一週間前
未明、レンジスの寝室にてーー
「ふふ、レンジス様の寝顔も可愛いですわ...」
1人の女性がそう呟く。
「レンジス様に近寄る羽虫どもは、私が殺して差し上げます...」
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とりあえずリーフェの件は落ち着いた。
これからリーフェには戦闘の基礎などを叩き込んで僕と共に冒険してくれる旅の相手になってもらうつもりだ。だが、それをやりたいのも山々なんだが、大きな障害が2つあるんだよ。それらをゆっくり片付けていこうと思う。それよりも、まずは環境破壊の件だ。現場へ行こうとしたところ、
「私も連れていってください!」
とリーフェ。駄々こねる時も天使かよ...っと、リーフェに見惚れていた。しかしどうしたものか。連れていこうか連れて行かないか。しかし、よくよく考えると、この先連れて行くときに魔法を見せつけるのでは...と思った僕は連れて行くことにした。さて、一仕事しますか。
大規模な魔物集団発生地。綺麗に整備された地面の上にぽつんとある馬車を中心として、周りの草木が薙ぎ倒されている。これを作った原因が僕である。しかし、リーフェには微かに覚えがあるようだ。さすが僕の魔法を抵抗しただけのことはある。さて、”元通り”にしますか。
「魔法構築...」
本来僕なら詠唱なしでも魔法を行使できるが、ここはリーフェの見本となるため詠唱をしよう。
「.........」
リーフェは静かに僕を見守っている。詠唱はしているが、本来これは言葉にはできない。自然と体から出てきており、それで魔力が反応し魔法を構築できると言った感じなのだ。
「万物回帰...」
僕がそう唱えると、辺りが光に包まれる。リーフェも眩しすぎたようだ。
そして光が弱まり、完全になくなる。あれれ、ちょっと戻しすぎたかな。
「う、嘘...」
リーフェは驚愕している。そらそうだ。目を閉じる前は更地だったのに、瞬きしたら元のような森に戻っているのだ。無理もない。
「ど、どのようなまほうなのでしょうか...」
リーフェは目をキラキラ輝かせている。もしかしたら彼女は新しい魔法理論を作り出してしまうのかもしれない。そんな予想が当たるとは今の僕は思いもしていない。さて、それでは臨時授業を始めようか。
「リーフェ、今あることをしたんだけど何かわかる?」
「は、はい、詠唱ですよね...?でも何故...?」
「リーフェ、普通は魔法は詠唱を使うんだ。僕が使わないだけで周りは全員使うんだ。人前で魔法を使う時は、必ず詠唱をするんだよ。わかった?」
「はい、わかりました」
こうして臨時授業は続いていった。
「で?なんでこんなに遅かったのかしら?」
非常にまずい。こっそり屋敷に帰ろうとしたら屋敷の門の前で母と鉢合わせてしまった。普通ならこの時間帯は母は外なのに!リーフェはおどおどしながら事情を説明しようとしたが、
「ああ、いいのよリーフェちゃん。どうせこの馬鹿息子が連れていったんでしょう?」
「えっと、その...」
「リーフェちゃん。あなたはとりあえず部屋でゆっくり休みなさいな。ここはもう、あなたの家なのだから」
「わ、かりました...」
リーフェは部屋に向かった。さて、どう切り抜けようか。
「とりあえず、言い訳を聞こうかしら」
「そ、その...リーフェと一緒に先日の森に行って、森を再生させてました...」
「嘘おっしゃい!」
「い”でぇ”ぇ”ぇ”ぇ”ぇ”ぇ”ぇ”!!」
母の教育が始まった。まず脳天をかち割るのが僕の母、レアール=アルバン式教育の普通なのだ。
「いてぇよぉぉぉ!」
「あら、まだ反省し足りないの?じゃあ次はこめかみかしら?それとも女になってみたい?」
「やめてくれぇぇ......!」
僕の悲鳴は日が暮れるまで続いた。
「森の件は片付けた。それでいいわね?」
「ハイ」
もう片言しか喋れねぇよこん畜生。なんで僕の母はこんなにドSなんだ...
