新しい加入者と告白
フレオ滞留二日目。
僕達は冒険者ギルドに来ていた。
目的は大きく分けて三つ。
一つはレイア達の冒険者登録。
二つは依頼を受けてランクを少なくともBまであげること。
そして三つ目が最も重要で...
「さてここで問題だ。オルン君や、このパーティーに足りないものはなんだと思う?」
「えっと...指揮する人や作戦を立てる人ですか...?」
「それも重要だが、もっと根本的な問題でね...」
「な、なんですかそれは...」
「それはね...『前衛の火力』と『回復役』だよ...」
フェリスが反論する。
「火力も回復もレンジスがいるから問題ないじゃない」
「それが問題なんだよ。もし僕がいない状態で自分たちよりも実力が上の敵に出会ったらどうする気だい?逃げるかい?戦うのかい?」
「そ、それは...」
「つまりそういうこと。僕がいなくても、パーティーとして成立するようにしないとね。一人だけに頼るパーティーは、いずれ全滅の道を辿ることになるからね」
「わ、わかったわ...」
「というわけで男子諸君!!君たちには剣技を覚えてもらうよ!」
「「??」」
「師範はルナさん!!この人冒険者だけど剣一本でドラゴンと互角の戦いをしたからね!」
「ふふふ、レンジス様、それはもう昔の話です...」
「というわけで、男子のしごき、よろしくね!」
「はい!お任せください、レンジス様!」
この日から男共のヒーヒー喉が干涸びたような声が聞こえ続けたのはいうまでもない。さて、次はパーティーメンバー補充だな。
リーフェを連れて、ギルドにやってきた。ここでもリーフェの美貌に不埒なことを考える輩もいた。あまりにもよろしくない輩は僕がちゃんと説得して帰ってもらっている。リーフェに触れようとする不届きものは絶対に許さん...おっと話がずれてしまった。ウィーアーインフレオのギルド。
「すみません、パーティーメンバーの募集をしたいのですが...」
「ああ、はい。それでしたら、通常募集と武人奴隷の購入と二つございますが、いかがいたしますか?」
「それでは両方で」
「かしこまりました。ではこちらにパーティー名とランク、募集期間と加入条件の方を...」
スラスラと書く。思えば文字も最初は拙い格好だったのだが、今では流れるように書ける。
「確かに承りました。募集期間は一ヶ月ですね。それでは、武人奴隷の商店までご案内いたします」
受付嬢は僕達に「着いてきてください」といって、僕達はその後ろをついていく。数分ほど歩いて、地下に入ると、ようやくついたらしい。
「それでは、良き出会いが在らんことを...」
そうして受付嬢は階段を戻っていく。ここから先は自分で見極めろってことかな。まあ、これで遠慮なく選別できるな。それでは...
『世界停止』
さて、この世界で動けるのはごく少数となる。それでは探しに行こうか...
数時間探してもいない。ほとんどが抵抗できていない。どうしたものか...ハズレだと思って帰ろうと思ったら...なんか泣き声とギシギシ言ってる音が聞こえた!!おいおい、まさか盛っているわけではないよな...とりあえず現場へ行ってみる。世界停止の世界で動ける人間は貴重なのだ。よっぽど観念がない限りは...迎え入れたい。
そして見えたのは...
二つの部屋に男女がいた。
一つの部屋には筋トレをしまくっている男!!
しかしみるからに筋肉はついていない小柄な男だ!!
なんでだよ。筋肉つけよ。
そしてもう一つの部屋には剣を抱きしめて泣きじゃくっている可憐な女の子!!
さらに女の子がいる部屋にはもう一人、杖を持っている女の子もいる。
もしかしてこの三人、僕の欲しい人材じゃないかな!!
世界停止の世界で動ける!!前衛と回復!!よし買おう!!
