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魔導旅記〜魔法を極めるために旅をする〜  作者: 哉瀬
エールヘッジ王国
8/30

門前の蹂躙 〜西門・北門〜

    〜リーズ防壁西門前〜



「ねぇ、シル」

「なぁに?リーフェ」

 彼女らの中は最高に良くなっていた。もう何年来の親友と言っても差し支えないほどに仲がいい。リーフェはシルフィードのことをシルと呼ぶようになり、たまに相談に乗ってもらっていた。

「私、勝てるかな?」

「問題ないよ。今は私がついてるんだから、万が一にも負けはないわよ!」

「そう、そう、だよね。頑張る」

 さて、彼女らの麗しい関係を見れたところでタイミングよく魔物たちの戦闘集団が目視できた。ざっと数百ミル先だろうか、ものすごい勢いで向かってきている。

「リーフェ、そろそろ始めよ?」

「う、うん。わかった」

水竜の鉾(マイムドラゴール)...風の聖霊王の伊吹(シルフアニマ)...』

 リーフェの周りの空気が揺れる。シルはリーフェの魔法構築の補助をしながら魔力を送り、且つ邪魔になる魔物を打ち払うという聖霊では当たり前の芸当をやってのけていた。これを王国お抱えの宮廷魔法師が見たら卒倒するだろう。まあそれも関係のない話なのだが。

融合ロプス...冰剣之雨(パラセルレイン)!!』

 そう唱えた瞬間、魔物たちの上空から拳大の冰剣が降り注いだ。

 魔物たちはなすすべもなくその雨の餌食となっていた。

「す、すごい...私でもこんな魔法使えるんだ...」

「このシルフィード様がいるから当たり前よ!こんな魔法ちょちょいのちょいよ!」

「でも、まだまだいるね...」

「そうね。何体か、骨のありそうな奴もいるしね」

 2人で会話したあと、また魔物たちの殲滅に集中し出した。楽しく話しながら。


    〜リーズ防壁北門前〜


「イリスさんたちは手を出さないでくださいね」

 突然そう言われて困惑するイリス達。

「空間収納」

 オルンは空間収納から何やら反りがある剣を取り出した。

『ようやく私の出番?』

 すると剣が喋り出した・

「ふふふ...これだよ...待ってろよ『相棒』...『姫』...」

「ん?オルンよ、相棒と姫とは...」

 イリスが話しかけても耳も傾けなかった。

『ばっちこいだわ!私が全部ぶった斬ってあげる!』

 そこからオルンは誰の声にも耳を貸さなくなった。

 オルンがイリスを無視し続けて、とうとう魔物たちが目の前まで来ていた。

「おい!オルンよ!もうそこまで魔物どもが来ておるぞ!どうするというのだ!?」

 イリスはオルンにどうして動かないのかの疑問をぶつけ続け、ルーファンはいざという時のために動けるように準備していた。

 そしてオルンの口が開いた。

「一刀流...」

 瞬時、オルンは消えた。否、動きが早すぎて見えなかった。

『時水杏割』

 剣を納めた瞬間、オルンの背後にいる魔物達はただの肉塊となった。

『これが私たちの力なのよ!』

「ああ、そうだな。『鏡水』」

 そういってまた別の集団の元へと向かって行った。

 残されたイリス達はというと...

「のぉ、ルーファンよ」

「なんでしょうか、魔王様」

「我ら、必要ないんじゃないか?」

「...その通りだと思われます」

 イリス達は敵をひたすら斬っていくオルンを見つめて自分達の無力さを嘆いていた。彼女は魔王なのに。

「しかし、オルンのやつ、あの剣...桜舞ノ国のものではないか。一体どこで...」

「しかも『意志』を持つ剣...あれは相当な業物ですよ...」

 彼女らは獲物がいないという理由でオルンの持つ剣の分析をしていた。

「お、何やらわしの探知に引っかかった強者がいるようだぞ。ルーファンや、その実力、見せてくれるだろうな?」

「勿論でございます。十秒もかからずにあの畜生の首を掻き切って見せましょう」

 イリスはルーファンに面倒事を任せる気が満々だった。さらにこの先色々な面倒事がイリスによってルーファンに任される(押し付けられる)のだが、それはまた別の物語である。

「うむ。とくと我に見せつけよ。期待しておるぞ」

「は!」

 そしてルーファンは畜生こと不死龍アンデットドラゴンを十秒で片をつけるべく向かって行った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 リーフェは氷の雨を降らせ続けていた。

 無知な魔物達のおかげで効率よく敵を殲滅できる。

「でもね、リーフェ。何体か無効化されている魔物がいるよ」

「うん、わかってる」

 おそらくは属性耐性持ちなのだろう。リーフェは氷以外での攻撃を試してみることにした。全属性が乗る攻撃を。

全性集砲撃(フルバスター)

 それが命中すると、属性耐性持ちの魔物もたちまち倒れて行った。リーフェの魔法段階は既にレンジスを10上回っていた。その段階で魔法を構築したのだからこうなるのも当然であった。まだリーフェは意識して低段階の魔法を扱うことは難しいが、今後もレンジスに学ぶ予定である。

