暗い闇
僕が聖霊と魔王を召喚して翌日。
僕はリーフェと一緒に学院に通っていた。
リーフェが外の世界をあまりにも知らなさすぎたので、常識を学ぶためにも一応学院へ通うことになったリーフェ。一週間限定である。自己紹介の時にその天使スマイルでクラスメイトや廊下から覗き見している男子どものハートを全て打ち抜き、靴場の中身は恋文だらけ、毎日のように放課後校舎裏に呼び出されては告白され、隣にいるのが癪だからと言う理由で俺に喧嘩をふっかけたりと色々あった。彼女は申し訳なさそうにしていたのだが、その性格も相まって人気がやまない。そんなこんなで学院一の花の座をわずか一週間で奪い取ってしまった。ちなみに元学園の花はリーズに本店を構えその他の都市にも店を出している知らない人はいない飲食店杏樂亭の令嬢であるフェリス・アルマである。ちなみに僕の隣の席にいる女の子であり、ことあるごとに僕に突っかかってくる負けず嫌いでもある。テストの点数然り、魔法の実技演習然り、彼女が僕に勝てたことは一度もない。しかし何度も立ち向かう根気強さを僕は買っている。努力は偉大だからね。そんな彼女がやってきた。男と一緒に!
「レンジス!模擬戦を申し込むわ!」
この光景はもはやこのクラスでは日常である。
「分かった分かった受けて立つよ」
レンジスも毎日のように模擬戦を申し込むフェリスを面倒ながらも受けていた。受けないと家まで押し込んで模擬戦を申し込んでくるからである。休みの日まで家まで来るのは流石に勘弁してもらいたい。しかし、今日のレンジスは少し考えが変わっていた。
「覚悟することねレンジス!今日という今日は私が勝たせてもらうわよ!」
「あーはいはいわかったからそこのオルン君にでも仲裁を頼んどいてくれ」
オルン・リーベラ。リーベラ大商会の息子である彼はフェリスと幼馴染である。互いの両親が仲がいいのが影響して、幼い頃から行動を共にしており、今や腐れ縁という仲まで来ている。そんな彼らは両思いであるが、フェリスがツンデレをいいところで発動させたり、オルンがそもそも恋愛に奥手だったりとなかなかうまくいっていない。この恋の成り行きは両親含めクラスメイトも生暖かい目で見守っており、この焦ったい雰囲気がうざったらしいのか、
「さっさとくっついて爆発しやがれ!」
という意見も出てきた。さて、彼らの恋物語の件はここまでにしておこう。またもや目の前でイチャイチャし出して流石に僕もイラついてきた。この鬱憤はフェリスとの模擬戦で存分に発散するとしよう。
放課後。約束通り練習場にやってきた。旅の仲間は2人じゃ寂しいと思ってたしね。ちょっと実験をしてみよう。
「世界停止...」
そうしていきなり時魔法の最上位段階をぶっ放すレンジス。しかし、リーフェは当然のごとく影響を受けない。もし僕の期待通りだったら...
やはり僕の目に狂いはなかった。決まりだ。
「フェリス、君がこの戦いに勝ったら君の願いをなんでも一つ叶えてあげるよ」
「ほ、本当?!いったわね、取り消せないわよ!」
「ただし!僕が勝ったら僕のいうことを3人とも聞いてもらうよ?」
「わ、分かったわよ!」
さて、交渉成立。あとは本気でぶつかるだけだ。
世界停止空間内でのみの模擬戦。一歩でも出たらアウト。即死級の攻撃、または急所の攻撃は禁止となる。それのみがルール。それでは始めようか、模擬戦を...
「それでは模擬戦、はっはじめ!」
「魔法構築...............行け、火の玉!」
ふむ、無難な選択だな。様子見しながら相手を見極める。しかしこの戦いでは悪手だな。
「風の嵐...轟雷...融合!」
風の中級魔法と僕が独自開発した属性である雷の上級魔法を組み合わせる。魔法を組み合わせることによってお互いが初級魔法だとしてもその威力は中級に相当する。属性の相性が良ければさらに威力が跳ね上がり、上級魔法、特級魔法にまで成長する。そんな魔法がフェリスへと牙を剥く。
「くっ...舐めんなぁ!」
おお、風の初球魔法で切り抜けようとしていた時は諦めたかと思ったが、案外抑えられているな。しかし、これは僕の旅の為なんだ。悪いが終わらせてもらおう。
「龍星岩!」
そして土魔法と僕が研究した中で偶然できた、最強の属性、無属性の魔法を融合させた魔法:龍星岩でジ・エンド....ぬぁにぃ?!あの魔法を耐えたのか?!ふふ、これは相当な逸材だな..
