目が覚めた。そして彼女ができた
少年の周りには人がたくさん集まっていた。
緊迫した雰囲気の中、ベッドで静かに眠っている少年を見守っている。
その屋敷の外では住民達が門の前で何やら何かを待っているように集まっていた。
そしてある少女が門の前で涙を流しながらつぶやいた。
「約束を果たさないで死ぬだなんて、絶対に許さないんだからね」
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意識が戻った。
目が覚めてまず見えたのは天井と、その視界の隅に見える多くの人である。
ここはどこだ?と思ったが、蒼にはそんなことを考えれるほどの思考力はなかった。
気がつけば、周りの人たちが大はしゃぎしていた。神の御技だ、奇跡が起きたと。蒼には何が何だかさっぱりわからず、周りのテンションについていけなかった。
しばらくすると、父親と母親らしき人が、少年少女あわせて5人連れてきて、父親らしき人が開口一口、
「よく生きて戻ってきてくれた!!」
とものすごい大声と共に抱きついてきた。蒼は突然の出来事に混乱したが、すぐに戻ってこれた。なぜなら肋骨がバキバキといかにも折れているような音を立てているからである。否、実際に折れていた。
「痛い!痛いって!」
そう言っても父親は聴きとることはなく、むしろ大泣きして力も強くなってきている。あれ、また死ぬのかな?とも思ってしまった。しかし、救いの手はすでに差し伸べられていた。
「あなた、レンジスが苦しがっているでしょ?」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉレンジスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ無「あなた?またあの人に『指導』されたいの?」事で.....わかりました離れますのでそれだけは勘弁してください」
「それでよろしい。レンジス、大丈夫?」
母親らしき人が、父親らしき人を平和的に説得してくれたおかげで肋骨が全部折れずに済んだ。しかし、蒼、いやレンジスにはもっと根本的な疑問があった。
「あなた達は誰ですか?」
その疑問を目の前の大人にぶつけた瞬間、疑問をぶつけられた大人達、周りの使用人と思われる人たちの表情が悲壮感溢れんばかりになった。少年少女達も長女や長男と思われる子らはすでに涙を流し、一番下の子の「どうしたの?」と言う言葉すらも聞こえてないようだ。
「......自分のこと、名前、それは覚えているのか」
父親らしき人は先ほどの親バカっぷりとは打って変わり、静かにレンジス、俺に尋ねた。
「........名前以外は、何も.....」
「そうか」
父親は静かに頷き、考え込むと、俺に自己紹介をした。
「私はライザード・アルバンだ。君の父親だよ。そしてこちらの麗しい女性が...」
「レイン・アルバンよ。あなたの母親。わからないことだらけかもしれないけれと、不安には思わないでね」
そう自己紹介をしたライザードは、いったい自分に何があったのかを説明してくれた。
自分はレンジス・アルバン。ヘールエッジ王国のアルバン現子爵家長男として生まれ、わずか一歳にして魔法の才能を発現、さらにはその一ヶ月後には初級魔法の一つを使えるようになり、神童と呼ばれるようになったと言う。侯爵家や王家からレンジスとの婚姻話を持ってこられていたが、全て断っていると言う。そして順調に育っていったレンジスが十歳になった数日前、急に目覚めなくなり、尽くせるかぎりを尽くして自分を救おうとしてくれたことや、全てやりきっても何も反応がないと言うことで諦めきっていたその時に、奇跡的に意識を取り戻したと言うこと。そんな自分の過去を事細かく説明してくれた後、母は静かに俺を抱きしめた。
「ありがとう。レンジス。生きてくれてありがとう」
と、先ほど父に言われたことと同じことを言って抱きしめてくれたが、さっきとは違い暖かく、そして温もりのある抱擁をしてくれた。
「.....うん」
母親と熱い抱擁を続けていると少年少女達........弟妹達がそれぞれの反応をしながら俺に抱きついてきた。俺は、その弟妹達や使用人達、そして両親に囲まれながら、また静かに眠った。
次に目が覚めたのは、翌朝だった。
そこからしばらく、一週間はベッドで安静に過ごしていた。
ご飯は使用人さん達が食べさせてくれた。しかし、ここのご飯はとても美味しかった。動けるようになったら厨房も覗いてみたいなとも思ってしまうほどだった。何より、ご飯を持ってきて自分に食べさせてくれる使用人さん達と話すことが、ベッドから動けないレンジスにとっては、心が安らぐ唯一の時間となっていた。