この間、0.53秒。
「はい、この三人でよろしいですね?」
「大丈夫です」
「わかりました。それでは従属の契約を...」
従属の契約。それは奴隷に刻まれる、主人には絶対に逆らえませんの印。
「お買い上げありがとうございましたーーー」
「さて、三人とも、少し止まっておいてくれよ?」
「「「?」」」
リーフェはこのあと起こる未来が予測できたのだろう、驚きを見せなかった。そう、レンジスは従属の契約を解約したのだ。
「ど、どういうこと...?」
「まあ、従属の契約なんぞあっても面倒だからね。そもそも三人ともポテンシャルは高いのに、それを生かされないってなんか悲しいからね」
「「「...」」」
三人とも開いた口が閉じていない。よっぽど驚きの出来事なのだろう。
「ま、とりあえずこれで三人とも自由ってことだよ」
「目、命令に背くことでくる痛みも、ない、と...?」
「そ。だから言ってるじゃん。三人はもう自由だって」
「ゃ、やったぁ...」
おっと乙女二人の嬉し涙。女性は嬉し涙を流してナンボだ。ここで存分に感情を吐き出してもらおう。そして小柄な男の方も...
「やったぁ...これで....」
こちらはこちらで感極まっていた。
まあなんだかんだ言って大丈夫なのだろう。なぜならパーティーにいる限りは、僕が守るのだから。
しばらくして、女性二人が泣きじゃくって寝てしまった。とりあえず今日は拠点に運んで、ゆっくり休ませてやろうと思う。
***
思うに、最近リーフェへの不埒な視線が多い。まあ彼女のその完璧に整っている容姿のせいであり、彼女自身気づいていないだろうが、僕自身としてはそんな視線を向けられると腹が立つのだ。やはり、リーフェに男が近寄らないようにするためにも、彼氏が必要になるかもしれない。万が一、彼女の身に何かあったらと思うと僕は身が張り裂けそうだ。僕は完全にこれが恋心、嫉妬心だと理解していた。そう考えた僕はリーフェに思いを告げることを決めた。まだまだ未熟な彼女を世界・男という脅威から守るために。
元武人奴隷であった彼ら三人を拠点のベッドに休ませてあげたあと、リーフェを散歩に誘ってみた。そしていつもの通りに「了解しました」と言う。意識してみると本当に可愛らしい。僕は、この散歩でリーフェに告白する。そう決意して一歩一歩進んで行った。
やはり美少女というものは恐ろしい。よからぬ輩がどんどん近寄ってくる。彼女の知らないうちに僕は数百人ほどの小童どもを追い払った。本当にやれやれである。しかし、彼女の潜在的な実力からして今現在彼女を守れるのは僕しかいない。感情論とか色々抜きで考えたらそうなった。しかし、それらを全部抜いても彼女を狂おしいほど愛している。この想いは変わらないのだろうという思いを持ちながら、リーフェと雑談をしながら歩いて行った。
夕方、フレオで一番見渡しのいいところにやってきた。所謂隠れ名所というものなのだろうか、町で知られている場所以上に見渡しがいい。フレオ全体を視界に収めれていて、夕方だからか所々で明るくなっている。
「綺麗...」
リーフェは無意識に言葉を漏らした。それだけ綺麗だったのだろう。よかった、気に入ってくれたようだ。
「ああ、綺麗だね。ここは...」
さて、お互い感嘆に浸っているところで、切り込もうと思う。
「リーフェ、ここまでくるのに視線を感じなかった?」
「?はい...いっぱいこちらを見つめてきて、怖かったです...」
やはりか。気づいていたとはいえ、結構怖い思いをしていたようだ。
「そうか...でも、これからは僕が守ってあげるよ」
「ふぇ...?」
リーフェが少し驚く。僕は間を開けて、ついに言った。
「リーフェ、好きだよ」
「....?」
「だから....付き合ってくれないかな?」
「.....?」
あれ?リーフェからの返事がない。
「リーフェ?」
「....!!ぁぅああぉあぁあぁあぁぁぁ...」
ああ、思考が止まってただけか。今全てを理解したみたいだ。頭から湯気が出ている。でも...