「はぁはぁ、まだ...終わってないわよ...!」
根性は素晴らしい。しかも隠れた才能持ち、これは相当な鍛え甲斐がある。横で見ているオルン君も、自分では気づいていないが反射的に魔法防御を行なっている。こちらも絶対に連れて行こう。そして隠れているもう1人も...
「改めて君に敬意を。僕の本気をここまで耐え切ったのは君が初めてだ」
「はっ、それはどーも!」
「それじゃ、次、行こうか」
「どんとこい!」
こうして、2人の模擬戦は夜まで続いた。
模擬戦の決着がついた。僕の削り勝ちだ。フェリスは相当悔しがっていたが仕方がない。それではいうことを聞いてもらおう。
「その前に、入り口にいるんだろ?出てこいよ!」
「?誰もいないで...!」
僕がそう叫んだことに対しフェリスが疑問を持ちながら入り口を見ると、本当に入り口から女性が現れた。そう、この人が僕が旅に連れて行こうと思っている人の4人目である。世界停止を二重展開していたが、その2枚目の中で元気に動いていたのである。
「君、僕が世界停止使ってた時も動いていたよね?」
「え...?」
ありゃま。これは最上位段階の魔法も知らないな。フェリス達もはてなマークが頭の上に出ている。
「まあいいや。とにかく、君も僕たちの模擬戦を見たんだ、巻き込ませてもらうよ」
「ふぇ...?」
「というわけでフェリス君や。試合前の約束は覚えているね?」
「も、もちろんよ!なんでも命令しなさいよ!」
やけくそだな。
「なんでも、ね...」
「な、なによ...なんの命令をする気なのよ...」
「じゃあ命令だ。君たち、一週間後の僕の旅についてきてもらう!」
「はあ?!なにそのえっちぃ...は?」
おいおいフェリスよ。俺を普段どんな奴だと思っているんだ。
「は?じゃねぇよ。言葉通りだよ。君たちは僕たちの旅についてきてもらう」
「旅って...なんの為の?」
「決めてないなぁ...まあ、新しい魔法とかかな?ここだけだと見つからない新しい発見もありそうだし。それに...」
僕はフェリスに耳打ちした。その内容を聞いて、
「よし。行かせてもらうわ。一週間後ね。まってなさい!」
ふふふ、なんとも釣りやすい奴だ。線路を敷くだけで思った方向に動いてくれる。単純でよかった。
「さて、君たちも異論はないな?」
「え、えと...」
ちょっと彼らは自分の考えをうまく言えない人たちだったので、僕が優しく促したら頷いてくれた。やはり平和が一番だ。
「そう言えば、君の名前を聞いてないね。名前は?」
模擬戦を覗き見していた彼女は別クラスなので名前は知らない。
「あ...アリス・ゴーモネです...」
「が、学園一の天才じゃないですか...」
オルン君の素直な反応にアリスが照れる。オルン君、もしや君女たらしじゃないのだろうか?
「おほん。とりあえず、一週間後にはここを旅立つ。校長にはうまく言っておくから、冒険者登録とやっておきたいことを済ませてから、西門に集合しろよ!」
「分かったわ!」
「「わかった...」」
追加組の中でフェリスだけが目をキラキラさせていた。よっぽど僕の話が美味い話だったのだろう。まあ結果的にもよかったのでOKだ。
さて、校長に平和的相談をして無事に僕たち5人を飛び級で卒業させることができた。
「うぉぉおおぉぉレンジスよぉぉぉ飛び級で卒業なんてすごいぞぉぉぉ」
「ええ、そうね。おめでとうレンジスちゃん」
こういう時は親バカで本当に助かります。
他の飛び級卒業者達も無事家族に祝福されたようだ。よかった。
しかし、僕はこの時視線に気づかなかったのが失敗だった。
卒業式の後、旅に連れて行く組を連れて、冒険者ギルドにきた。目的は二つ。一つはフィリス達の登録、二つは謝罪である。リーフェが聖霊を召喚した騒動ですっかり忘れていた。早速職員に掛け合ってもらい、ギルド長室に連れて行かれた。扉が開いた瞬間、
「僕のせいでギルドにも被害を出してしまい、申し訳ありませんでした!」
決まった、スライディング土下座。こちらに非がある場合に重要なのは、誠心誠意謝ることに限るのだ。だからこそのスライディング土下座。流石に予想していなかったのか、ギルド長も口をあんぐり開けている。結果、僕の作戦は大成功で、ちょっとばかり依頼を分けてもらった。
その依頼を旅に連れて行く組を連れていき、見事に依頼達成、その後にパーティー名を考えた。
考えに考え抜かれた結果、パーティー名は、
『再び彼の地で蘇る』
となった。
「最初からE級依頼とかふざけてるでしょあんたぁ!」
「あ、危なかった...」
「だだだ大丈夫?アリスさん...」
オルン君の特殊能力女たらし発動!アリスはオルン君に照れた!