「じゃあ次はギルドに謝罪しにいってね♡」
「ハイ、ワカリマシタ」
リーズの冒険者ギルド。
エールヘッジ王国の中では大きな方で、Sランク冒険者が十名滞在中。A、Bランク冒険者も大勢いる、かなり大きいギルドである。ちょうどいいや、ついでに冒険者として登録しておこう。リーフェも連れて。
「光彩反射...世界停止...」
念には念を入れて、七十段階の光彩反射、世界停止を発動させた。これでもリーフェは僕の魔法の影響を受けない。素晴らしいものである。ちなみに光彩反射の他人の発動条件は自分に触れているかどうかである。つまり僕とリーフェは手をつないで歩いている。因みにリーフェの要望で恋人繋ぎ。これを王女様にみられたら国から脱走するしかなさそうだ。そんなこんなで見えてきました、冒険者ギルドリーズ支部。中に入ると、ごろつきや若者集団、仲良し組がいっぱいいる。嫌な予感がしながらも、僕は受付へと進んだ。
「すみません、今、大丈夫でしょうか?」
「あ、はい、冒険者申請ですか?」
「はい。この子と2人で暫定パーティーとさせてください」
「...!大丈夫ですか?!本当によろしいのでしょうか?」
「はい。大丈夫です」
「わかりました。では測定を行いますので、こちらの水晶に触れてください」
そして出される水晶。魔力を測る水晶である。まずは僕が触れる。
「...!?あなた、ほとんど魔力がありませんよ?!」
やはり。僕も昔こっそりと測ったのだが、僕には自分で保有している魔力がほとんどないのだ。しかしそんな受付の言葉を無視してリーフェに水晶に触れるよう促す。
リーフェが触れると、眩い光を出した。全員目を閉じて、次に再び開けた時、水晶は粉々になり、その代わり(?)に聖霊らしきものが。いや、聖霊だ。しかも、4大聖霊のうちの1柱。名を風を司る聖霊。全員が驚愕の表情を浮かべる中、シルフィードはひざまつくと、
「ご命令を。ご主人様」
この言葉でリーズ支部は全員がさらに驚愕した。
なんの偶然だろうか、私は胸騒ぎがする。前の主人を失ってから数千年、私は新しい主人をひたすら探してきた。しかし私に見合う主人はなかなか見つからなかった。これもまた一つの運命なのだろうか。そう思っていると、何か私を引き寄せる力が微かに感じられた。これだ!私の主人はこの人しかいない!私はとある人間の街の建物の中にいる主人を求めて、その元に馳せ参じた。
聖霊を使い魔にした。しかもただの聖霊ではなく、4大聖霊の1柱であるシルフィード。全員がリーフェへと視線を集める。この後一体なんの命令をするのだろうか。それが気になって仕方がないのだ。しかし、開いた口から出てきた言葉は、シルフィードも、この場にいたものもひっくり返るような言葉だったのだ。
「あの、命令って何を命令すれば...」
「...」
実際にひっくり返った者もいた。命令を理解していない。それならどうやって4大聖霊を呼び出したのか。意味がわからなかった。しかし、隣の男が耳打ちをしたことで、命令の意味を理解できたのか、口を開いた。
「では、私と友達になってください!」
開いた口が塞がらないとはこのことだろう。友達になれ?!4大精霊と?!情報の洪水で脳がオーバーヒートした者が倒れて行く音が聞こえる。シルフィードもその命令を予測していなかったのか、しばらく固まっていた。ようやく情報の処理ができたのか、口を開く。
「その...本当にそれでよろしいのでしょうか?」
「はい。あ、こちらは私のレンジスです。この人とも仲良くしてくださいね!」
「「「「「「「?!?!」」」」」」
リーフェの言葉で場の空気が固まった。そして当の本人はと言うと...ひどく赤面しており、まるで地面に埋めてくれとでも言わんばかりの視線をレンジスにむけていた。当然僕もそんな視線を向けられると居た堪れない。だが僕もそこまで恥ずかしがるわけにも行かない。リーフェの頭を撫でて見せた。こうして『リーフェに近づく無能どもは俺が相手するからな』オーラを醸し出したら任務完了である。
「はぅぅ...」
リーフェは恥ずかしすぎて今にも湯気が一気に出てきそうだ。しかし我慢だリーフェよ。これは必要なことなのだ。しかし、聖霊を...そうだ!もしかしたら俺も聖霊を呼び出せるんじゃないか?
