかった様だ。


 聞いた事がある。

 『下級の魔物』である『小鬼』を『中級の魔物』の『鬼』が引き連れている事がある。

 そして『鬼』は魔力の発動を阻害する能力を持っている事があると。


 『鬼』は馬車の中の二人に手を伸ばそうとしている。


「ひぃー!お嬢様!」

「たっ、助けてっ!」


 二人とも恐怖のあまり動けなくなっている。


「おい!相手はこっちだ!」


 俺は『鬼』の後ろに回り込んで踵に切りつけた。

 踵を切られた『鬼』は怒って俺の方を振り向いた。


(よし!注意がこっちに向いたな)


 俺は馬車から離れて『鬼』を引き付ける。

 馬車の近くにはまだ2体の『小鬼』がいるが剣士に何とかしてもらおう。


 『鬼』はガタイがでかいだけあって、移動が速い。

 ただ逃げていても追いつかれる。


 俺は馬車から距離が離れたところで切り返し、『鬼』の足元に入って足首を切る。

 しかし大したダメージにはならない。


 『鬼』から距離を取って剣を構える。


(これどうやって倒せばいいんだ?)


 さすがに今まで『中級の魔物』と戦った事はなかった。


 『鬼』の魔結晶は『小鬼』と同じでみぞおちだってのは聞いた事はあるが、どうやって切り落とせばいい?


「とりあえず俺が囮になって馬車から引き離すしかないよな?」



 そう呟いて、『鬼』に切りかかろうとした時・・・誰かが俺の肩に手をかけた。



(今まで近くに誰もいなかったよな!?)



「上出来だよ!きみ!あとは私に任せて!」


 耳元に聞こえてきたのは、鈴が転がるようなかわいらしい声だった。


 一歩前に踏み出してから、振り返ってにっこり微笑んだその顔は、見た事もない程の、とんでもねえ美少女だった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです! [一言] 追ってまいりますので、執筆頑張って下さい!!!
2023/07/08 22:50 退会済み
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