たまに豪商と思われる人や、両親と懇意にしている貴族や王家の使いが自分の見舞いに来て、その度に俺はその人達と簡易的な面会をしていた。
しかし、それよりも気になっている人がいる。
その人はベッドから窓を通して家の門を見ている時に一番前におり、涙を流しながら家を眺めていた。その人を見ていると、なにやら俺の底からえもいわれぬ思いが込み上げてきた。もしかしたら自分は、あの子が好きだったのか、あるいはもうすでに付き合っていたのか、などと俺は記憶がなくなる前の自分に対して、いろいろな想像をしていた。
一週間が経ち、ようやく俺はベッドから出ることを許された。しかしすぐに自由になると言うわけでもなく、まず父に連れて行かれた。医者の元へ連れて行かれるのかと思っていたら、ついた先は玄関だった。そして玄関を勢いよく開けると、驚いている住民達に父は大きく、低い声で言った。
「我が民達よ。安心するが良い。アルバン子爵家が長男レンジス・アルバンは快復した!翌日には聖霊祭だ。我が民達よ、翌日の祭に備え準備するのだ!」
そう、大きく宣言すると、住民達は大いに盛り上がり、
「ご快復おめでとうございますレンジス様!」
「やはり神の御技だ!」
「神童様が奇跡を起こした!」
などそれらに関連する言葉を俺に投げかけていた。しかし俺はそんな大人達よりも、ずっと門の前で涙を流しながら家を眺め続けていた少女が気になっていたので、探そうと思い門を出た。後ろから父が何か言っているようだったが、そばで住民達が大騒ぎしていたので何を言っているのかわからなかった。
その日はアルバン家の領都であるリーズの酒場や飲食店はどこも大繁盛しており、路上にある屋台も大盛況だった。ある酒場では一晩で酒が尽きたり、またある酒場ではある冒険者がその酒場にいる全員に酒を振る舞い、自分も酒の飲み比べで100人抜きし『ファノアの100人抜き』という逸話を残したなどリーズはそれまでにはないほど住民達が賑わっていた。そんな中でレンジスは例の少女を探し街中を歩いていた。しかしどれほど探しても見つからず、気がつけば日が暮れていた。また日を改めようと思い帰ろうとした。いや、しようとした。小悪党どもが、少女をナンパしていた。
「おいおいそこのちびちゃんよぉ〜なんでこんなところにいるのかなぁ〜?」
「こんな暗いところで何してるのかな?おじちゃんたちが君の家まで案内してあげるよ」
そう2人が近づく中、他の連中は
「おい、あいつなかなか上玉じゃねぇか」
「奴隷に売っちまったら大量に稼げるんじゃないか?」
「その前に楽しんでもいいだろ?」
などと下心をもろ出しにして呟いていた。もちろん背後にいるレンジスには気づいていないが。
ただ、レンジスは(この世界にもこんなテンプレな展開があるんだな)と、妙に違うところで感心していた。
しかし先ほど聞こえていた下種が吐くセリフには流石のレンジスも放置するわけには行かず、真っ直ぐ少女の元へ歩いて、
「どこにいたの?母さんが心配してるよ?早く帰ろうよ」
と言った。少女は少し困惑したが、少女が言葉を言う前に小悪党が反発した。
「おお、おちびちゃん?救世主っぽく出てくるとはこれはすこいでちゅね〜!」
「ギャハハハ言ってやるなよ可哀想だろ!」
「そうだそうだ!ガキが小便ちびっちゃうかもしれないだろ?」
「ピーピー泣く前にここを離れるのが身のためだぜ?」
と好き放題喚く小悪党を無視し、
「さ、帰ろ?」
と少女に促した。
小悪党も自分達を無視したガキにブチギレ、
「死ね!」
と襲い掛かった。
レンジスはまたもやテンプレの展開だ!とキラキラした目で見つつ、小悪党どもを一掃した。残った者も悲鳴を上げながら逃げていった。幸運なのは、喧嘩を売ったただのガキが、自分達が住んでいる領地の領主の長男であると言うことに気づかなかったと言うことだけだろう。だがもう過去のことである。
「大丈夫かい?こわ「会いたかった!!」ぶへっ」
少女はレンジスの顔を見てすぐに抱きついた。彼が心配をしているとも気が付かずに。
「会いたかった!会いたかったんだからぁ...」
「え?」
少女が会いたい会いたいと泣きながら俺の胸板に顔を埋めてくるが、レンジスもある程度予想がついていたようだ。しかし、それを確かめるのは今ではないとも理解していた。
「とりあえず、場所を移動しようか」
「....ん」