「だ、だだだっ大丈夫だよ、オルン君。心配してくれてありがとう...」
おいおいここで甘い雰囲気を出すなよ。よく思わない(?)輩がここに三名いるだろうが。
僕は空気が読めないからね!わざと空気をぶち壊して授業を始める。
「さて、甘々な雰囲気になったところで授業を始めたいと思います!」
「「「???」」」
3人ともはてなマーク。リーフェは一回やったことあるから問題ないな。でもここはあえて。
「君たち、魔法を使ったことはあるかい?」
とドヤ顔
「使ったことあるわよ馬鹿にしてんじゃないわよ!」
と怒鳴るフェリスと
「「使ったことあります」」
と素直に答えるアリスとオルン。
よしよし予想通りの反応だ。
「じゃ、魔力を感じることはできるな?」
「「「うん」」」
「その魔力を塊にして、体の中を循環させるんだ。血液の流れみたいに、手足の先まで流してね。それを十周できたら今日の授業はおしまいだ。仕上げに木を身体強化を使って手刀で倒せたら帰ってもいいよ」
今日の目標を提示した時、フェリスだけが子供のような目で僕を見てくる。
「身体強化魔法が使えるの?!教えて!」
おっと口を滑らせてしまったなー。まあいいか。
「わかったわかった。まずはな...」
こうして僕の授業は続いていった。
今日は王女様とお茶会である。いざござがあった為しばらく会えなかったが、お互い予定が合いそれならば、となった。
「このお茶は美味しいですね。リュージアさんの茶葉を使用していらっしゃるの?」
「さすが王女様、ご慧眼恐れ入ります」
そうして日常話は続いて行く。うーん、ここいらで言うか。
「一番最初に王女様に申し上げるべきだと思っていましたが遅れました。実は私、4日後にはこの国を離れて旅に出る予定なのです」
「あら、そうなのでしたか?ならなぜ私を連れていってくださらないの?」
「ユウ様はこの国の王女様ではありませんか。そんなに易々と国の王女様を連れて回るわけにはまいりません」
「...複数人でまいられるのですか?そうでしたらそのメンバーに女子はいらっしゃいますの?」
「はい、いらっしゃいますよ。それがどうされましたか?」
「...私以外の女子を相手なさるなんて、私には飽きてしまったのですか?」
「い、いえ!そう言うわけでは...」
「どうせ私なんてゴミ以下の存在なんですわ!」
やめて!ここで病むのだけはやめて!
「いっそのことそれならば...」
その言葉を皮切りに僕は悪寒を感じる。それも今までにないレベルに。
妙なエフェクトと共に影が現れた。
影が王女様に話しかける。
「レンジスを自分のものにしたいか?」
「はい」
「ならば力を授ける。邪魔者を皆殺しにすればいいのだ。そうすれば彼の者も自分のものになる」
「そうですの...それがありましたわ」
やばい。本能的に察知した僕は影を攻撃する。しかし一歩遅かった。
「ふふふ...レンジス様...私の全てをあなたに捧げます...だから私だけを見てくださいまし...」
どうしよう。王女様が闇堕ちしかけている。言葉が見つからないなか、彼女が”あちら側”に陥る決定的な瞬間がやってきてしまった。
「ど、どうされました...か....?」
「!くるな!リーフェ今すぐ逃げろ!」
今の言葉は失言だった。この言葉がなければ王女様を説得できたかもしれない。しかし過去は変えられないのだ。時魔法を使っても所詮は過去を見ることしかできない。
「レンジス様...あなたも拒否するなら...こんな世界なんて、滅びればいい!!」
こうして事態は急速に悪化の一途を辿っていった。