「リーフェ、君は僕が守る。だから、付き合ってくれ」
「ふぇぇぇ...そんな、私なんかが...」
「君じゃないとダメなんだよ。だから、付き合ってくれ」
「で、でも...私...迷惑を...」
「迷惑なんていくらかけてもいいんだよ。僕もそんなことは気にしないさ」
「ええぇぇぇぇぇぇぇ....」
ああ、泣いてしまった。何の涙かは彼女しか知らない。しばらく泣きじゃくったあと...
「...こんな私でよければ...」
っしゃぁ!内心ガッツポーズ。リーフェと付き合うことになりました。
彼女と手を繋ぎ、帰路に着く。
一生、死んでも、二人きりになってでも、僕は、彼女が自ら差し出してきたこの手を、一生離さない...
そう、僕は誓った。
夜。付き合い始めていきなりなんてそんな論外なことはするわけもなく、だが僕とリーフェは同じ布団で寝た。彼女の温もりを間近で感じられ、幸せで満たされる。そんな気分だった。彼女も同じ気持ちだったらしく、とても幸せそうな顔で僕の腕の中で眠っている。
願わくば、この旅が終わっても、こんな幸せな生活が続きますように...
朝。ルナに付き合っていることがバレた!
だが僕達は隠す気もない。
しかしルナにとっては意外だったらしい。
なんでだよ。
「そのー...リーフェさん、いた『よーしリーフェ、朝飯を食べに行こう』...まあいいですよーだ」
危ない危ない。リーフぇとはいずれ致したいが、今はその時ではない。というかこんな時にするのはバカの極みである。ルナにそんな質問をされぬよう見張っておかねば...
苦労するなぁ...
***
「そういえば、三人の名前を聞いていないな。名前、覚えてる?」
「はい」
「お、覚えてます...」
「....はい...」
僧侶さんの声が小さい。なにかあったのか...
「じゃあ、自己紹介だ。僕はレンジス。『再び彼の地で蘇る』のパーティーリーダーを努めているよ」
「り、リーフェです...」
「あたしはフェリス。んで、こっちの覇気がないこいつが...」
「覇気がないって...まあ確かなんだけどね。えっと、オルンです。よろしくね」
おっと、オルンのスマイルに女子二人がノックアウト!こりゃ惚れたな。さすが特殊スキル女たらし。
「わ、私は、あ、アリしゅ...」
噛んだ。あわあわしてる。かわいい。そんな生暖かい視線を向けているとアリスが、
「見ないでくださぃぃ...」
緊縮してしまった。あらら。恥ずかしすぎたのかな。
「まあ、この恥ずかしがり屋がアリスだよ。人見知りだけど仲良くしてあげてね」
元奴隷たちの気持ちもほぐれたことだろう。
「えっと、僕はレイアです。でこっちが妹の...」
「サクラよ。わからないことがあったら何でも聞きなさいよね!」
「それでは、私たちはこれから何をすればよろしいですか?」
「レンジス!!説明なさい!!」
清々しいほどの丸投げである。
「ははは、それで君たちには僕達のパーティーメンバーとして活動してもらうことになる。もちろん然るべきポジションについてもらうよ」
「「なるほど」」
「...」
無言で頷く僧侶ちゃん。おっとまだ名前を聞いてないな。
「そういや名前をまだ聞いてなかったね。それぞれ言ってくれるかい?」
「僕はフラスだよ」
「わ、私は、カレナで、です...」
「...リエル...」
「フラス、カレナ、リエル、ようこそ。『再び彼の地で蘇る』へ」
こうして新たに三人のメンバーが加わった。
そしてパーティーは連携を確認・各自のポジションを固めるため、依頼を受けにギルドに行った。
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「だぁぁぁ!!疲れる!!」
男は言った。
「はあ、マジで人使い荒いって、あの人...」
「でも、まあ、大丈夫か」
そして男は笑みを浮かべる。
「まあ、せいぜいいい演技を見せてくれよ、稀代の魔法師くん...」
短め。




