その実力衰えてはいまいな
「さて...僕が言ったことを覚えているかい?カイアス君?」
「...」
「おいおい返事しないと〜僕は寛容だから問題ないけどハルナの方はどうだろうかなぁ〜??」
「......」
カイアスが尋常じゃないほど怯えている。
そりゃそうだ。
僕がカイアスに向けて殺意MAX状態だからだ。
「僕の大事な存在に手を出そうとしたんだからねぇ...」
僕はカイアスの耳元で呟く。
「僕は大事な存在に手を出した奴には優しくはしないんだ...」
「ヒェ」
「次手を出したら...わかるね?」
「...」
あまりの恐怖に泡を吹いて気絶したようだ。
まあ、ちゃんとその身に刻んでいたようだからよしとしよう。
さて、今日こそあんの忌々しい長耳とちびどもが蔓延っている街へ入ろうか...
しばらくして。
僕らはまだ街に留まっていた。
女性組が買い物をしたいと言い出したことには驚いた。
今日こそ!と意気込んでいたのに、その覚悟が台無しになってしまった。
なんせ僕に着いてくる女性陣の買い物は短くても半日ほどかかる。
なぜかは察してもらいたい。
とりあえず、僕らは貴重な1日をロスした。
なので、明日は早めに宿を出る予定である。
全ては女性陣の買い物が長いせい。
そう、長いせいなのだ。
まあ、そのかわり、昔共に剣の修行に励みあっていたハルナと模擬戦をすることになっている。
出会わなかった間にどれだけ強くなっっているのか楽しみだ。
「魔法使わないでよね?」
「わかってる。もちろん剣術だけで勝つさ」
「今日こそはレンジスに勝ってやるよー!」
「負けるつもりはないぞ?前のように完膚なきまでに潰してやるよ」
言い合いで殺気をぶつけ合う2人。側から見たら殺し合いに見えるだろうが、模擬戦である。もちろん、真剣である。
「じゃあ、ルナ。ジャッジを頼む」
「了解しましたーご主人様♪」
『それではこれより模擬戦を行う』
2人の間に静寂が訪れる。
ジャッジが『始め!』とは言ったが、2人は全く動かない。
隙をうかがっているのだろうが、全く隙がない。
先に動いたのはーーーー
ハルナが一瞬で間合いを詰めた。
だがすかさずレンジスはそれを弾いてすぐに反撃を行う。
だがそれもハルナは弾く。
そしてしばらくは見えない剣戟が行われた。
それが終わると。
今度はレンジスが攻めにでた。
ハルナに猛攻を仕掛ける。
しかしハルナもそれを捌いていく。
そしてそれは続いていく。
しばらくは誰にも2人は見えなかった。
レンジスの仲間でも2人の早さには誰にも追いつけなかった。
そしてしばらく経った後。
2人がジャッジの目の前で止まった。
鍔迫り合いをしながらだが。
そして離れる。
「やっぱりレンジスは強いねー!」
「魔術の特訓ばかりしていたわけじゃないからな」
「やっぱりそうだ!それでこそ...私の強敵だよ!」
ハルナの覇気が強くなる。
『解放・獄炎蝶』
ハルナが解放を行った。
解放とは、剣の潜在意識を解放することである。
己の境地に至り、扱う剣と一心になった時、初めて使える。
解放することにより、魔術をも凌ぐ魔法を扱うことができる。
剣聖と呼ばれるもの、またはその実力に近しいものはこれを扱うことができることが多い。
稀に、赤ん坊の時に覚醒し、剣と語り合うものもいる。
珍しいものでは、剣が人となり、所有者と愛を誓ったという逸話もある。
もちろん、昔話なので真実なのかはわからないがーーー
ハルナが解放を行った。
つまり、これからは本気だということだ。
「さあ...こい!」
「いくよ、レンジス!」
2人が消えた。
また目にも留まらぬ速さで動き続けている。
前と違うところは、剣戟に爆発音と炎の跡が残っているところか。
しかし、それは一瞬で視界に埋め尽くされる。
「...やべぇな」
「ね、ねぇ...オルン、私、今までこんな怪物に挑んでいたの...?」
「ははは...フェリス、君はすごいや...」
「さ、さすがね!この私を守るものなんだからこれくらい当たり前よ!」
「サクラ、彼らは僕らの護衛でもないし、サクラ自身が震えてるよ...」
各々が口々に感想を述べる。だがしかし、それ以上に...