レンジスと少女は手を繋いで歩いた。いや、詳しく言うと少女の方から手を繋いだ。いきたい場所があると言うのだ。レンジスは素直に了承し、連れて行かれた先は、領都リーズの街中にある小高い丘だった。丘の上には一本のとても大きな木があり、大人100人が手を繋いで木の幹を囲おうとしても足りるか足りないかと思うくらいには幹も太く、大木も雲を突き抜けるほど高かった。と言うか、実際突き抜けていた。
「ここは、私のお気に入りなんですわ」
少女は言う。
「嫌なことがあった時、悲しいことがあった時は必ずここにくる。すると、気分もなんか軽くなるんだ」
「そうなんだ」
「そう。嬉しい時はたまにここにきて、聖霊達と話すの」
今さらっととんでもないことを暴露したが、これがとんでもないことだと知るには2人の歳ではまだ早すぎた。
「あ、挨拶がまだだったわね。私はユウ。あなたは?」
「僕はレンジスだよ」
「レンジスさんね。これからもよろしくですわ」
「こちらこそ。よろしくね」
2人が自己紹介してから、2人はまるで幼馴染のように親しく話を続けた。
その日の夜、静かになったリーズの街には少年少女の笑い声や怒鳴り声などが響いた話は後世ではよく聞かされる話になった。
いつの間にか寝落ちしていたのだろうか、気づいたら夜明けになっていた。そして足のほうに何やら重いものがあると感じて下に視線を落としたのが間違いだった。そこにはまるで天使のような寝顔で寝ているユウがいた。レンジスもこの笑顔を前に心を撃ち抜かれた。しかし紳士たる者として、理性だけはなんとか守り抜けたようだ。そして自分の理性をフル稼働させた後に残った感情には、ユウに対する愛情が芽生えていた。それも何千倍速で。そんなこんなで己と戦い抜いた後、タイミングを合わせたかのように彼女は起きた。
「んぅ....あ、レンジス...おはよ...」
「おはようユウ。突然なんだけど、僕と付き合ってくれない?」
瞬間、2人のいる空間は時が止まった。そして時を動かしたのは彼女だった
「.....聞き間違いかしら?もう一度言ってくださる?」
「何度でも言おう。好きだ。付き合ってくれ」
ユウは自分の耳を疑った。
昨日会ったばかりの男と付き合う?
なぜ?
などとよくわからず頭の中が混乱し、彼女の脳内処理能力は限界に達していた。
そしてとうとう恥ずかしさが正面に出てきて、湯煙が出るかと思うほど彼女は赤面した。
「...なんでですの?私たち、昨日お会いしたばかりですわよね?」
「僕もそう思ってた。だけど、なんでか、君じゃないといけないと、そう感じたんだ。この機を逃したら、もしかしたら二度と会えないかもしれないからね。だからかな」
2人の間はしばらく沈黙が続いた。そしてまたもやユウが沈黙を破った
「...私も好きですわ」
「...え?」
「...好きですわ。付き合ってください」
「...喜んで」
こうして、僕は人生で、いやこの世界で初めての彼女ができたのだった。
家に帰る前に、ユウと町の商店街で買い物をした。そして、何やらユウが目を輝かせて見ている店があったので、
「入る?」
と声をかけてみた。
「いいのですか?ありがとうですわ!」
とユウが喜色満面の笑みを浮かべると、僕の襟元を掴んで引きずりながら店内に入った。
そして、彼女の買い物は昼まで続いた。
もう、気軽に女の子と一緒に買い物に行かないと僕は心に誓った。
恋人繋ぎで家へ帰ると、まず怒鳴られた。一晩中どこへ行ったのだと。しかしすぐに隣の美少女に気付き、そして察された。そして、
「大丈夫?痛くない?」
と、開口一口。
「え、ええ?大丈夫です...?」
ユウも何について心配されているのかわからず、疑問を残しながら返していた。
おい。両親よ。何やら変な勘違いをしていないか?
改めて彼女を紹介しようとした時、トラブルは起きた。
「初めまして。ユウ・アレスト・ヘールエッジですわ」
「!!!」
両親や使用人達は彼女の名前を聞いた瞬間、すざましい速度で、まるで風が立たんばかりの勢いで跪いた。
「「「「「「お初にお目にかかります!!アレスト王女様!!」」」」」
どうやら、僕は騒ぎの元を連れてきてしまったらしい。
2話目で彼女ができちゃいました。そしていきなりカミングアウト。
しかし、甘々な雰囲気は少しだけ。ここから2人の恋物語は始まります。
こんな人生が送れればいいのになあ。
追って更新していきます。
これからは週に最低一回、投稿していこうと思います。
ちなみに時間は午後9時です。
学業と並行して行っていくことをあらかじめご了承ください。