そう思い立って行動したのは夜である。リーフェとその配下のシルフィードも連れてきた。場所はいつもの森である。さて、始めますか!
「聖霊召喚...」
この魔法構築は初めてだ。しかし前もって聖霊召喚については学習しているため、この程度どうて言うことでもない。そう、どうてことはないのだ。ふふふ、僕はどんな聖霊を呼び出すのだろうか、そんなことを考えていたら、突如構築が乱れた。本来なら構築が乱れることは自然ではない。つまりこれは誰かに魔法の構築に介入されたのだ。しかも最悪なのが、直す前に完成してしまったこと。畜生、一体どんな奴が出てくるんだ...?
光がやんで、ようやく見えるようになった。すると魔法陣があったであろう場所に二匹の聖霊がいる。は?聖霊召喚は普通召喚する聖霊の数は一匹じゃないのか?そう不思議に思っていたが、物は試しだ。命令して自己紹介させればいいだけのこと。
「命令だ。お前ら、自己紹介をしろ」
「了解」
「わーたよ」
どっちも忠誠心低いこと。まあそんなことどうでもいいけど。
「私は聖霊王アルファ。そこのシルフィードを産んだ聖霊の神ね。これからはあなたの力になるから。まあ気ままに呼んでも構わないわよ」
...?嘘だろ?この自堕落の塊みたいな者が聖霊王なのか?
そしてその考えはもう一匹の自己紹介で吹き飛ぶことになる
「うちは魔王イリス。何千年か前に勇者に倒されたけどあんたの召喚に応じてやったってわけ。強い魔物がいたら私を呼びなさいよ?配下にしてあげるわ!」
なんで魔王?それに魔物の配下なんざいらねぇよって言ったら駄々こねた。もう召喚しないぞってさらに説得したら素直に頷いてくれた。やはり平和的解決が一番だね!
しかし、魔王と聖霊王って、どんな組み合わせなんだろうか...
魔王と聖霊王、シルフィードがきてから数日が経った。今回は実験をする。場所は王国の1番の危険地帯、龍の棲家、グロアスタ大火山近辺。ここで魔王と聖霊王を龍とタイマンさせる。2人の強さを把握するためだ。決して素材のためではない。
さて、まずはアルファからだ。
「アルファ、相手はあの黒赤炎熱龍だ!」
「承知しました、我が主よ」
初手は水の最上位段階魔法。まあ妥当だな。その結果は...あれ?ワンパン?それは聞いてないぞ龍よ。もう少し粘ってくれよ。じゃないと強さが測れないじゃないか。まあいい。次はイリスだ。
「イリス、君の相手はあれだよ」
「ほう?少しはもってくれそうじゃの」
イリスの相手は黒赤炎熱龍の上位存在である、黒赤炎熱神龍である。強さは天地ほどの差。さて、彼女も水の最上位段階魔法をぶっ放した。結果は...まあ予想通りだった。しかし困った。これでは2人とも同じ強さだと言うことになってしまう。どうしたものか。うーん...
そうだ!僕と戦わせてみるか!
戦闘後。僕は屋敷のベッドの上で寝転がっていた。疲れた。超疲れた。久しぶりに本気出したよ僕。あれはつええわ。全力の僕には遠く及ばないけど。それでも十分に強い。これなら、すぐに動き出してもいいかもな。
「リーフェ!旅の支度をしよう!」
「ふぇ?!い、一体どこへ行くんですか...?」
当てのない旅さ。とりあえず世界をぐるっと回ってみようと思う。そんなことをリーフェに言うと素直に了承してくれた。かわいい...
「出発は一週間後だ。それまでに別れを言いたい者がいたら済ませておいてね!」
「りょ、了解しました...!」
さて、それでは心残りを片付けて行くとしよう。