「ね、ねぇ...カイ、レンジスさん、解放してないよね...?」
「してないよ...」
ふつう、剣の解放をするとしないとでは、天と地ほどの差が出る。
上級者の戦いとなると、解放による有利不利、または技術によって勝敗が分かれる。
ハルナは開放しているのに対し、レンジスは解放をしていない。
つまり、ハルナの圧倒的有利なのだ。
だが、レンジ酢は全てとは言わないがほとんどを捌き切っている。
これが意味することとはーー
「すごいですね...世の中探してもこんな人はほとんどいませんよ...」
「さすが私のご主人様です!」
「妾はあのような奴に喧嘩を売っておったのか...」
「...」
「誰かアリスを介抱してあげて...」
「わかりました〜」
「ど、どういうことよレイア」
「つまり、解放せずとも剣聖の本気と渡り合えるということだよ...」
「「!!??」」
簡単に言えばレイアの通りになる。
その上、解放も残しているのだから、解放を行うと、剣聖を圧倒することになる。
そんな化け物を相手にハルナは斬り合っているのだ。
「やばっ...」
「どうやったらそんな強さに至れるんだろう...」
一般人が見たら恐れ慄くだろう。
だがしかし。
レンジスの愉快な仲間たちはなんとかその強さを自分のものにしたいと思えているようだ。
これは思わぬ成長だな。
「さて...そろそろ終わりにするか」
「そうね。いい加減私の勝ち星を譲ってくれる?」
「そういうわけにはいかないね」
2人が距離を取り、大業の準備に入ると思われる。
そして、準備が整ったのか、2人が再び剣を交えようと前進する。
その前進は、蹴った地面を空中に蹴り上げるほど強烈だった。
一閃。
眩い光に視界を包まれた。
しかし視界が元に戻ると。
2人はお互い同じ箇所に傷をつけ終えていた。
「ふう...ここまでかな」
「やっぱり強いじゃん。それよりも、勝負は?勝負はどっち?」
「僕に決まってるだろ」
「いーや私よ!」
「何をいうか」
「そっちこそ」
「「ああ?」」
互いにメンチを切っている。
一触即発状態を収めてくれたのはジャッジことルナだった。
「はいはい。今回は引き分けですよ」
「りょうかーい!」
ハルナはあっさりと手を引いた。
「し、師匠...あんなにあっさり手を引くものなんですか?」
「ん?ああ、あいつはこういうことに関しては素直なもんさ。それよりもどうだ?認めてあげたか?」
「悔しいですが...今の俺たちじゃ、あの人の足元にすら及ばないです」
「うんうん。冷静に戦力を分析できるようになったことはいいことだ」
「というわけで、これから旅にお供させていく僕の幼馴染のハルナでーす。腕っぷしだけは確かだから、練習相手にはなってあげろよ?じゃないと一晩ごとにそこら辺の山一つ消えていくからな」
「はーい!今ご紹介いただいた通り、私こそがレンジスの幼馴染、永遠のライバル!皆んなのアイドル、ハルナちゃんだよー!はい拍手ー!」
「「...」」
「およよ?どうしたのかね諸君?」
「バカお前のテンションについていけてないだけだ」
「とりあえずーよろしくね皆んなっ☆」
「とりあえず、誘導には成功したわ」
「ああ、そうか」
「それなら安心だな」
「あいつがくると碌なことにならんからの...」
「ええ...」
「そうじゃの...こればかりは天に祈るしかないからの...」
「絶対にこの街に来るんじゃないぞレンジス...」