「すごいわねリーフェ。さすが私のご主人様ね!」

「そんなことないよ。まだまだレンジスさんから学ばないと」

「勤勉ねぇ。まあそういうところがあなたのいいところなのだろうけど」

「それよりも、ここの魔物は殲滅できたのかな...」

「うーん...うん!いないよ!全滅させたから大丈夫!」

「よかったぁ〜。じゃあ、みんなと...」

「リーフェ!!」



 シルの言葉がなければ今頃私は胸を貫かれていたのかもしれません。それ程この魔物の隠密性がすごかったのでしょう。

「ありがとう、シル」

「あなたが生きているだけでもよかったわよ!それよりもあの魔物ゴミをなんとかするから、私の力を解放してみて!」

「え?!」

 今まで一度も使ったことがないのに、私にできるでしょうか...

「限定的でもできるはずだよ!100%全開にしちゃったらここら辺一帯を更地にしちゃうし...」

「わかりました、やってみます!」

「その意気だよリーフェ!」

 私は意識を集中させる。聖霊の力を限定的だが解放するために。

聖霊よ(リバース)...』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 我は今心地が良い。

 魔王様から直接命令を下賜されたのだ。

 魔王様が直接命令を下されるのは崇高なる魔天七星のみ。

 我のような魔天七星の部下の端くれであるものなど本来は魔王様に御目通りが叶うはずもなかった。

 そして今回も魔天七星様が我らにリーズの侵略を命じ、我はここに来た。

 だが我は無実の罪で軍から放り出された。おそらくは我が褒美をもらっていることに腹を立てた同じ指揮官が企てたのだろうが、今ではその指揮官に呆れではあるが感謝もしている。

 いまこうして、我は魔王様の元でその実力を示すことができるのだから。

「魔王様のゆく道を邪魔する駄龍(ゴミ虫)が...その道から『消えろ』」

 そしてルーファンが『普段』武器として扱う短刀を取り出し、妙な詠唱を始める。

 ...

 そして駄龍こと不死龍に近づいて、詠唱が終わったのか、魔法構築を始める。

「魔法構築...冥魔法...」

 そして、その魔法は短刀に宿り、不死龍へと襲う。

存在を滅する闇(オーバーレス)

 攻撃を受けた不死龍は、存在すら残さずに消滅した。ルーファンが詠唱を始めてからちょうど十秒、命令通りだった。

「それでは魔王様にご報告しに行かねば」

 こうして北門の魔物軍精鋭の一角は崩れた。相手にとっては遊び相手にすらならない、ただその辺に舞っている埃にすぎなかった。



『オルン、この先にちょっとだけ強い奴がいるよ?』

「ええ。そのようですね、鏡水。練習相手にもならないかもしれませんが、行ってみましょう」

『おっけー!やっぱりオルンは最高だね!』

「あなたも最高ですよ、鏡水」

 そうして彼は通り過ぎて行ったものの全ての首を吹き飛ばしつつその強い奴へと進んでいった。



「くそっ、どうしてこんなことになったんだ!」

 指揮官は喚いた。ムカつく奴も放り出した。これで私だけが主の寵愛を受けられる。”魔族のなり損ね”ごときが主様の寵愛を受けるなど死をもって償うべきだ。これで卑しい”魔族のなり損ね”を放り出せて作戦が滞りなく進み、目の前の人間族の街を我らが主に献上する。そしてここを魔族の侵略戦争の前哨基地とし、魔族による支配の第一歩となるのだ。そう思って疑っていなかったのに。

「なぜ”魔族のなり損ね”が消えた瞬間から作戦が立て続けに失敗するんだッ!」

 俺でもわからない。しかし各所で確実に負けが続いている。このままでは俺の命が危ない。そう思って逃げようとしたら...

「いやぁ、強いやつかと思ったらただの魔族かぁ、残念残念」

『そうね、こんな雑魚は私が斬るまでもないけど...慣れるために斬ってくれる?』

「おい、お前達は何者だ?」

「了解した。さて、彼らにこの刀を隠し通せるだろうか...」

『そうね、このままじゃまたここから離れないといけないわよ』

「それはわかってるよ」

「おい!お前達は何者だ!」

「それにしてもここまでくるのに結構邪魔が入ったけど、あれはカウントされないの?」

『ええ、彼らはただの養分にもならなかったわ。このままだと...』

「貴様らは何者だと言っているんだ!この俺様を無視するな!」

「あーもううるさいな、大体もう負けてるよ?」

「黙れ!俺はまだ負けてな...」

 その言葉を言い切ることもなく、指揮官は真っ二つに割れた。彼はもう既に斬っていたのだ。

「一刀流...『残冰』」

『流石オルンね。見事な剣筋だわ』

「ははは...これでも師匠には敵わないや...」

『謙遜はよしなさい。ちゃんと師匠にも近づいているんだから。自信を持って私をふり続ければいいのよ』

「わかったよ、鏡水」

 そして彼らは残った魔物どもの殲滅をするために...行こうとした。

 森から出たあと、彼らの目に映ったのは天の祝福とも言え、また地獄への招待状とも言えるものだった。

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